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私の出前授業

SNSと連動したオンライン出張講義の広がり

今井 正司
川村学園女子大学 教授/早稲田大学 応用脳科学研究所 招聘研究員

今井 正司(いまい しょうじ)

Profile─今井 正司
早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員,早稲田大学応用脳科学研究所を経て現職。専門は臨床心理学(認知行動療法)。著書に『インスタントヘルプ! 10代のためのマインドフルネストレーニング』(監修, 合同出版)など。

コロナ禍の影響によって,講演会や研修会などのスタイルが大きく変わったように思います。これまでの対面式からオンライン式に切り替わることで,講師としても受講者としても多くのメリットを私自身も感じています。特に,本来であれば遠隔地で開催される講義に気楽に参加できたり,見逃し配信などを利用しながら自分のペースで学べたりする点は大きなメリットだと感じています。このコーナーでは,これらのオンライン講義のメリットを意識した活動として,私が最近力を入れているSNSと連動したオンライン出張講義について紹介させていただきます。

SNSとオンラインで広がる多様な受講者層

私はTwitterを私的な呟きをするために使用していましたが,コロナ禍の状況が長引いている状況を機に使用目的を大きく転換しました。具体的には,オンライン研修会などの講義で使用したスライドなどを投稿しています。この活動を始めた時は,コロナ禍におけるメンタルヘルスや子育ての問題が深刻化していました。私なりにできる活動は何かを考えた結果,これらの問題解決のきっかけとして,臨床心理学の情報を取り入れていただけるような情報公開をTwitterやnoteなどのSNSに投稿し始めました。投稿を続けていると,これまではご縁が少なかった中高生やご高齢の方など,幅広い年齢層や他職種の方に少しずつ興味をもっていただけるようになり,個人でもワークショップを企画・実施させていただけるようになりました。これまで臨床心理学の情報を届けることが難しかった方々にも情報を共有してもらえるようになったことは大変喜ばしいことです。

Twitterに公開しているスライドの一例(アカウントは@Imai_Shoji)
Twitterに公開しているスライドの一例(アカウントは@Imai_Shoji)

Twitterに公開しているスライドの一例(アカウントは@Imai_Shoji)

また,専門機関や自治体で実施される研修会においても大きな変化がありました。毎年,研修会をさせていただいているある自治体では,オンライン研修会に移行したことで,受講者数が3倍になったとうかがいました。会場までの移動距離や時間的な制約がオンラインによって緩和したことで,多くの方に参加していただきやすくなったのだと思います。主催者側としても数百名分の受講者を収容する会場設置や資料準備を行う負担が軽減されている点はメリットのように思います。メリットの部分をさらに高められるように,私が講師をつとめる研修会では,ご依頼をいただいた自治体や施設機関の特設Webページを専用に作成し,見逃し配信の動画をダイジェスト版として再録画したり,SNSなどで公開した情報と連動できるようにしています。研修会ではどうしても概略的になってしまう部分もありますので,SNSで公開した資料を補足資料としてご参照いただきながら,より深い学びにつなげてもらえるように工夫をしています。

オンラインの強みを生かした講義

私がオンライン講義で最もメリットを感じているのは,実験的な体験をしてもらえることです。私が担当する講座や研修会は,注意機能やメタ認知などの認知機能の観点からアプローチするものが多いので,認知機能の状態を体験的に理解できることは重要な意味をもちます。対面式の講義では,数名の代表者に体験してもらっていましたが,オンラインでは希望者全員が体験できます。これまで反響が大きかった実験的な体験としては,(事前に用意していただいたイヤホンの)右耳と左耳から別々の音(数唱)が流れるように設定されたものを聞き分ける両耳分離聴課題や,聴覚刺激を用いたマインドフルネス(注意訓練法)のエクササイズなどがあります。また,オンライン講義のメリットとして,私が特に嬉しく感じるのは,質問や感想をたくさんいただけることです。対面式の研修会においても,質問の時間はありますが,研修会の規模が大きくなるほど,研修会の時間内における質問は少ない印象をもっています(研修会終了後に個別の質問を多くいただきます)。オンライン式の研修会では,チャット機能を通じて,その場で質問を受けとれますし,気楽に質問していただける点は大きなメリットだと感じています。

SNSと連動したオンライン講義の課題と展望

これまでご紹介したメリットにより,今後はコロナ禍の状況が落ち着いても,オンライン講義の需要は増してくるのではないかと思います。オンライン講義の他にも心理学に関する動画配信は増えており,自身もYouTubeなどを視聴し,動画の内容とともに技術的なことを学んでいます。たとえば,字幕をつけるということや,スライドなどの提示方法に関する編集のスキルについては,早急に解決したい課題だと感じています。これらの課題を改善していくことはもちろんですが,それとは別に,今後挑戦したい活動課題もあります。それは,子どもたちに心理学の知識を知ってもらう活動です。私は学校現場や子育て支援の現場で活動することも多く,支援している子どものために心理教育の動画を個別に作成することがあります(主にマインドフルネスのトレーニング動画を作成しています)。コロナ禍でのオンライン支援がきっかけでしたが,動画での心理教育に一定の手応えを感じています。支援に直接関連する知識だけでなく,社会心理学などの知識にも興味をもってくれる子どもは多く,楽しんでくれている印象です。現在は個別に公開している活動ですが,一般公開できるように,これからもSNSと連動しながらオンライン支援を続けていきたいと思います。

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