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もう一度やりたい学会の仕事ナンバーワン

小森 政嗣
63号〜78号 編集委員 大阪電気通信大学 情報通信工学部 教授

小森 政嗣(こもり まさし)

Profile─小森 政嗣
大阪大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。専門は感性工学,非言語行動など。単著に『RとStanではじめる心理学のための時系列分析入門』(講談社)。担当はギター(テレキャスター)。

63号〜78号 編集委員 上智大学総合人間科学部心理学科 教授

樋口 匡貴(ひぐち まさたか)

Profile─樋口 匡貴
広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。博士(心理学)。専門は社会心理学。著書に『社会心理学・再入門』(監訳,新曜社)など。担当はギター(ストラトキャスター)。

樋口今回は対談ということで,よろしくお願いします。さて,『心理学ワールド』の編集委員会はとても楽しかったです。もう一回やってもいい!と思える数少ない仕事の一つであることは間違いない。

小森僕らは2014年からの4年間の担当でしたよね。振り返ってみたら,楽しかったねえ。

樋口『心理学ワールド』の編集委員会の主業務って,特集あるいは小特集の企画ですよね。企画内容を考え,同時に誰に執筆をお願いするかを考え,そして実際に依頼する。ドキドキしながら原稿ができあがってくるのを待って,提出されたらその内容を楽しむ。そしてもし修正して欲しい点などがあれば,あるいは他の原稿と調整が必要な点があればそれについて相談する。そしてすべての原稿が完全に整ったら,わくわくしながら印刷が上がってくるのを待つっていう感じですね。

樋口昔のフォルダを漁ってみたら,僕は特集を3回,小特集を1回担当してます。個人でやったやつとしては,68号の特集「その心理学信じていいですか?」(2015年),75号の小特集「病気と付き合う」(2016年),79号の特集「心理学はセックスを理解しているか」(2017年)の3つ,それに加えて小森さんと共同で担当した72号の「われわれは何をなすべきか─東日本大震災と心理学の5年間を振り返る」ですね(2016年)。
僕はとにかく自分が知りたいことや読みたい原稿をお願いする,そして一緒に仕事したい人に依頼をするっていう原則で臨んでいたので,結果的にとても良かったです。謎の自信があって,僕がおもしろいものは多くの読者にもきっとおもしろいだろうって思ってやっていました。編集委員会のメンバーも何ともサポーティブで,いちいち「なにそれおもしろい」っていう方向で反応してくれました。任期最初の委員会後の懇親会の席で担当常任理事の阿部純一先生が,雑談に対していちいち「それはおもしろい記事になるね」「それも特集できるね」って拾ってくださったのもとても良く覚えています。

小森僕自身は,いわゆる大学教員以外の方にも登場いただくよう心がけていました。77号特集「暴力─どこから生まれるのか? いかにして克服できるのか?」(2017年)では陸上元オリンピック代表の為末大さんにアスリートの立場からスポーツの現場での体罰の根絶に向けた取り組みや道筋を書いていただきました。69号小特集「ライフログと心理学」(2015年)では,心理学をベースにした研究開発企業の澤井大樹さん,浅野昭祐さん(ともにイデアラボ)にご登場いただきました。心理学のフィールドは大学だけじゃなくて,社会で求められているんだ,ということを知っていただきたかったんです。

