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心理学ライフ

瞑想ライフのススメ─ココロ豊かな日常生活のために

中尾 将大
大阪大谷大学人間社会学部 嘱託講師

中尾 将大(なかお まさひろ)

Profile─中尾 将大
専門は学習心理学・行動科学。博士(学術)。著書(いずれも分担執筆)に『心理学実験ノート第6版』(二瓶社),『仏教と心理学の接点』(法藏館),The empirical study of the psychology of religion and spirituality in Japan(Elim Grove Publishing)など。

私の専門分野の一つは行動科学です。これまで,さまざまな行動を研究してきました。その中に宗教的行動が含まれます。私は研究の過程で仏教と出会いました。仏教の修行法の一つに瞑想がありますが,「瞑想」も行動科学の観点から研究しています。研究対象を理解するために私自身も体験する必要があると思い,瞑想を始めました。もう10年以上,朝と晩に実践するようになりました。心理学でも「マインドフルネス」として有名になりましたが,実に精神的健康に良いものと実感しています。

仏教は開祖ゴータマ・ブッダが老・病・死に代表される人生の苦しみをどう解決すべきかを目的として修行を始めたことに端を発しています。心理学においても人間の苦悩をいかに解決するのかがテーマの一つであり,共通項を見出しています。元々,仏教は一般的な宗教とは異なり,何か超越的な存在を信じなさいとは説いてはいません。人生の苦悩と向き合い,苦悩に振り回されない自己を形成するという,いわば「自己変容」「自己成長」の教えです。ここも行動分析学における「セルフコントロール」と似ていると思います。以上から仏教は元々,非常に科学的な教えであると考えられます。私は科学的思考に重きを置く現代人にとても合致した宗教ではないかと思っています。

私的見解ですが,私は瞑想の目的の一つは精神的な安寧を得ることだと思っています。普段の生活の中で我々はさまざまな出来事と出会います。嬉しいこと,楽しいこと,嫌なこと,悲しいこと,腹立たしいことなど。その度に我々の精神は動揺します。嬉しいことがあると調子に乗って有頂天になります。腹立たしいことがあると怒りに打ち震えます。悲しいことや理不尽なことがあると気落ちしてしまうことでしょう。まさに,ライフイベントに我々は振り回されているのかもしれません。仏教ではこの精神的動揺こそが苦しみの原因の一つであると説いています。あらゆる諸現象に振り回されないためにはどうすれば良いのでしょう。ブッダはその答えをすでに解き明かしているのです。まずは目を閉じます。そうしますと,一切が消えてしまいます。物理的な事象から自らを離脱させる簡単な方法です。次に呼吸に意識を集中します。目を閉じてもさまざまな雑念が浮かんできます。その雑念から注意をそらすために自らの呼吸と鼻に意識を向けるのです。もちろん,雑念に引っ張られてしまうこともありますが,ある程度のところでまたゆっくりと呼吸に意識を向けるのです。経験を重ねることで頭から簡単に雑念を払うことができるようになります。曹洞宗の祖,道元禅師は坐禅について「只管打座(しかんたざ)」と申されています。すなわち,身も心も一つにしてただ座ることであるという意味です。瞑想が深まると,ぽっと,何かいま自分が存在する環境から抜け出たような感覚に襲われることがあります。ただ,今・ここに存在するだけという状態になることがあります。すると,普段の諸々の囚われやこだわりから解放され,何とも清々しい気分になるのです。筆者は俗人ですので「悟り」という崇高なことは申しませんが,このような精神状態は少なくとも,精神的動揺からは解放されていると思うのです。

このような体験を繰り返すと,生活に変化が訪れます。まず,物事に動じなくなります。少々のことで取り乱したり,慌てたりしなくなりました。また,自己を客観視できるようになります。自己に関わるライフイベントについて,瞑想をする前は自分が損をするか得をするかで判断をしていました。しかし,個人的なライフイベントについて自分のことをまるで,他者を見るような感覚で捉えるようになりました。いわば,「自分であって自分でない」ような感覚ですね。たとえ,一瞬,精神的に動揺しても呼吸を整えることで即座に落ち着きを取り戻せるようになりました。まるで,火が起こってもすぐに水で消せるようなものですね。以上から,自らの置かれている状況に関わりなく精神的に安定している自己を発見できると思います。

瞑想法はさまざまあります。ご自分に合った方法を選択されるといいでしょう。瞑想を通じて,読者の皆様にも精神的に豊かで穏やかな生活が訪れることを願っています。

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