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なぜ食べ物の健康効果を信じるのか?─心理学からみたフードファディズム

工藤 大介
東海学院大学人間関係学部心理学科 講師

工藤 大介(くどう だいすけ)

Profile─工藤 大介
同志社大学大学院心理学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。専門は社会心理学。実際の社会問題を題材に,消費者行動・リスク認知・意思決定の観点から,応用的研究を行っている。

健康と食品

突然ですが,何か健康のために日常的に食べている食品や,摂取しているサプリメントはありますか? 最近だと睡眠の質を改善するとされる,乳酸菌飲料が流行り,売り切れや転売などが発生しました。かく言う私も,この原稿を書く数か月前から飲んでいたりします。他にも,日々の健康のため,サプリメントや健康によいとされる食品を摂るようにしています。まだ若手とは言われますが,健康に気を遣うお年頃なのでしょうがないですね。閑話休題(よこみちにそれました)。

フードファディズムとは?

本題に入りましょう。このように,何らかの食品や栄養が病気と健康に与える影響を,誇大に信奉することを,「フードファディズム(Food Faddism)」といいます[1]。聞きなれない言葉かなと思いますが,現象を説明すると「あっ!」と理解してもらえるかと思います。2006年前後に,このフードファディズムが社会問題となりました。健康情報番組で「白いんげん豆を使用したダイエット法」が紹介されたところ,実践した消費者に健康被害が発生したり[2],はたまた「納豆のダイエット効果」が紹介されたところ,店頭での売り切れ騒動が発生したりしました[3]。最近では,炭水化物を忌避する「糖質ダイエット法」なども,これにあたります(フードファディズムには特定の食品を忌避することも含みます)。

このように,健康被害や,売り切れ騒動といった社会的混乱だけでなく,無駄なお金を遣ってしまう経済的被害や,専門家が発信する情報を蔑ろにするといった事態にもつながります[4]。たかが食べ物されど食べ物ということで,問題としては非常に根深いのです。

心理学からみたフードファディズム

私は,なぜこのフードファディズムが発生するのか,消費者が抱える健康不安に着目しました。恐怖喚起コミュニケーション研究の一つとして提唱された,防護動機理論[5, 6]から検討を行いました[7]。結果としては,健康不安の影響は小さいもので,それよりも,防護動機理論における対処行動のコスト認知や,効果性認知[6]がフードファディズムにつながっていることが分かりました。つまり,ある食品に対して,「お手軽にできそう・摂れそう」「効果がありそう」と認知してしまうと,フードファディズムに陥ってしまうのです。健康への好影響を謳う食品の特徴として手軽さが強調されていること,そして消費者の間に,お手軽に健康を改善したいという考えが広まっていることが指摘されています[4]。この両者がマッチした結果と考えられます。

こう書くと,「私はちゃんと物事を考えているから大丈夫!」という声が聞こえてきそうです。しかし,私の行った研究[7]では,熟慮傾向やリテラシーに関係なく,フードファディズムに陥ってしまう可能性が示唆されています。さらには,皮肉なことに,研究者や専門家であっても,サプリに頼って不規則な食生活に陥りやすい傾向も示唆されています[8]

健康な食生活に向けて

お手軽に健康を改善したいという欲求がなくならない限り,次から次へとフードファディズム問題は顔を出してきます。もう一度書きますが,フードファディズムは非常に身近で,非常に根深い問題なのです。忘れがちですが,健康にとって大切なのは,専門家や専門機関[9]が提唱するような,(多少煩雑かもしれませんが)バランスのとれた食事です。餅は餅屋ということで,専門家の意見に従って,食生活を改善するのも一つの方法です。日々の食生活を見直してみませんか?

文献

  • 1.Kanarek, R. B., & Marks-Kaunfman, R. (1991) Nutrition and Behavior. Springer.(高橋久仁子・高橋勇二(訳)(1994)栄養と行動.アイビーシー)
  • 2.厚生労働省(2006)https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/05/h0522-4.html
  • 3.高橋久仁子(2006)群馬大学教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活科学編,41,191-204.
  • 4.高橋久仁子(2007)フードファディズム.中央法規出版
  • 5.Rogers, R. W. (1975) J Psychol, 91, 93-114.
  • 6.Rogers, R. W. (1983) In J. T. Cacioppo & R. E. Petty (Eds.), Social psychophysiology (pp.153-176). Guilford Press.
  • 7.工藤大介(2020)東海学院大学紀要,14,41-54.
  • 8.工藤大介他(2022)日本心理学会第86回大会発表論文集,106.
  • 9.農林水産省(2019)https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/wakaisedai/balance.html

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