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常務理事会から
知を持ち寄る場での国際協力
新型コロナウィルスの感染拡大から約2年半が経過し,国境を超えることはもとより家族や友人と会うことすらできなかった世界は,この半年ほどで急速に開かれ始めてきています。海外の学会は対面やハイブリッドによる開催が再開され,私も6月にコロンビアで開催されたサミットへの参加から本格的に海外出張を再開しています。国内外の同僚に会う機会が一気に増え,直接会える嬉しさを噛み締める中で,世界ではコロナ後の社会の創生に向けて人の往来が始まっていることを感じます。
2022年6月,コロンビアのボゴタでGlobal Psychological Allianceのサミットが開催されました。日本心理学会も参加しているGlobal Psychology Allianceは,2019年11月,アメリカ心理学会とポルトガル心理学会が中心となり,心理学の立場から世界が協働し気候変動の問題解決に貢献するために立ち上げられ,70を超える国・地域・国際の心理学会が一緒になり心理学を使って人々のウェルビーイングを促しながら,地球規模課題の解決に取り組む活動をしています。しかしながら始動直後にパンデミックが起こったためオンライン会議に切り替え,気候変動への対応からコロナ関係の議題を中心として活動してきました。コロナ禍が少し落ち着いた今回のサミットではSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標のうち,「3 すべての人に健康と福祉を」「10 人や国の不平等をなくそう」「13 気候変動に具体的な対策を」に焦点を当て,心理学からできる貢献について議論しました。
世界には,一ヶ国だけでは対応しきれなかったり,一ヶ国だけで対応しても非効率であったりする課題が山積しています。また,世界がグローバル化する中で,より多くの課題が地球規模となってきています。経済資源のみならず知的資源も限りがある中で,より効率よく,より効果的に,それらの課題と向き合い解決を目指すためには,世界が一丸となり手を組むことが必要です。心理学は,世界レベルで対応できること(人類共通の対応策)と各国や各社会レベルで対応した方が良いこと(文化・文脈に配慮した対応策)についても,これまでの知見の蓄積が示唆をくれるため,地球規模課題の解決を目指す上でとても重要な学問であると言えます。
このように心理学の「国際化」は,海外から知識を取り込んだり海外に知識を送り込んだりする国際化から,世界が知を持ち寄る国際化に,大きく形を変え始めています。その理由の一つに,今までであれば,議論の場に参加できる資源を持つ国,言い換えると参加のための旅費や時間や人を費やせる国だけで決められていたことが,オンラインプラットフォームの急速な発展により,より多くの国や人が参加できるようになり,より多様で見過ごされがちだった視点が持ち込まれるようになったことがあると考えます。
そのような変化に対応し,日本心理学会としてできることを模索しています。4月に韓国心理学会が企画した“International Forum on Psychology Regulations”や,8月にAsia Pacific Psychology Alliance(APPA)が企画した “Psychological Regulation across the Asia Pacific”で公認心理師の資格化と養成について日本の状況を説明してきました。これは,アジアでいち早く心理学の資格を国家資格化した国や地域の一つとして,アジア地域の心理学の国家資格化の動きに協働することが大切であると考えるからです。また,2年間事実上停止していた国際学会旅費補助も,今年度から再開しました。これは,世界が開かれ始めている現状において,日本の若手の皆さんが科学の発展の場に参加できる素地を作ることがどれだけ重要であるかを再認識し,それを後押しできる制度を再び整えておきたいという考えからです。一つの国がいなくても世界も科学も進んでいきます。しかし,日本の心理学が世界の心理学と一緒に課題の解決と将来の発展を考える場所にいることこそ,日本にとっても世界にとっても重要なのです。
感染症,気候変動,異常気象,紛争,貧困,人権侵害と枚挙にいとまがないほど,世界は今,多くの難しい問題に直面しています。人の心や行動を科学する学問である心理学だからこそ,そして,その心理学が世界とつながるから見えてくる問題意識と解決への取り組み姿勢を持ってこそ,この難しい局面を乗り越えていけると信じています。温かな人と人の繋がりを感じながら,コロナ禍を乗り超えた先にある地球の明るい未来に想いを馳せています。
(国際担当常務理事・立命館大学准教授 鈴木華子)
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