公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

ここでも活きてる心理学

こころの声に耳をすませば

鹿児島刑務所 薬物事犯者処遇カウンセラー

鍋島 まゆみ(なべしま まゆみ)

Profile─鍋島 まゆみ
大淀学園鵬翔高等学校看護専攻科で看護教員をしながら更生保護にも携わっている。2018年,宮崎大学大学院看護学部研究科修士課程修了。専門は精神看護学。2021年,認定心理士(心理調査)取得。

認定心理士の会オンライン再現イベントでの発表(2020年6月13日)
認定心理士の会オンライン再現イベントでの発表
(2020年6月13日)

私が看護教員として勤務しながら更生保護に関わるのは,「なぜ,同じ人間なのに非行や犯罪に走ってしまうのだろうか」という思いがあるからです。先輩保護司の勧めで,法務大臣の委嘱により宮崎保護観察所の保護司になりました。保護司は,保護観察中の対象者への立ち直りのサポートや刑事施設に収容中の方への釈放後の生活環境調整の支援をします。64歳になり大学院で薬物依存と看護に関連する修士論文を書きつつ,薬物事犯者処遇カウンセラー(鹿児島刑務所)・篤志面接委員(宮崎刑務所)として施設内処遇にも関わるようになりました。しかし,私の仕事を考えると統一感がなく自信が持てませんでした。大学院を修了後,「認定心理士として力をつけるには?」と悩みもしました。なぜなら,更生保護に関する仕事は明確な成果が見えず,他者評価もなく,手探りの状態で常に自分の課題に向かいつつ,自己研鑽あるのみだからです。今回,シチズン・サイコロジスト奨励賞をいただき,認定心理士(心理調査)として更生保護に関わっていることを評価していただき,ようやく,「私らしい仕事」をしていると実感しました。そこで,私の携わっている更生保護に関する活動や学びをご紹介いたします。

保護司は非常勤の国家公務員の立場ですが,ボランティアです。面接の対象者は約束の日時が守れず,連絡がつかず,保護観察中に一貫した指導に至らない方も多く見られます。ある方は,10年来,施設に収容される度に私に出される手紙が30通を超えました。「いつかはきっと」と願いを込めて,毎回返事を書きますが,更生するまでには至っていないのが現実です。その一方で,わずかですが家族の支援もあり,保護観察が終了し更生して社会生活を営んでいる方もいます。

篤志面接委員としては,刑務所では「被害者の視点を取り入れた教育」の授業を担当し,「命の尊さ・謝罪・責任と義務・更生とは」など,対象者の年齢・理解力・罪名などさまざまな状況を鑑みながらグループワークをします。数年前,運動会で景品係をした時に,一期一会と思いつつ気になっていた対象者に一瞬だけ会えました。その方の目の輝きから「アイコンタクト」のすばらしさを実感しました。「目は口ほどにものを言う」,まさにこの言葉通りでした。景品の受け渡しの数秒間で「頑張ります」との声が聴こえた時にはこころがふるえました。

薬物事犯者処遇カウンセラーとしては,30分の面接で薬物事犯者の実感のある言葉を聴くことができます。数々の課題を抱えながらの生きづらさ,苦しさ,断薬努力,断薬経験,家族への思いなどを聴くことは私自身の学びにもつながっています。刑務所で私語禁止の彼らにとって,「この時間の会話は処罰の対象とならない」と保証すると,あふれんばかりに自分の思いを話されます。時間を惜しんで話される対象者の言葉の重みは,私にとっては活字では味わうことができない生々しいうめき声に聞こえます。「話をして自分の考えが整理できた,相談してもよいことがわかった」とアイコンタクトを取りつつ,何度も振り返り,すがすがしい表情で面接室を後にされる対象者の後ろ姿に,今後の幸せを祈らずにはおられない私です。

月3回往復4時間の通勤ですが,これからも,彼らにエールを送りながら,試行錯誤の面接を続けていきたいと思っています。常に目の前にいる「一人の人」のこころや言葉が,私の師であることを忘れない謙虚なこころを持ちながら。

PDFをダウンロード

1