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海外から挑む日本の就職活動

村瀬 華子
北里大学医療衛生学部 教授

村瀬 華子(むらせ はなこ)

Profile─村瀬 華子
Ph.D.(心理学)。専門は臨床心理学,依存症・嗜癖。イエール大学,コロラド州立大学でのフェローシップを経てインディアナ大学ノースウェスト校にてAssistant Professorとして勤務。その後,国立病院機構久里浜医療センターにて厚生労働省事業の運営を担当。2020年より現職。著書に『代替行動の臨床実践ガイド』(分担執筆,北大路書房)。

私は高校卒業後に渡米し,学部から博士課程までアメリカにて教育を受けた後,インディアナ大学にてAssistant Professorとして教鞭をとっていました。数年前,夫の転勤に伴い帰国しました。人生の約半分に値する年月をアメリカで過ごしてきた私にとって,日本での就職活動は未知の世界でした。現職にて採用する立場も経験した今だからこそわかることも含めて,海外から日本での就職を目指す方のご参考になるようなことをお伝えできたらと思います。

私が日本への転職活動を開始した当初は,ひたすら日本の大学へ応募書類を送っては,国際便で送られてくる不採用通知を受け取る日々を過ごしていました。当時アメリカでは電子システムでの応募が当たり前だったため,高額な郵便代のレシートと徐々に残り枚数が少なくなる日本の履歴書サイズの写真を見ては落胆といらだちを感じていました。そんな日々の転機となったのは,アメリカの学会で日本からの参加者と知り合えたことでした。そこで出会った先生方を頼り,その年から日本の学会でもネットワーキング活動をはじめました。ちなみに日本の学術界で全く無名,頼れる出身大学の恩師・先輩・後輩もいない私が日本の先生方と知り合いになるために行った「ネットワーキング活動」とは,事前にメールで学会中のアポを取り付ける,懇親会で知り合った先生に他の先生を紹介していただく,今知り合ったばかりの先生方を自分から食事に誘う,大学ごとで企画されている懇親会に飛び入り参加させていただく,など普段のシャイな自分では難しいと感じるレベルの積極的なアプローチを何度も行うことでした。

知り合った先生方には転職活動中であることを率直にお伝えしました。中には応募書類に関してアドバイスを下さったり,日本での業績を増やすために学会発表に誘ってくださったり,非常勤講師の機会をご紹介してくださる方もいらっしゃいました。ふり返ってみると,たくさんの方のご協力なくしては日本の大学への転職は叶わなかったと思います。

帰国して最初に就いた仕事は国立病院でしたが,実はこの経験がとても役立ちました。久里浜医療センターは私の専門領域である依存症の研究事業を多く手掛ける医療機関であり,そこで私に与えられた職務は厚生労働省事業の運営だったため,日本での研究の進め方,日本社会の動向や課題を学ぶ傍ら,日本のビジネスマナーも身につけることができたからです。

ここまで,ネットワーキング活動を通して日本でのご縁と業績を積み重ねていくことの重要性について述べましたが,現職で採用側の役割を経験してわかったこともあります。特に,応募書類の書式や提出方法が細かく指定されることは,同じく海外からの就職を目指す知人たちも悩んでいました。自由書式の履歴書を電子システムから応募できるアメリカと比較すると,日本のシステムはとても窮屈で不便に感じると思います。しかし,これは各学校法人等の規則による場合もあり,採用担当者の裁量では変更できないこともあります。個人的には応募者の負担を減らす方法が日本でも普及することを望みますが,社会全体が変わるにはしばらくかかるでしょう。同時に,指定書式に従っている応募書類は審査委員の評価のしやすさにつながります。海外ではA4用紙をネットで購入するところからのスタートとなり,面倒に思えるかもしれませんが,審査委員の先生方も膨大な時間を割いて審査してくださることを意識して,めげずに準備することをおすすめします。

多様なバックグラウンドをもつ研究者,教育者が日本の学術界に増えることは,今後の心理学の発展につながると思います。現在,留学や海外のポスドクを検討している方には,ぜひ海外でさまざまな体験をし,日本へ持ち帰っていただきたいです。また,現在海外から日本での就職を検討している方にはぜひチャレンジしていただきたいです。

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