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ここでも活きてる心理学

美容×心理学

一般社団法人 日本 顔・印象コンサルティング協会 代表理事 i.d. Producing Studio主宰

九島 紀子(くしま のりこ)

Profile─九島 紀子
美容師として初めて博士(心理学)の学位を取得。研究成果と長年の現場経験から生み出された顔・印象理論,メソッドを構築。美容師・ヘアメイク・メイク講師のほか,大学にて心理学を教えている。

私の職業は,美容師,メイク講師,心理学講師と年々増えてきていて,最も長い美容師歴は間もなく30年となります。その美容師としてロンドンで勉強をしていたころに心理学と出会い,きっと仕事の助けになるだろうと帰国後,仕事をしながら大学へ通いました。大学卒業時に起業し,その際にメイク講師としての活動も始め,徐々に美容従事者向けの講師業も行うようになっていきました。その中で,自分自身も含め,美容師さんやメイクさんは感覚で技術を行っていることがとても多いということ,なぜそうするのかということを言葉にできないということがわかってきました。そこで,私たちが感覚で行ってきていることの裏付けを得るために大学院へ進学することにしました。

大学院では修士・博士課程を通して,顔とメイクの印象形成について研究を行いました。例えば,A,B,Cという顔があった場合,それぞれどのような印象の顔なのか,さらにそれら顔をD,E,Fという印象にするためにはどのようなメイクをしたらよいのか,こういった研究を主として行ってきました。研究を重ねるごとに,私たちのやってきたことは間違っていなかったと感じることができ,嬉々として結果のデータを見たこともありました。これまでやってきたことを数値化できたことで,より自信をもって技術の提供ができる,それを同業者に伝えることができる,ととても嬉しく思いました。さらに他学会ではありますが,この研究の関連論文が学会賞を受賞した際には,美容の仕事にお墨付きをいただけたようで大きな励みとなりました。

私たち美容従事者の多くは,顔の特徴や印象を瞬時につかみ,ヘアメイクなどにより希望する印象へ変化させることを得意としています。感覚的,経験的にできるのです。しかし上述の通り,なぜそうするのかということを言語化することは難しく,ヘアメイクなどの施術対象者への十分な説明ができないという問題がありました。それを数値化していくことによって,Aという顔は○○な特徴をもち○○な印象なので,Dという印象にするためには眉は△△に描く,アイラインは△△に描く等,言語化することができ整理することができるようになりました。それにより私たちは施術対象者への説明が容易となり,技術者と対象者のイメージの齟齬をなくしていく助けとなっています。心理学で得られた示唆は,私たちの感覚や経験値を支持し多くの美容従事者に自信をもたらしてくれています。そしてこのことが多くの女性の美に繋がっていってくれたらさらに嬉しく思います。

また大学等での心理学の講師としては,実務家教員だからこそ伝えられることは何かということを考えながら授業作りをしています。私たちが学んでいる心理学がこんなにも身近なところで役立てられているんだということを,学生に知ってもらいたいなと思っています。

このように,美容師,メイク講師,心理学講師と三足の草鞋を履きながら,現在も細々とではありますが研究も続けています。研究したことを現場に落とし込めるように,そしてまた現場での疑問や問題を研究に反映させ,そしてまた現場に戻す。これからもそのサイクルを止めることなく続けていきたいと思っています。

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