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私のワークライフバランス

「好き」を力に生きるという選択

谷口 あや
甲南大学人間科学研究所 博士研究員

谷口 あや(たにぐち あや)

Profile─谷口 あや
2019年4月~2022年3月,日本学術振興会特別研究員DC1。2022年3月,神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。専門は発達心理学。2022年4月より現職。

日本ではとかく仕事か家庭かとなりがちなワークライフバランスですが,海外では仕事,家庭,個人という枠組みが一般的です。今回は仕事と個人の枠組みから谷口あや先生にご登場いただきました。

この連載は,すでにキャリアを積んでこられた方々が,主に育児や介護と仕事のバランスについて執筆されてきたものと思います。私のような独身で任期付きの人間はお呼びでないかもしれません。しかし,本来,ワークライフバランスとはあらゆるライフステージの人間にとって,それぞれの選択があるはずのものです。

2022年3月に学位を取得し,同年4月から現所属で博士研究員になりました。主なワークとして,週5日のポスドクとしての勤務と,本務が休みの日に非常勤講師を複数かけもちしています。

ライフとしては,母親と一匹の犬と実家で暮らしています。父親は私が21歳の時に他界しました。大人になると,実家暮らしといっても親とは同居人のようで,家事を分担したり,たまに一緒に出かけたりしながら共に生活しています。

学部生の頃から「好きな研究を続けて,大学教員になりたい」と思っていました。その道を進む中で,多くの方々から結婚や育児の経験,難しさについてうかがう機会があり,少なくとも修士の頃までは「自分もいつかそういう選択をするのかな」と考えていました。

「自分はそういう選択を望んでいないらしい」と気づいたのは,博士課程に進む頃でした。将来のキャリアについて考えると,最も優先順位が高いのは研究を続けること,そして,その次は,結婚でも出産でもなく,好きなものに囲まれて生きることでした。

独身の研究者はしばしば,人生全てを研究に捧げることが望ましいとされているように思います。研究=人生,ワークアズライフ,そんな風潮が強く(その生き方ができる方々に対しては,尊敬の念に堪えません),研究以外のことも好きと口にするのは憚られるように感じていました。しかし,そもそも研究を仕事に選んだのも「好き」という単純な理由なのだから,好きなものと,好きに生活をして,好きな研究を仕事として頑張る,という生き方も一つの選択肢としてありなのではないかと最近は思っています。

好きなものがたくさんあります。お洋服が好きです。研究以外の時間はほぼお洋服のことを考えています。好きなお洋服を着て,自分を奮い立たせることで,博士課程やポスドク生活を生き抜いてきました。また,演劇が好きです。好きな劇作家の公演期間は年に一度,関西は公演が少ないので,時間を見つけて関東まで足を延ばします。それ以外にも,毎月,美容にもお金を使いたいし,好きなバンドのライブにも行きたい,好きな友達にも会いたい,こういう生活を望むことはわがままでしょうか? 研究者として自覚が足りないのでしょうか?

任期付きで,経済的に余裕がなく,数年先の未来も見えない中で,目の前の「好き」を全て我慢して,結婚や出産などのライフイベントを重視することは,私にはどうにも魅力的ではありません。私は優秀ではないし,器用でもありません。そして,全てを選べるほど,恵まれた環境や立場でもありません。多くの研究者がいるのだから,こういう生き方を望む若手も,「あり」ではないでしょうか。

今後のワークは,任期なしのポストに就いて研究を続けて,教育にも携わっていくことを目標にしています。ライフについては,この先も好きなものと生きたいと思うとともに,現実的な先々の問題に,介護があると思います。私には頼れる親族がいないため,そう遠くない将来,母親を置いて,遠方の大学へ行くことは難しくなると考えています(介護はこれからの若手研究者にとって,より現実的な問題になるのかもしれません)。

まだまだワークもライフも,先行き不透明な部分が大きいですが,この先も「好き」を力に,自分を幸せにする人生のために走っていきます。

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