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Over Seas

家族でのデイビス滞在を振り返る

伊藤 友一
関西学院大学文学部総合心理科学科 助教

伊藤 友一(いとう ゆういち)

Profile─伊藤 友一
2015年,名古屋大学環境学研究科単位取得後退学。博士(心理学)。2020年より現職。専門は認知心理学。共著論文にIto, Y. et al. (2019) Affective and temporal orientation of thoughts: Electrophysiological evidence. Brain Research, 1719, 148–156. https://doi.org/10.1016/j.brainres.2019.05.041など。

私は,日本学術振興会特別研究員在任期間の最終年度であった2019年8月から2020年2月までの6か月間を,カリフォルニア大学デイビス校(UCデイビス)で客員研究員として過ごしました。デイビスは,カリフォルニア州の州都であるサクラメントの隣町で,サンフランシスコにも車で1時間半程度の距離にある,大学を中心とした町です。留学当時はこどもが1歳(双子)で,ちょうど妻も育児休業中であったため,一家で渡米することとなりました。もう3年以上前のことになるので,うろ覚えのところもありますが,外国の小さな田舎町で家族と研究留学することの魅力をお伝えできればと思います。

受入先はComputational Cognitive Neuroscience Lab(CCNLab)というランドール・オライリー先生(ランディ)の研究室でした。エピソード記憶を含めた高次認知の計算論モデル研究をしている研究室で,ランディらが発展させたモデルを,私の主な研究テーマであるエピソード的未来思考(将来経験する事象を想像する認知機能)に拡張する研究を行うことを希望して選択しました。ランディと最初に会ったのは,日本で開催された国際研究会でのことで,初対面でも非常にフレンドリーに対応してくれ,あっさりと客員研究員としての受け入れを承諾してくれました。CCNLabは比較的小規模だったのですが,UCデイビスには著名な記憶研究者が主宰する研究室が複数あり,毎週それらの研究室が合同で記憶研究ミーティングを行っていました。そこでは,動物やヒトを対象とした神経科学,行動研究,計算論研究など,領域横断的な研究発表・研究紹介,議論が交わされていました。また,頻繁に学外から招待講演者が来訪し,刺激的なトークが開催されていました。田舎にあるとはいえ,UCデイビスは記憶研究の拠点として存在感のある研究機関の一つです。その背景として,組織で研究方針を共有していることの強みを実感させられる環境で,大変羨ましく感じたものでした。

現地での日常生活はと言うと,私は9時~17時を主に研究室で過ごし,妻は専業主婦としてこども達と過ごすのがルーティンでした。当時は在宅ワークをする雰囲気でもなかったので,ほとんどの平日日中を私抜きで過ごしてもらっていたことになります。正直,逆の立場ならなかなか辛く感じたかもしれませんが,幸いにも妻はうまく適応できていたそうです。現地での移動手段は主にバスで,市内の主要な場所にはバスと徒歩だけで行くことができました。妻子がよく行っていた場所は図書館,公園,教会,スーパーマーケットで,研究室からの帰りに私が図書館や公園で合流して一緒に帰宅することもよくありました。図書館は市内各地に点在しており,曜日ごとに異なる図書館でストーリータイムというこども向けのイベントが開催されていました。そこでは,読み聞かせだけでなく,歌や踊り,ペーパークラフト作りなど,さまざまな活動が行われ,こども達も退屈せずに過ごすことができました。ダウンタウンにある公園では,留学中の日本人家族とも会う機会がたびたびあり,情報交換などもできました。そのとき知り合った方々とは,今でも家族ぐるみでお付き合いさせていただいています。

このような安心した生活を私達が送ることができたのも,デイビスが大学を中心とした非常に治安の良いのどかな場所であったからに違いありません。子連れでバスに乗車するときも常に乗務員のサポートや乗客の温かい眼差しがありました。カリフォルニアということでデイビスの家賃も思いのほか高額で,生活基盤を整えるのには(妻の財形貯金も崩すくらいに)お金がかかったものの,都市部と違って比較的落ち着いた場所に広めの住居を構えることができたのも良かった点です。研究留学先を探すとき,都市部が候補地に挙がりやすいかと思いますが,家族連れであれば,デイビスのような小さな町も積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

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