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私のワークライフバランス

結局, 何が大変?

神戸大学大学院国際文化学研究科 教授

松本 絵理子(まつもと えりこ)

Profile─松本 絵理子
2000年に京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士(人間・環境)を取得後,情報通信研究機構にて特別研究員,2005年より神戸大学国際文化学部准教授を経て現職。専門は認知心理学,神経心理学。

お子さまの生活リズムに合わせながら「タイムリミット」がある中で仕事や体調を管理する大変さを乗り切ってこられた松本絵理子先生。研究生活とのバランスをどのようにとられてきたのかを語っていただきました。

日本心理学会の男女共同参画企画に参加し,短い時間でしたが研究者同士でワークライフについて話し合う機会を得ることができました。参加前には,子育て期の方が多いのではないかと思っていましたが,実際には参加者のライフステージはさまざまでした。どのようにワークライフのバランスを取れば良いかに対しては,異なる世代・職種の研究者に共通する関心事であると思います。この会で先達のお話を伺え,若手世代の方の感じている事などを知り得たのは貴重な機会となりました。これをきっかけに,一人の研究者のワークライフの例として,特に子どもが小さい頃にどんなことに難しさを感じてきたのかを振り返ってシェアしたいと思いました。こんな人もいるんだな,くらいで読んでいただければ幸いです。

我が家の構成は中学生になった娘,同業者の夫,私の三人です。職場には子育て中の研究者も居り,比較的理解を得られやすい環境です。しかし,それでも大学教員としての仕事と研究を進める上で“大変だ…”と思うことは多々あります。その中でも特に負担が大きかったのは,時間,体調,出張です。

日常的には,常に時間が足りないことがまずは問題です。もちろん忙しく時間が足りないのはどのような状況の方でも共通であると思います。ただ,子育て中の場合は一日のリミットが明確で,ともかく夕方までで一旦終わらせないといけない状態が何年も続く,という点が特徴的かもしれません。このため夕方以降に開催されるセミナーや会合などの参加は難しかったですし,夕方に,調べものや簡単な打ち合わせなど,少しの“今,必須ではないこと”をする時間がバッサリなくなったのは想像以上に痛手であったと思います。さらに盲点であったのは,自らの体調管理が必要ということでした。特に赤ちゃん時代にはどうしても夜中に何度も起きてしまうので,まとまった睡眠が取れず寝不足が続いて体調維持が難しい時期がありました。親子共々健康であるという前提でフルに回すつもりでいると不測の事態に対応できないため,マージンが必要であることを痛感しています。数年前までは授業開始直前に保育園や小学校から電話がかかってきて1時間以内に迎えに行かないといけないなどもよくありました。子どもが0歳の頃には受診後そのまま入院,ということもあり,病室のベンチで寝て,翌朝そこから授業に行ったこともありました。また,宿泊を伴う出張をどうするかということも問題の一つでした。やむを得ず子どもが小さいときには学会等も子連れ参加をしていました。学会の育児サービスを上手く利用できないときには,大会会場付近の一時保育施設を検索し,アポイントの電話を沢山かけたこともありました。ただ,徐々に日本心理学会以外の学会でも育児室を設けて下さるケースが増えていき,連れて行きやすい環境は年を追うごとに整っていたように思います。特に大学施設が会場の場合には,オムツ替えや授乳スペースがないことが多いため,学会のサポートによる育児室の設置やシッターサービスには助けられました。学会参加が難しい時期もあるかもしれませんが,オンライン参加や育児室・シッターサービスなどによって,少しでもハードルが下がると良いなと思います。最初の頃は会場に子連れで行くことに気が引けて,他の参加者の邪魔になってしまうのではと不安ばかりでしたが,良い意味でスルーしていただけたり,子どもに話しかけて下さったりで本当に案ずるより産むが易しでした。また同じように子連れで来られている研究者の方とも交流できて,それも得難い機会となりました。

“大変”の種類も量も多く,一つを乗り越えると次の壁がやって来るような毎日ですが,それでも子どもと共に歩むライフはやはり楽しいですし,子どもの発達過程を並走しながら見ることができて多くの気付きもあります。子どもが育つにつれて“大変”の内容は変化していきますので,バランスの微調整を繰り返していきたいと思います。

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