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こころの探究は分野の垣根を超える─美大生も楽しむ心理学ワールド

宮坂 真紀子
若手の会から 北里大学医療衛生学部視覚機能療法学 特別研究員

宮坂 真紀子(みやさか まきこ)

Profile─宮坂 真紀子
女子美術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士(美術)。専門は美術,芸術心理学。Arts in Healthに関する研究のほか美術教育やキュレーションなども行う。

これまで『心理学ワールド』の一読者に過ぎなかった私も,光栄なことに若手の会幹事の在任中に何度か執筆の機会をいただきました。100号(2023年)では医療・福祉におけるアート&デザインについて紹介しましたが,心理学をご専門とされる皆様に知っていただく貴重な機会と思うと,嬉しい気持ちと同時にしっかりと伝えなくてはと身が引き締まる思いでした。私の研究は心理学の分野としては王道ではないものの,芸術を活用して肉体的・精神的・社会的な健康を支える環境を創造するために日々邁進しています。

さて,冒頭で記したように,普段は読者として楽しませていただいているのですが,母校の美術大学で授業をする際には学生にも本誌を紹介しています。ご存知の方も多いと思いますが,心理学の研究はアートやデザインの領域と深い関わりがあります。知覚では騙し絵のエッシャーや錯視の北岡明佳先生,時代を遡っていけば色彩学の理論を作品で検証した点描画のスーラ,無意識に着目したダリ,デザインの分野では認知心理学のノーマンといったように枚挙にいとまがありません。

日常的に創作活動に取り組む美大の学生も普通の大学生ですので,何もないところから突然思い立って作品を作り始めるということはありません。これまで生きてきた中で経験したことや感じたこと,ずっと思ってきたことなど様々なものをベースとして創作に繋げています。それゆえに,アート作品をはじめ,キャラクターデザインやプロダクトデザインでも作者の考え方・生き方が色濃く表れていると感じるわけです。

そもそも,アートやデザインの世界は長い歴史の中で政治経済や科学技術の進歩とともに歩んできました。今日においても名作と言われる作品には,人間の本質とは何かを私たちに問いかけるものが数多くあります。そのように時代や国境を越えて人々のこころに届く作品は,様々な時代背景の中で起きた変化や,戦争と平和といった普遍的なテーマに向き合い,答えを模索し続けた形跡の一つでもあります。すなわち,アーティストやデザイナーは,自分自身を含めて,人の心理や行動と向き合い,時には目を逸らさずに見つめる姿勢がなくては成り立たない仕事であるため,人間に対して一際強い関心をもつ人たちともいえます。したがって,扱うテーマも多種多様で,深刻な社会問題からユーモラスな内容までありとあらゆるものが作品となり私達を楽しませてくれています。

現代のアーティストやデザイナーが扱うテーマの多様化は,単なる美しさではなく,人のこころと行動に着目していることの表れでもあります。誰もが発信者になれるこのような時代だからこそ,創作活動の原点をしっかりと見据え,オリジナリティを確立する力が一層求められています。アートも心理学も分野の垣根を超えて最新の研究動向を知って広い視野をもつことは,今を知り,未来を創ることに他なりません。

『心理学ワールド』はオンラインで公開してくれていることもあり学生が気軽にアクセスできるのはもちろんですが,同世代の人たちがどのような研究をしているのかということを知るとても良い機会になっています。専門分野外の人でもわかりやすいように噛み砕いた表現で執筆いただいているおかげで学部生や留学生にも理解しやすく,本誌をきっかけに論文を検索して読んでみたと報告してくれる学生も少なくありません。

このように,心理学の研究は皆様の知らないところで未来のアーティストやデザイナーの作品に活かされています。私も研究者の一人として取り上げていただける研究ができるようにより一層精進するとともに,これからも皆様のご研究を学生とともに拝読できることを楽しみにしております。

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