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Over Seas

ライデンでの研究生活を振り返って

真田 原行
関西学院大学大学院文学研究科 受託研究員

真田 原行(さなだ もとゆき)

Profile─真田 原行
2014年,東京大学大学院総合文化研究科単位取得満期退学。博士(学術)。専門は生理心理学。共著論文にThe resolution stage, not the incongruity detection stage, is related to the subjective feeling of humor: An ERP study using Japanese nazokake puns, Brain Research, 1778, 147780, 2022など。

コロナ禍で約半年予定が遅れましたが,2021年10月から1年間,日本学術振興会特別研究員(PD)として,オランダのライデン大学に研究留学しました。ライデンはアムステルダムから電車で約30分の距離にあり,レンガ造りの古い街並みや運河が残った,とてもオランダらしい中規模な都市です。一方で日本との関わりも深く,かつてシーボルトが住んだ家が日本博物館になっており,またライデン大学にはおそらくヨーロッパで一番古い日本学科があります。この留学では,研究について学ぶことができたのはもちろん,異文化の中での生活を通じて多くのことを考えさせられました。また妻と幼い娘,家族総出の長期滞在ということで苦労もありましたが,家族がいたからこそ学べたこともありました。

まず研究留学先としてオランダのよいところは,ほとんどの人が英語を話せることです。オランダ人の母語はオランダ語ですが,国土が狭く他国と隣接しているため,英語が共通語として重要な役割をもちます。私は英語も流暢ではありませんが,研究にしても普段の買い物にしても,英語が使えたことはずいぶん暮らしを楽にしました。またオランダでは多くの人が夕方には仕事を終え,バケーションもしっかりとる(しかも複数回),というように余裕のある生活を大事にします。そうかといって仕事が遅いわけではなく,仕事の間は集中し極めて効率的に作業をします。私は日本にいたころ,だらだらと遅くまで職場にいることがままありましたが,彼らの生活スタイルには学ぶべきところがあるように思います。

大学生活で印象深かった事柄を少し紹介しておきます。まずは,ヨーロッパ各地から大学生・院生が集まってくることです。やはり各国が陸続きでEU圏が存在することの強みだと思います。また,主に修士課程の間に,半年程度の研究インターンシップへ行くこともよくあるようです。他大学の研究室に飛び込みその研究室の研究を半年程度体験する。これは若い学生が今後の研究の方向性を決めるうえで,視野を広げることができるとてもよい制度だと思いました。また研究環境について印象的だったのは,ライデン大学にはSOLOと呼ばれる技術者チームが存在し,教育や研究での技術的サポートを行っていることです。しかし研究者自身が技術的知識をもたないということではなく,お互いが連携しあうことで,技術的な問題を素早く解決していました。私自身もSOLOには何回もお世話になり,おかげで実験や分析をスムーズに実施することができました。また受け入れ教官であったヘンク・ファン・ステーンベルヘン(Henk van Steenbergen)博士をはじめ,同僚の方たちもとても協力的で,分析プログラムの作成などで多くの助言をいただきました。

研究留学中に参加した,フランスで開催された国際学会も非常によい経験となりました。これまでも多くの国際学会に参加したことはありましたが,他国の研究者とは面識がないので,なかなか話す機会をもてずアウェイ感がありました。しかしこの学会では,ステーンベルヘン氏が積極的に知人に私を紹介してくださったおかげで,さまざまな国の研究者と話すことができ,彼らがどのように研究に取り組んでいるのか知り,そして彼らとのつながりを感じることができました。

最後に,研究留学を考える方にささやかなアドバイスです。知らない国に行くということはそれだけで大きなハードルですが,思い切って行ってしまえば(苦労はありますが)なんとかなりますし,なによりかけがえのない経験となります。若い研究者にとって,研究留学するということは,単に業績となるというだけでなく,生活や文化や人との出会いを含めたその全体から,多くのことを経験し,考えるきっかけを与え,きっとその人生にとって多大な影響を与えるでしょう。悩んでいる方はぜひ思い切って飛び出してみてください。

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