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認知心理学の領域から

波多野 文
株式会社イデアラボ コンサルティング事業部 研究員

波多野 文(はたの あや)

Profile─波多野 文
博士(心理学)。京都大学大学院教育学研究科特別研究員などを経て,2021年より現職。高知工科大学(情報学群)客員研究員を兼任。専門は認知心理学。

私は現在もうすぐ3歳になる娘と0歳の息子を育てている。本原稿の依頼をいただいたのも,息子を出産して3日後のことだった。子どもを持つと常に脳内が子どものことで埋め尽くされ,子どもや子育てに関する心理学研究に興味がわく。特に気になるのは,自分の研究とも関係のある「言語」と「認知」の発達である。

娘が1歳半を過ぎ,ある程度コミュニケーションがとれるようになってくると,「昨日はどこに行ったか」「保育園でどのような遊びをしたか」といった会話ができるようになった。2歳を過ぎた頃からは,実際に自分が体験した出来事を親に伝えることも増えた。3歳以前の記憶は成長後ほとんど自伝的記憶(時間や文脈の情報に加えてさまざまな感情も伴った『思い出』の記憶)として想起されない(幼児期健忘)と言われているし,「どうせ忘れてしまうからいろいろ体験させても意味がない」といった話も聞く。それでも,娘ははっきりと自分の体験を「思い出」として語っているようにみえる。

子どもの記憶について,『心理学ワールド』に記事はないかと探してみると,上原泉先生の「記憶を追う─幼少期からの縦断研究」(62号,2013年)に行き当たった。この記事では,1回2~3時間かかる調査を数か月に一度,5~20年という長期にわたって行った縦断研究が紹介されている。長くても1時間の実験ばかりやっている自分には途方もなく大変な印象を受けるが,労力が大きい分得られた成果も興味深い。記事によると,幼児期健忘にはことばの発達が関係しているらしい。2歳を過ぎて過去形での語りがみられ,4歳頃に記憶語の自発的使用へと発達し,3~4歳にかけて「思い出」の形成がなされるそうだ。現在娘が語る記憶が,単なる過去形での語りでいずれ想起されなくなるのか,さまざまな感情や懐かしさに彩られた「思い出」なのか,これからも観察していきたい。

もう一つ興味深かったのが,榊原知美先生の「子どもの数理解と文化」(88号,2020年)という記事である。娘は入浴中に数をかぞえるなど,数に関することばが頻繁に出る。ごくたまに正しく足し算の答えを出せたり,正確に1から10まで数えたりすることはあるが,まだまだおぼつかない印象である。彼女の数理解は,この先どのように進むのだろうか。記事によると,2歳前後で数詞を用いて数を数えようとしはじめ,およそ3歳半頃には数を数えることができるようになるそうだ。なるほど。ちかごろ娘は副菜を取り分ける際に自分の皿と他の皿の間で量のかたよりがあると不服を申し立てたり,「りんごを2つちょうだい」と言ったり,数や量の感覚に敏感になってきた印象があったが,程よく発達しているということなのだろう。また,子どもの数理解は子どもを取り巻く学びの文化や母語に影響を受けるらしい。具体的には,日本語などの十進法に基づいた表記に従う数詞表現が子どもの数理解を容易にし,幼児期の数詞の獲得や就学後の位取りの概念の獲得などにも影響するそうだ。

以上,最近の自分の興味に沿った記事2つをご紹介した。これらの記事の共通点は,子どもの記憶や数理解といった認知発達に,言語理解や言語発達が関係していることを指摘している点である。私はこれまで,言語陰蔽効果という,顔やモノの視覚的記憶を言語で表現することが記憶に悪影響を及ぼす現象を切り口に,言語的機能が自己認知や記憶のありかたに及ぼす影響を研究してきた。やはり「言語」は面白い。『心理学ワールド』に触れることで,日常生活で感じる些細な疑問が解消するだけでなく,子育てに追われる中で錆つきかけていた研究への意欲も取り戻すことができた。この場を借りてお礼を言いたいと思う。

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