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Psychology for U-18 高校生に伝えたい

メタ認知の心理学

三宮 真智子
大阪大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授

三宮 真智子(さんのみや まちこ)

Profile─三宮 真智子
大阪大学博士後期課程単位取得満期退学。学術博士(大阪大学)。専門は認知心理学,教育心理学。著書に『メタ認知で〈学ぶ力〉を高める』『考える心のしくみ』(共に北大路書房)など。

青年期真っただ中である高校時代には,迷いと悩みがつきものです。成績が思わしくない,将来どの道に進めばよいのかわからない,人間関係に問題を抱えている,などなど。迷っているうちに時間は容赦なく過ぎ去り,悩んでいると何も手につかなくなることも。そして,焦りはますます募ります。

そんな時,心を落ち着かせて一歩ずつ前に進める手がかりがほしくなるのではないでしょうか。本稿では,その手がかりとして,「メタ認知」という概念をご紹介したいと思います。

メタ認知とは何か

私たちは,朝起きてから寝るまで,何かを見たり聞いたり覚えたり理解したり考えたりしています。このように頭を働かせることを「認知」と呼びますが,この認知は,常に正しく行われているとは限りません。見まちがいや聞きまちがいはよくあることですし,記憶や理解,思考(判断)がまちがっていることもあるわけです。こうした認知の誤りを見直し正すのは,認知よりも一段高いレベルの「メタ認知」と呼ばれるものです。

メタ認知を働かせることを「メタ認知的活動」と呼びます。たとえば,「どうも記憶があやふやだ」という気づきや「この問題なら簡単に解けそうだ」という予想,「この考え方でいいのか」という点検,「完璧に理解できた」という評価などは,メタ認知的なモニタリング(自分の認知を監視すること)です。これに対して,「わかりやすいプレゼンを組み立てよう」と目標・計画を立てたり,「論理が一貫していないから組み立てを変えよう」と修正に向かうのは,メタ認知的なコントロールです。メタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロールは,図1のように循環的に働きます。

図1 メタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロールの関係
図1 メタ認知的モニタリングとメタ認知的コントロールの関係

メタ認知は どのように役立つのか

では,メタ認知は,どのように役立つのでしょうか。

記憶や理解,テストの受け方など,学習に役立つことは言うまでもありません。「一度話を聞いただけでは忘れてしまう」と知っているからこそ,要点をノートに取りますし,復習をします。また,「あらかじめ話の概略を把握しておくと理解が早い」とわかっているので「予習をしておこう」という気になります。テストで解答を書き終えても,「再度見直しをしよう」と考えるのは,「不注意によるミスが起こり得る」「熟考することで,よりよい解答になる」ということを理解しているためです。このように,メタ認知を働かせることによって学習の質が高まります。

また,メタ認知は,気持ちのコントロールにも役立ちます。青年期には,誰しも気持ちが揺らぎやすい傾向がありますが,不安や苛立ち,落ち込みなどによって何も手につかない状態が長引くのは避けたいものです。また,やる気が出ない無気力な状態が続くのも困りものです。安定した前向きな気持ちで意欲的になるためには,スポーツなどで身体を動かすといった手立てもありますが,メタ認知の力を借りるのも有効な方法です。というのも,とかく感情や意欲というものは,出来事のとらえ方で変化するからです。たとえば,とても大事なテストで失敗した時,「自分は,もはやこれまでだ(終わった)」ととらえた場合と,「また次の機会があるさ」ととらえた場合とでは,湧き起こる感情に大きな違いが出てきます。前者では絶望して激しく落ち込むかもしれませんが,後者では希望を失わず,意欲さえ湧いてくるのではないでしょうか。また,誰かにカチンと来ることを言われた場合にも,「私を攻撃してきた」と受け取った場合と,「あえて言いにくいことを(よかれと思って)言ってくれた」「悪意はない」と受け取った場合とで,感情はまったく違ってきます。相手が本当はどう思っているのかなどは,推測の域を出ないわけですから,あえて自分が嫌な気持ちになる推測をする必要はないでしょう。「出来事のとらえ方ひとつで気持ちが変化する」ということを念頭におき,自分の気持ちをポジティブにしてくれるとらえ方を意識的に選択する習慣をつければ,穏やかな心地よい状態で過ごしやすくなります。

さらに,ネットの記事をはじめとするさまざまな情報に適切に対応するためにも,メタ認知が役立ちます。「専門家と呼ばれている人たちの主張が常に正しいとは限らない」「人は多数派の意見に流されやすい」「とかく判断にはさまざまなバイアス(歪み)がつきものだ」といったメタ認知的知識をふまえて,慎重に判断しようと心がけることにより,私たちの判断はより適切なものになります。もちろん,すべてを疑い何も信じないというのは極端すぎます。偏った,あるいは乏しい情報を鵜呑みにするのではなく,多様な情報や考え方に目を配ったうえで,よく考えて判断することが大切です。社会変動の激しい昨今,今後の社会のあり方を予測するのは大変難しいのですが,それでもなお,メタ認知を働かせて情報を吟味し,自分自身の将来を考えることは大切だと思います。

表1 メタ認知的知識の分類と具体例
表1 メタ認知的知識の分類と具体例

メタ認知を働かせるにはどうすればよいか

最後に,メタ認知がうまく働くようになるコツを提案しておきたいと思います。

①豊富なメタ認知的知識を持つ

自分の認知を適切にモニタリングしコントロールするためには,その土台となるメタ認知的知識が必要です。メタ認知的知識とは,表1に示すような,認知特性や認知課題に関連した知識です。他にもまだまだたくさんありますが,メタ認知的知識を豊富に持っているほど,メタ認知的なモニタリングやコントロールが上手にできるようになります。たとえば,課題解決の方略について,さまざまな知識をもっていれば方略選択の幅が広がり,自分にとって有効な方略を活用することができます。

メタ認知的知識は,心理学の知見から学ぶことができますし,注意深く自己観察を行うことによっても得ることができます。

②他者の考えに触れる

メタ認知のためには,他者との関わりが大きな助けとなります。他の人が,自分では気づけなかった認知の癖や誤りを指摘してくれたり,新たなものの見方や考え方に気づかせてくれたりするからです。メタ認知を働かせるためには,頭を柔軟にして多面的に考える習慣が必要ですから,積極的に他者の考えに触れることが役立ちます。

③失敗事例を分析する

私たちは,「自分や他者の失敗」にあまり目を向けようとはしないものですが,実は失敗事例こそがメタ認知を促してくれます。テストでの失敗,人間関係を損ねたコミュニケーションの失敗,事故につながった判断の失敗などを冷静に分析することは,メタ認知を働かせることになり,今後の失敗の予防に役立つものなのです。

以上述べてきたことをふまえ,高校生のみなさんがメタ認知を働かせて,よりよい高校生活を送ってくれることを願っています。

ブックガイド

  • 『メタ認知:あなたの頭はもっとよくなる』(三宮真智子著)中公新書ラクレ,2022年
    頭の働きについて理解し,他者との協働や気持ちを整える方法などを工夫して,頭を上手に使う方法を提案している。

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