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なぜ,少年たちは非行グループに 身を寄せるのか?

中川 知宏
近畿大学総合社会学部 准教授

中川 知宏(なかがわ ともひろ)

Profile─中川 知宏
東北大学文学研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は犯罪心理学。著書に『紛争・暴力・公正の心理学』(分担執筆, 北大路書房)など。

なぜ,ある少年たちは非行グループに身を寄せるのでしょうか。素朴に考えれば,少年たちが自ら非行グループと関係を持っていると思われるかもしれませんが,ここでは少し異なる視点から話をしてみたいと思います。

少年非行の特徴

さて少年非行の特徴と言えば,どのようなものをイメージしますか。少年非行の主要な特徴として,集団性を挙げることができます。令和4年版犯罪白書を参照しますと,複数の少年で犯罪に関与する共犯という形態は26%ですが,成人の共犯率は12.6%となっており,時系列でみても,一貫して,成人より少年の方が高くなっています。

非行グループに加入することのリスク

複数の少年で非行に関与することがどのような問題をもたらすのでしょうか。先行研究をみると,非行に関わったことの罪悪感が希薄であったり

[1],犯罪への関与頻度が多くなったりという問題を引き起こす

[2]ことが知られています。

このように非行に関与するような少年たちが集まった集団は非行集団(以下,非行グループ)と呼ばれます。典型的には暴走族のような集団を挙げることができるでしょう。

なぜ,非行グループに同一化するのか

暴走族のような非行グループのメンバーと関係することで,警察に逮捕されるリスクは高くなります。それにもかかわらず,少年たちは非行グループに身を寄せ,メンバーに愛着を持ったり,メンバーとしての自覚を強めたりします。ただし,これは非行グループに限った話ではなく,あらゆるグループに共通する現象と言えます。こうした過程を,ここでは集団同一化と呼ぶことにします。

では,なぜ少年たちは非行グループに同一化するのでしょうか。非行グループとそれを取り巻く人たちとの関係に注目してみました。先行研究では,非行少年は近所の噂で嫌な思いをしたり,家族による心理的虐待や養育放棄を受ける傾向がある

[3]ことが分かっています。こうした知見は非行に関与する少年が地域や家庭内で息苦しさや,つまはじきにされているような気持ちを持っていることを示しています。

少年に対する差別的な扱いは何をもたらすか

それでは,少年たちに対する差別的な扱いはどのような結果をもたらすでしょうか。これを考えるヒントになるのが,拒絶−同一化モデルです

[4]。このモデルに沿って考えると,次のようなことが考えられます。例えば,教室からお金がなくなった時,同級生から非行少年が疑われたとしましょう。その際に,こういうように疑われるのは自分が非行グループの友人と付き合いがあるからだと解釈すると,少年の自尊心はひどく傷つき,これを回復しようと非行グループへの同一化を高めます。なぜ,同一化を高めるかというと,非行グループのメンバーに信頼を寄せたり愛着を示すことで,メンバーから受容され,傷ついた自尊心の回復につながるからです。

非行グループ以外に人間関係を持てるか

しかし,差別的な扱いを受けたとしても非行グループに必ずしも同一化するわけではありません。少年たちの中には非行グループの仲間としか人間関係を持たない少年もいれば,それ以外にも付き合えそうなグループがある少年もいます。このように,グループを移ることができるだろうという期待を集団境界透過性[5](以下,透過性)と呼びます。

他のグループに移ることができる(透過性あり)少年は,差別的な扱いを受けたとしてもそれによる自尊心の傷つきを防ぐことができると考えることができます。しかし,非行グループの仲間としか人間関係をもたない(透過性なし)少年は,差別的な扱いを受けると,非行グループの少年たちから受け入れてもらえるよう集団同一化を高めることで自尊心の傷つきを防ぐことが予想されます。

調査結果(図1)

図1 差別と透過性が非行グループの同一化に及ぼす効果 文献6
図1 差別と透過性が非行グループの同一化に及ぼす効果[6]

それでは,拒絶−同一化モデルをもとにした予想は支持されるのでしょうか。分析の結果,非行グループの友人以外に付き合える仲間がいない少年たち(透過性なし) [7]に限っていえば,同級生,教師や警察から差別的な扱い[8]を受けた少年たちの方がそうでない少年たちよりも非行グループの一員としての自覚[9]が強かったことが分かりました。また,教師や警察から差別的な扱いを受けた少年の中でも,非行グループの友人以外に付き合える仲間がいる少年たち(透過性あり)よりもいない少年(透過性なし)たちのほうが非行グループの一員としての認識が強かったという結果がみられました。

非行グループへの同一化を断ち切ることができるか

こうした結果から,非行グループへの同一化を断ち切る方法が見えてきます。ひとつは,少年たちを取り巻く周囲の人たちが非行グループの仲間と付き合っているという理由で差別的な扱いをすることをやめることです。もちろん,少年たちが非行に関与しているということは非難されるべきことなのですが,ブレイスウェイトは少年の人格を否定するような非難の仕方(例えば,お前は社会のお荷物だ)は再犯のリスクを高めてしまう可能性があると主張しています[10]。一方で,非行という行為自体を非難することは,それが恥ずべきものであるという感覚を引き起こし,結果的に再犯を予防することにつながると主張しています。

もうひとつは,非行グループの仲間以外に付き合えるグループを持つということです。しかし,実際には難しい場合もあるでしょう。そうした少年たちを支援するセカンドチャンス[11]というNPOグループがありますが,こうした支援活動を行うグループが少年たちと向き合うことで,非行グループへの同一化を断つきっかけとなるかもしれません。

  • 1.家庭裁判所調査官研修所(編) (2001) 重大少年事件の実証的研究. 司法協会
  • 2.Deschenes, E. P., & Esbensen, F. (1999) J Quant Criminol, 15, 63-96.
  • 3.内山絢子 (2005) 科学警察研究所報告(犯罪行動科学編), 42, 49-58.
  • 4.Branscombe, N. R. et al. (1999) J Pers Soc Psychol, 77, 135-149.
  • 5.Brewer, M. B. (2003) Intergroup relations. Open University Press.
  • 6.中川知宏他 (2019) 心理学研究, 90, 252-262.
  • 7.透過性に関する質問項目は「所属グループとは別に,仲間に加わることができそうなグループはありましたか」とたずねました。
  • 8.差別的扱いに関する質問項目例としては「グループのメンバーとの付き合いがあったため,同級生から白い目で見られることがあった」というような内容をたずねています。
  • 9.非行グループへの同一化に関する質問項目例としては「自分はグループのメンバーだと実感することがある」というような内容をたずねています。
  • 10.Braithwaite, J., & Braithwaite, V. (2001) Revising the theory of reintegrative shaming. In E. Ahmed et al. Eds., Shame management through reintegration (pp.39-57). Cambridge University Press.
  • 11.セカンドチャンス!(編) (2011) セカンドチャンス!:人生が変わった少年院出院者たち.新科学出版社

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