公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

ここでも活きてる心理学

入社1年目で活かす臨床心理学

遠藤 凌河
アクセンチュア株式会社 Analyst

遠藤 凌河(えんどう りょうが)

Profile─遠藤 凌河
2022年3月,東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。2022年4月,アクセンチュア株式会社入社。現在はクライアントのPC基盤の改善のために奮闘中。

私は大学院で臨床心理学を学び,その後アクセンチュア株式会社に入社しました。アクセンチュアはコンサルティング会社であり,クライアントの価値を高めるために,戦略の立案から実行までの幅広いサポートを伴走者として提供する会社です。臨床心理学とはかなり毛色の違う企業ではありますが,クライアントの希望を聞き取り,その希望をかなえるために伴走するという点では共通しています。私は,企業という大きな単位に対して変革をもたらすという点に臨床心理学とは異なる魅力を感じてアクセンチュアに入社しました。この記事を執筆している時点で,ちょうど入社して半年になります。まだまだ社会人経験は浅いですが,その中でも臨床心理学が活きていると感じたことをお伝えできればと思います。

そのひとつが,臨床経験を積むなかで培ってきた「課題解決」についての考え方です。課題解決では,まず何を解決するのかという目標の設定が重要となります。しかし,大学院で担当した来談者の多くは複雑な状況におかれており,そもそも何を目標とすべきか分からず悩むことが少なくありませんでした。例えば,抑うつ感を主訴とする方であっても,一度の面接で語られる症状は,倦怠感や不眠,疼痛,希死念慮など多岐にわたります。このような状況で,その方が求める課題解決を行うためには,来談者がもつ困り感や症状の重篤度,介入可能性などを基にしっかりとした優先順位をつけて計画を立てる必要があります。そうしなければ,来談者の動機づけが保てず,想定していたような介入結果にならないだけでなく,予期せぬ中断につながってしまうからです。

現在の仕事においても同様に課題に優先順位をつけることが重要です。複数の課題があるなかで,作業の依存関係や緊急度などをもとに優先順位をつけて計画を立てる必要があります。優先順位を意識せずにいると,チーム全体の作業を遅らせてしまうことになりかねません。考慮する要素は異なりますが,課題解決における優先順位の重要性や考え方は,大学院での学びが活きていると感じることのひとつです。

課題解決についての考え方は,実際に仕事に活きていると感じることのひとつではあるものの,臨床心理学そのものというわけではありません。まだ入社半年なので確かな実感がもてているわけではありませんが,臨床心理学が活きていると思う会社の取り組みについて紹介したいと思います。

アクセンチュアでは組織風土改革の一環として「Project PRIDE」という活動を全社一体となって行っています。「Project PRIDE」は「アクセンチュアで働くすべての人々が,プロフェッショナルとしてのあり方に,自信と誇りをもてる未来を創造する全社員イノベーション活動」と定義されています。つまり,社員一人一人が誇りをもって働けるように,働くうえでのポジティブな面を増やすことに焦点を当てた活動です。臨床心理学でも,コミュニケーション能力の向上などポジティブな能力開発を目的とした心理教育があり,このような知識は企業の組織風土改革の活動を考えるうえで役に立つように思います。

臨床心理学が活きるもうひとつの形は,メンタルヘルスのリスクヘッジとしてです。メンタルヘルスについての正確な知識はなかなか共有されていないのが現状であり,社内でメンタルヘルスに不調をきたした人を同僚として陰ながら支援するなど,もしもの時の備えとして臨床心理学が役立つように思います。

以上が仕事をしているなかで感じた「活きてる心理学」でしたが,これからさらに経験を積むなかで,新たな発見があるかもしれません。その際はまた皆様にお伝えできたらと思います。

PDFをダウンロード

1