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私の出前授業

睡眠教育の重要性─知識を行動,習慣に

田中 秀樹
広島国際大学健康科学部心理学科 教授

田中 秀樹(たなか ひでき)

Profile─田中 秀樹
広島国際大学健康科学部長,心理科学研究科長。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員PD,国立精神・神経センター精神保健研究所特別研究員,広島国際大学心理学部教授,心理学部長などを経て現職。専門は精神生理学,睡眠改善学。編著に『快眠研究と製品開発,社会実装』(NTS),『睡眠検定ハンドブック』(全日本病院出版会)など。

睡眠教育の重要性

健全な発達,脳や心身の健康と密接に関係する睡眠の確保は,重要な生活課題です。睡眠の不足や悪化は,感情コントロール,学習・記憶,免疫機能等を低下させます[1]。また,平日と休日の起床時刻のずれが2時間以上の人は,日中の眠気や疲労,イライラが多く,成績が悪化していることも報告されています[2]。一方,不登校のタイプは多様ですが,リズム障害という観点でみれば,6~8割が共通しています[3]。学校現場においては,睡眠教育をおこなうことが現実的かつ重要です。今回は,学校での睡眠教育を中心に紹介いたします。

睡眠改善に必要な知識

睡眠教育では,まず,睡眠改善に必要な知識を○×クイズ形式で伝えています。クイズとその解説を以下に示します[1]

①よい寝つきには体温が下がることが大切?

人は体温が下がるとともに眠ります。リラックスしていると手足が温かくなって(頭寒足熱),手足から体の中の熱を外に出しやすくなるので,体温が下がりやすくなります。寝つきや睡眠の質もよくなります。疲れたら眠れると勘違いして,寝る直前に体温を上げる激しい運動をするのはよくありません。寝苦しい夏は頭や首筋を冷やす工夫も効果的です。

②朝起きてすぐカーテンを開けないほうがよい?

太陽の光を浴びることで,脳にある時計が調節されます。朝起きたら,まず,カーテンを開けましょう。また,朝ご飯をたべることで,腹時計がセットされます。朝起きたら,太陽光の入る明るいところ(窓際1メートル以内)で朝食をとり,体のリズムを整えることが大切です。

③休日は午後まで眠るのがよい?

寝不足を解消するために,朝遅くまで寝ていることは,体のリズムを狂わせる原因となります。寝つきも遅くなり,月曜日は寝不足で体調もよくありません。休日もいったん平日と同じような時間に起き(難しい場合は,平日との差2時間以内にとどめましょう),太陽光の入る明るいところで朝食をとりましょう。昼間,眠い時は短い昼寝をするとよいでしょう。リズムを狂わさずに,睡眠の不足を補うことがポイントです。

④帰宅後,夕方眠くなったら寝たほうがよい?

夕方の居眠りは,眠れる時間を遅くします。また,眠るためのエネルギーを無駄使いするため,寝つきや睡眠の質を悪くします。夕方以降は居眠りをしないように心がけましょう。夕方から就床前は,夜間眠りたい時間と同じ時間ほどしっかり覚醒し続けておくことが大切です。たとえば,夜22時から7時間しっかり眠りたい人は,22時より7時間前の15時以降は仮眠をとらず,しっかり起き続けておく必要があります。夕方以降にとられる長い仮眠は遅寝を促進するばかりでなく,眠りを浅くします。眠い時は,昼休みや授業の合間を利用して短い仮眠をとりましょう。

⑤寝る前にはコンビニ等,明るいところへ行かないほうがよい?

眠る前に明るいところへ行ったり,寝る直前まで強い光を浴びたりしていると,脳の興奮が高まって眠りにくくなります。また,明るすぎると,脳がまだ夜ではないと勘違いし,眠りを安定させるメラトニンも出にくくなります。パソコン,スマートフォンやゲーム機などの画面には,ブルーライトという440~490ナノメートルの波長の青色光が含まれているものもあります。寝る前に強い光を浴びると,メラトニンが出にくくなり,体内時計のリズムが後ろにずれてなかなか眠りにくくなります。寝る1時間前には部屋の明かりを半分に落としたり,間接照明に切り替えたりするなど工夫をしましょう。

生活リズム健康法の活用:行動してなんぼ!

睡眠教育においては睡眠改善のための知識と睡眠に重要な行動,習慣を結び付けることが大切です[1]。それには,表1の生活リズム健康法(生活リズムチェック)が大きな役割を果たします。活用方法についてですが,まず,表1の中で,すでにできている項目には○,できていないが頑張れそうな項目には△,頑張ってもできそうにない項目には×で回答します。頑張れそうな項目(△)から目標を選び,2週間実践してみましょう。△がないときは○から選びましょう。「行動してなんぼ!」,今の生活の中で無理なく続けられそうな項目(△)を目標にすることが大切です。選択する目標数は,小中学生は1つ,高校生以上は3つ程度。自分が改善目標として選択した項目(△)を1つでも改善させることで,悪循環から抜け出すための糸口になります。学校や地域での睡眠教育が睡眠や眠気,QOLの改善に有効であることが確認され,そのノウハウも公開されています[1]

表1 生活リズム健康法
表1 生活リズム健康法

学びを実践,社会で活かす

一方,本学科では,「睡眠改善学」という実践型の授業を展開しています。その学びで得た知識と技術は,小中学校での睡眠授業や地域の健康教室での講義,地域での健康まつり等での快眠アドバイスに活かされています(図1)。在学中に「睡眠改善インストラクター」の試験に合格し,観光旅行,インテリア,住宅,生命保険,寝装具,食・美容関連企業や施設(児童,高齢者),病院に就職している学生もいます。

図1 大学生による小学校での睡眠授業(左)と,地域での快眠アドバイスの様子(右)
図1 大学生による小学校での睡眠授業(左)と,地域での快眠アドバイスの様子(右)

文献

  • 1.田中秀樹・宮崎総一郎(編) (2020) 『ストレスチェック時代の睡眠・生活リズム改善実践マニュアル』全日本病院出版会
  • 2.田村典久他 (2019) 「平日と休日の起床時刻の乖離と眠気,心身健康,学業成績の低下との関連」『心理学研究』90,378-388.
  • 3.福田一彦 (2003) 「教育と睡眠問題」高橋清久(編)『睡眠学:眠りの科学・医歯薬学・社会学』(pp.89-96)じほう

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