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巻頭言

子どもの証言と心理学の研究

国立研究開発法人理化学研究所理事,立命館大学OIC総合研究機構招聘研究教授,北海道大学名誉教授
仲 真紀子(なか まきこ)

私はお茶の水女子大学で,藤永保先生・内田伸子先生をはじめとする多くの先生方の薫陶をいただき,接続詞や助数詞といった言葉の習得,間接的要求や間接的拒否などの会話の研究を始めました。生態学的妥当性が強調されるようになり,自伝的記憶や子どもと大人の会話などの研究を進めるなかで,ある弁護士さんから,目撃証言の信頼性について検討してほしいという依頼を受けました。浜田寿美男先生・厳島行雄先生・伊東裕司先生・原聡先生らと3か月前に見た人物の顔を識別できるかという実験を行い,法と心理学がクロスする領域に足を踏み入れました。その後,子どもの証言の検討の依頼を受け,事件を目撃した/被害にあった子どもへの聴取が誘導的,暗示的になりがちであることを知りました。最初は「これは暗示」「これは誘導」と批判的な指摘をすることに終始していましたが,これでは子どもの言葉は法廷に届かないと思うようになりました。

1999年に英国ポーツマス大学での勉強会に参加したとき,子どもから正確に情報を得るのは難しいと話したら,英国でも同じ経験をし,子どもから正確に負担なく供述を得ることを目指す司法面接法のガイドラインを策定したと聞きました。問題を指摘するのではなく解決方法を提示すればよいのだと,目からうろこが落ちる思いでした。

2008年にJST (国立研究開発法人科学技術振興機構)/RISTEX(同機構社会技術研究開発センター)の助成でプロジェクトを立ち上げ,以降,文部科学省,再びJST/RISTEXと13年にわたり支援を受けながら司法面接の基礎研究,面接法や研修方法の開発を進めました。児童相談所,警察,検察などの専門家に司法面接の研修も行い,受講者数は1万5000人を超えました。2015年に児童相談所,警察,検察が連携して司法面接を行う協同面接/代表者聴取(子どもは各機関で繰り返し聴取を受けなくて済む)の取り組みが始まり,2021年には知的,精神的な障害を持つ成人にも拡張されました。司法面接では初期の供述を録音録画しますが,現在,法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会で,その記録媒体を証拠として用いることができるか議論されています[1]

研究と社会実装の魅力に導かれてここまで来ましたが,今思うことは,そもそもなぜ誘導暗示なく聴取する必要があるのか,ということです。被害加害によらず年齢,障害,恐怖などの制約があるとき,いかにして話す権利を守るか。個々人が最大限尊重される社会のあり方が重要だと感じています。

  • 1.法務省(2023)法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第14回会議配布資料.
仲真紀子

Profile─仲 真紀子
お茶の水女子大学大学院博士課程単位取得退学。学術博士(お茶の水女子大学)。専門は発達心理学,認知心理学,法と心理学。千葉大学,東京都立大学,北海道大学,立命館大学を経て現職。著書に『子どもへの司法面接:考え方・進め方とトレーニング』(共編著,有斐閣),『法と倫理の心理学:心理学の知識を裁判に活かす:目撃証言,記憶の回復,子どもの証言』(単著,培風館),『目撃証言の心理学』(共著,北大路書房)など。

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