樋口僕が初めて担当した特集は68号の「その心理学信じていいですか?」(2015年)だったのですが,もう気合い入れて誰に頼むかから何から考えまくった。結果,平石界・池田功毅,三浦麻子,小塩真司,大久保街亜という当代きっての先生方にお願いすることができて,とても良かったです。ただ原稿が出てきてからが本番だったんですよ。最初にいただいた原稿が平石さんと池田さんの共著ものだったんですが,「心太」という名前のいたいけな心理学専攻大学生が主人公の物語仕立てになっていた。『心理学ワールド』の特集でこの形式のものが出てくるとは思っていなかったので,正直,最初は面食らったんですよ。心理学における再現性問題を解説した普通の総説論文ぽい原稿が出てくると思ってた。まあ悩みましたね。どうしよう,これはもう一度相談してみようか,と。そんなこんなで悩みながらもう一回読んだら,あれ,これいいかも。もう一回読んだら,いやもうこれだよ,これが読みたかったやつだ,と。結局いまだに本人たちには伝えていないですが,あの逡巡は今でもよく覚えていますね。さらにこの特集については印刷が上がってきた後にもうひと騒動あったんですが(ローマンdでTwitterを検索してください),結果的には本当にいい特集ができたといまだに思っています。

小森再現可能性問題は2023年の今ではもうかなりの人が知っていて,心理学の根幹に関わる問題だという認識が広まりつつあると思います。でも2015年当時は少なくとも日本では全くそうではなかった。その時期に紹介できたのはとてもよかったと思います。

小森あとセックス特集も外せないでしょ?

樋口そうなんですよ。79号「心理学はセックスを理解しているか?」(2017年)の特集を決めた時の編集委員会のこともとても良く覚えています。僕にとっては最後の特集の機会だったのでもう一つ候補だったネタとどちらにしようか悩んでいたんですよ。でも会議の場で小森さんが「セックスの特集は樋口さんしかやれんでしょ」って言ってくれて,それで決まったんです。

小森そうでしたっけ?

樋口忘れてんのかい。

樋口そして何よりも,やっぱり震災特集(72号「われわれは何をなすべきか─東日本大震災と心理学の5年間を振り返る」2016年)の話は欠かせないですよね。これも会議の席でたまたま隣になった小森さんが「次の号の特集,震災のことを提案しようと思ってるんだけど,手伝わん??」って声かけてくれて始まったやつでしたね。

小森震災から5年間,心理学者はそれなりにいろいろなことをやってきたと思うんですよ。心理学と日本心理学会が震災の問題にどう取り組んできたのかを一度きっちり紹介したかった。

図1 震災特集の取材で訪問した南相馬の海沿いの夕暮れ
図1 震災特集の取材で訪問した南相馬の海沿いの夕暮れ

樋口特集の最初に安藤清志先生が学会としての取り組みを紹介してくれていますよね。特集の大きな枠組みとして,学会や研究者サイドからみた震災問題についての総括,それから「こころのケア」「風評被害」「コミュニティの分断」という3つの問題を取り上げた。当時はこれらの問題がとても重要だと考えましたよね。

小森震災は複雑な問題だから,いろいろな面から取り上げなければいけなかった。それに震災から5年経った当時でも震災はとても繊細な話題でしたよね。当時小学生だった息子にこの特集の文章をすべて読ませて,誤った読み方をされないか確かめてから,校了にしたんですよ。

樋口日本心理学会は震災について真剣に取り組んでいたようには感じていて,復興のための実践活動や研究のための助成金も早々に出してましたよね。

小森ただ,心理学はこんなことやったんだぜ!的な自画自賛はしたくなかったんですよ。だからちゃんと当事者の話も聞きたかった。風評被害の研究に協力してくださっていたスーパーSaiya西野貴守店長のインタビューで南相馬にも行きました。あと,福島の研究者の方の意見もちゃんと紹介したかったんです。震災1年後の特集(57号「東日本大震災から一年」2012年)で飛田操先生が「福島から会員のみなさまへのお願い」というタイトルの寄稿をしておられて,それもあって飛田先生にはまた5年後の今を書いていただきました。「パンドラの箱と幽霊」というタイトルの最後「ただ,恐れるべきは,箱から飛び出してきた幽霊そのものではなく,その存在をめぐって対立する人々の間での分断なのであろう。」という一文には,学者として目の前の大きな問題に向き合わざるを得ない苦悩が吐露されていたように思います。

樋口なんて表現したらいいか難しいですが,とてもいい文章をいただいたと感じました。

小森うんうん。

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