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私のワークライフバランス

ウェルビーイング模索中の研究者

青木 俊太郎
福島県立医科大学医療人育成・支援センター 助教

青木 俊太郎(あおき しゅんたろう)

Profile─青木 俊太郎
博士(臨床心理学)。公認心理師・臨床心理士。医療コミュニケーションや慢性痛への認知行動療法の効果・プロセス研究に従事。医学教育の中でコミュニケーション教育を行っている。

コロナ禍,また30代半ばになることを契機として,家族を大切にしながら,仕事や生活に時間と熱量をどう配分するかという問題に取り組まれているという青木俊太郎先生に,現在の心境を語っていただきました。

コロナ禍になってから,人生についてよく考えます。コロナ禍に原因帰属をしていますが,これが30代も半ばに差しかかった人間にプログラミングされた機能である可能性もあり,小学校の同級生に聞いたところ,同じようにこのままでいいのかなあと葛藤していました。「ばっちこい心理学」というYouTubeチャンネルを私と共同運営している岩野卓(すぐる)さんは,葛藤の結果,大学教員を辞めてフリーランスになりました。

私は「何に?どのくらい?時間を使うのか」について葛藤しています。コロナ禍では何かしなくちゃと思って,ブログや動画配信を通して,できる限りの情報発信に努めました。一方,その時間はコロナ禍でできた空白に過ぎず,今では100%(150%かも)仕事が戻り,学会にも物理的時間がとれるようになりました。30代とはいえ,体も歳を重ね,昔と同じ時間と熱量で行動するとガス欠を起こします。研究,病院臨床,医学教育,情報発信など,すべてに全力をつくす,「このペースでいけるのか?自分よ」と思い始めています。

YouTuber仲間の太田滋春(しげはる)さん(さっぽろカウンセリングスペース こころsofa)とよく話すのが,「ガチ凸とゆるぷか」についてです。太田さんとはYouTube運営について話す中で,こんな働き方でいいのかねえという話をします。ガチ凸,つまり,一つの事(特にワークですかね)に熱中するのが良い? 事務仕事に忙殺,二つ返事,アイデアが湧き出すぎて自分を苦しめ,来月には時間ができると思いつつ,その来月はいつやってくる? 周囲からの仕事も,自分のやりたいことも,いろいろなことに熱中しすぎるとしんどくもなります。

そういったことから解放され,ゆるゆると森の中でサウナに入った後に湖の上に浮かぶようなゆるぷかな過ごし方もあります。圧倒的な価値を世界に創り出すために,ガチ凸する人材はもちろん必要で,それを選択し,そこに向けて突き進むのも,かっこいい生き方だなと思います。しかし,私の人生もそう? 本当にそれが自分のウェルビーイングを満たしてくれる?

ライフのことも考えます。妻はフリーランスで,お互いわりあい自由な暮らしをしています。一人暮らしが長かったのもあり,ガチ凸ではちょっとなあと思ってから仕事のペースを抑えているので,家事はするほうかなと思います。家事だけの話ではありませんが,家庭での過ごし方や時間の過ごし方など,彼女と私の生活がもっとも満たされる生活についてよく考えます。妻のじじが言っていた「結婚生活五十数年、大切なものは家族」という言葉は忘れることはないでしょう。私にとって家族が大切であることは間違いありません。

わが家は旅をするのが好きです。メディアアーティストで研究者の落合陽一さんが言うワークアズライフという生き方[1]には,生活の中に自然と仕事が溶け込む様子が表現されています。研究者的生き方では,旅をしながら(出張や学会,ミーティングもありますよね),その道中や空き時間に仕事をし,旅先でいろいろな人と語り見識を広げ,土地の良さに触れ,美味しいものを食べリフレッシュするという形の人生の過ごし方もできると思います。旅しながら生きるは私の理想ではありますが,家族がお互いに自分のやりたいことや研究・仕事・ライフを楽しみながら,家族と過ごす時間も大切にする過ごし方は,ワークアズライフの発想に立つとより実現できるよなあと思います。

どのようなワークとライフ,そしてそれらのバランスを選択するのかは,本当に人それぞれですね。そして,より良い人生に近づくために,いろいろな価値観に触れ,まだまだ模索する毎日です。

  • 1 落合陽一(2018)日本再興戦略.幻冬舎.

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