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留学生アドバイザーの領域から
葉 真紀子(よう まきこ)
Profile─葉 真紀子
青山学院大学卒業後,化粧品会社を経て渡米,現職。留学生のセミナー企画・講師,キャリアカウンセリングを担当。キャリア・デベロップメント・アドバイザー。
『心理学ワールド』創刊100号,誠におめでとうございます。私はアメリカの大学に正規留学する学生を支援する留学団体で,キャリアアドバイザーをしています。26年間この仕事をする中で6000人以上の日本人留学生のキャリアカウンセリングを担当し,日米のグローバル企業に多くの卒業生を輩出して参りました。
アメリカの大学という全く新しい世界の中で頑張っている学生たちと長いスパンで関わっていくと,さまざまな彼らの変化に遭遇します。異文化の中で今まで抑えてきた感情や行動を良い意味で解放し,早々にトランスフォームしていく学生,逆に留学という過度のプレッシャーからメンタル的なサポートが必要になり,大学の心理カウンセラーの方にお手伝いをしていただきながらゆっくり変化していく学生等々。その速度はさまざまですが,ほぼ確実に変化・進化していく彼らを見ることができるのが,この仕事の醍醐味だと思っております。
今回,ご縁あって寄稿の機会をいただき『心理学ワールド』の記事を拝読する中で,今まで何気なく見てきたそういった学生たちの変化が心理学的に説明できるものも多く,非常に興味深く読ませていただきました。今回はそんな私が特に共感し興味深く読ませていただいた2つの記事を紹介させていただきます。
亀井宗氏「自己肯定感が育つ場所」(100号,2023年)
私が長年アメリカに住み,日本人留学生を指導する中で,最も日本人に欠如しており,そのために大きく機会損失をしていると感じるのが「自己肯定感」です。留学した学生たちが確実に変化をしていくのは,アメリカの教育現場にはこの「自己肯定感が育つ場所」があるからだということを再認識させてもらったがこの記事でした。キーワードとしている「育ちを邪魔しない」「主体性と楽しむ力を意識づける」「自由な自己表現」等はまさにアメリカの大学の特徴的な強みですし,指導者やスタッフの多くの方が,学生を一人の人間としてリスペクトし許容する姿勢があること,また本音で話せる関係性を作り出すのが実に上手いことは,まさに自己肯定感を育む環境作りが自然にできている要因の一つだと考えています。もちろん,この環境を作り出せているのは文化の違いが大きいことは明らかですが,どんな文化を持つ指導者もアメリカにいると上記のような資質を持つようになるのは,環境から起きた後天的な変化も要因であると感じています。日本国内にいても日本人がもう一歩「グローバルトランスフォーメーション」するために,是非さまざまな立場の方に読んでいただきたいと感じた記事です。
笹原和俊氏「SNSの中で“つくられる真実”と“対立する正しさ”」(98号,2022年)
SNSの発達とともに世界中の人と簡単につながりを持ち,ウェブで検索をすればどんな情報も商品も手に入る時代。一見,格段に世界が広がったように見えますが,実は自分と似た価値観や興味関心をもつ人とばかりつながり,同じような情報ばかりが流通する閉鎖的な情報環境ができていたり,ユーザの個人情報を学習したアルゴリズムにより,その人にとって興味関心がありそうな情報ばかりがやってくる環境ができていたり。この記事はそんなデジタル社会における問題を分析し,提言しています。この記事を読んだ時,特に最近感じている学生や保護者の発言の偏り,危うさは,この問題に大きく起因しているなと脅威を感じました。職場も学校もテレワークやオンラインが増え,デジタル社会で起こっているその脅威はこの数年でさらに強大化しているはずです。自分自身も含めて社会全体が十分にこの環境を理解し,意識して対応する力を身につけなくてはいけないと切実に感じさせられた記事でした。
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