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心理学ライフ

ゆるゆる続けている私の趣味

谿 雄祐
金沢大学先端科学・社会共創推進機構 URA

谿 雄祐(たに ゆうすけ)

Profile─谿 雄祐
東京大学大学院人文社会系研究科修了。博士(心理学)。東京大学インテリジェント・モデリングラボラトリー研究員,豊橋技術科学大学研究員などを経て現職。専門は視覚心理学。著書に『美しさと魅力の心理』(分担執筆,ミネルヴァ書房)。

 

金沢大学でURA(University Research Administrator)をしている谿と申します。URAは科研費など競争的外部資金の申請書作成の支援や,研究プロジェクトのマネジメントで研究者と関わることが多いかと思います。本稿で紹介する釣りだけでなく,URAという職業にも興味を持っていただけると幸いです。

コロナ禍の初期に,屋外で密を避けることができる遊びとして釣りがブームになっているという報道がありました。狭い間隔で並んで釣り糸を垂れる多くの家族が映った映像は,密を避けつつ楽しもうという動機とは矛盾した皮肉なものでした。しかし,釣り場が密になることは珍しいことではありません。例えば,秋から年末にかけて大阪湾に面する関西各地の防波堤には,平日の早朝でもタチウオ目当ての釣り人が殺到します。日の出前後の時間帯は朝マヅメと呼ばれ,魚がよく釣れるのです。

私が釣りを始めたのは十年ほど前,愛知県豊橋市にある豊橋技術科学大学で博士研究員をしている時でした。学生が誘ってくれたのがきっかけで,マイカーの購入と釣具屋が家のすぐ近くにあったのが決め手でした。新しい余暇の過ごし方を模索していた私には,釣りの難しさがちょうど良かったのでしょう。深夜や早朝に車で近くの漁港に出かけるようになるまでに,そう時間はかかりませんでした。結婚して豊橋を離れた後は釣行の頻度こそ下がりましたが,釣りは今も私の趣味です。

ここからは,「ちょい投げ」という種類の釣りについて紹介したいと思います。名前から想像できると思いますが,ちょい投げは道具,環境,技術といったコストの低い釣りです。

使う道具は竿,リール,錘(おもり),仕掛けです。どれも高価なものでなくても大丈夫ですが,安すぎる竿とリールは使い心地が悪いかもしれません。餌は青イソメやイシゴカイです。ムシと呼ばれますが,環形動物です。海老で鯛を釣るという諺がありますが,小さい鯛ならムシ餌でも釣れます。生きたエビはムシより高価で管理の難しい餌なので,私は使いません。

道具のセットの仕方や使い方は紙幅の都合上省略します。論文を探すより簡単に検索できるはずです。錘が着底したらリールを巻いて糸を軽く張った状態で魚を待ちます。待つ間は景色を眺めていても,竿先を注視していてもいいのですが,私は釣り竿を動かして餌を少しずつ引き戻しながら魚を探ります。視覚だけでなく触覚も動員した方が,魚のアタリを検出できる(ヒット率が上がり誤検出率が下がる)と思っています。

アタリはモソモソ,コンコンなど様々なオノマトペで表現されます。また,魚種によって異なるので,アタリを感じて魚種を想像するのも釣りの楽しみの一つです。アタリかな,と思ったときは竿を少し動かしてさらなる反応を待ちます。これを「聞く」といいます。音はしませんが振動を検知するという点は聴覚と同じですね。

反応があったら,今度は竿を鋭く小さく動かします。鉤を魚に刺す(かける)ための動作で,アワセといいます。アワセを入れなくてもすでに魚がかかっていることもあり,これを向こうアワセといいます。魚を鉤にかけたら,後は一定の早さでリールを巻いて魚を釣り上げます。ここで魚に逃げられることを「バラす」といいます。大変悔しいものですが,それも釣りの楽しみと思いましょう。

最後に,私が思う釣りの良い所と悪い所を紹介します。釣りは知的好奇心をくすぐります。釣具屋には謎の道具がたくさん並んでいるのです。夜釣りをすれば暗順応を体感できます。釣れた魚はおいしいです。料理も上達します。

一方,釣れるのはおいしい魚ばかりではありません。食べることができないフグや素手で触ると危険な生き物も釣れます。しかし,私にとって最も厄介なのは,手ぶらで近づいて来て,「釣れんだろ」と話しかけくるおじさんです。

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