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【特集】

リーダーシップ

リーダー,もしくはリーダーシップという言葉を,私たちはさまざまな場面や状況で耳にします。リーダーは集団や組織を率いていく先導者という意味ですが,組織が違えば,求められるリーダー像が異なることもあります。目的や状況,時代に応じて,効果的なリーダーシップのあり方すら変わりえます。また,特に集団内でのリーダーの影響力が強い場合,そのリーダーの発言や行動によって,集団規範やフォロワーの行動が大きく変化することも,近年の国内外の情勢を通して見てきました。

さまざまなリーダー像,ならびにリーダーシップのとり方がある中で,あらためて,これまでに積み重ねられてきた研究知見や関連研究の動向を知りたいと考え,この特集を企画しました。本特集が,現代社会におけるリーダーの役割を多面的かつ重層的に考える機会となればうれしく思います。(村山 綾)

リーダーシップ論のパラダイムシフト─リーダー中心からフォロワー中心へ

池田 浩
九州大学大学院人間環境学研究院 准教授

池田 浩(いけだ ひろし)

Profile─池田 浩
2006年,九州大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。日本学術振興会特別研究員,英知大学助教,福岡大学准教授などを経て現職。現在,産業・組織心理学会会長。専門は産業・組織心理学,社会心理学。著書に『モチベーションに火をつける働き方の心理学』(単著,日本法令),『産業と組織の心理学』(編著,サイエンス社),『〈先取り志向〉の組織心理学』(分担執筆,有斐閣)など。

心理学においては,新しい研究テーマが生まれては注目を集め,そしてある程度の研究が蓄積されると,次第にそれに対する関心も低下していくことが多い。その中で,リーダーシップは100年以上も関心が高く,かつては社会心理学を主たる分野として研究がなされていたが,リーダーシップが求められるフィールドが広がるにつれて,現在では,産業・組織心理学をはじめ,経営学,社会学,政治学,看護学などの分野を横断する学際的なテーマとなっている。本稿では,リーダーシップ研究の変遷を俯瞰的に捉え,そこに心理学というディシプリンがどのような貢献を果たしてきたかを紹介する。そして,リーダーシップのパラダイムシフトと呼べるフォロワーを中心に据えた新しいアプローチとしての「サーバント・リーダーシップ」について概説する。

社会的な要請を受け,心理学の発展とともに広がってきた「リーダーシップ研究」

リーダーシップを学問として取り上げるようになった歴史は古く,100年以上前の歴史学者であり哲学者であったトーマス・カーライル(Thomas Carlyle: 1795~1881)まで遡ることができる。彼は,1840年の講演でナポレオンなどの偉人(英雄)がそうでない人とどのように異なるかを論じ,それは「偉人論(great man theory) [1]」と呼ばれている。

この偉人論の考えを,科学的な研究として検証することに大きな貢献を果たしたのが心理学である。具体的には1900年頃から,リーダーが存在しない集団において,自ら進んでリーダーシップを発揮しようとする人とそうでない人との違いや,集団で高いパフォーマンスを上げるリーダーとそうでないリーダーとの違いを,知能やパーソナリティなどの特性に求め,実験室実験をはじめ,軍隊や産業現場をフィールドに多くの調査がなされた。このアプローチは後に「特性論」と呼ばれ,1950年頃まで続いたが,これらの研究の基盤となったのが,1900年過ぎから心理学で大きな関心を寄せられていた個人差研究である。

しかしながら,当時,リーダーの発生やリーダーシップの効果性と関連する特性が各研究や対象とする現場によって結果が異なるなど一貫性に欠けていた[2]ことから,明確な結論が得られなかった。確かに,軍隊を率いるリーダーとオーケストラを束ねる指揮者では,求められる特性が異なることは想像に難くない。そのため,次第にリーダーシップの成否の原因を,リーダーの特性から,リーダーが見せる「行動」に求めるようになる。当時は,ハーバード大学やオハイオ州立大学など数多くの大学で,現場のマネジャーの行動をつぶさに観察して,リーダーのどのような行動が現場のパフォーマンスと関連性があるかについて検証された。この関心は世界中に広がりを見せた。日本のグループ・ダイナミックス研究を牽引した九州大学の三隅二不二教授のPMリーダーシップ理論[3]もこの動向から生まれた理論である。こうしたアプローチは「行動論」として称されるが,これもやはり当時の心理学において支配的な考え方であった行動主義の影響を多分に受けていると言える。

リーダーシップ研究の萌芽とも言える2つの代表的なアプローチを紹介したが,その後のリーダーシップ研究も,図1に示すように発展している。そして,基礎学問としての心理学の発展と,その時代における社会的要請の2つの影響を受けながら,現在もなお新しい理論が生まれ続けている。

図1 リーダーシップ研究の変遷
図1 リーダーシップ研究の変遷

リーダー中心からフォロワー中心へのパラダイムシフト

皆さんは「リーダー」や「リーダーシップ」という言葉を聞くとどのようなイメージを持つだろうか。リーダーと彼ら/彼女らが率いる多数のフォロワーとの位置関係などをイメージしてほしい。例えば,国家的リーダーや企業経営者などを想像すると,図2の左にあるように,リーダーが多数のフォロワーの上に立つか,フォロワーの先頭に立って目標の達成に向けて牽引するイメージを抱くのではないだろうか。実際,私たちは子どもの頃から親や学校の教師,部活のキャプテン,生徒会長,サークルの部長などさまざまなリーダーと一緒に活動している。また,間接的ではあるがマスメディアを通じてさまざまなリーダーの姿を見聞きする。こうした直接的あるいは間接的な体験をもとに,われわれは「リーダーシップとはこういうものだ」という素朴な信念を形成している。これを「暗黙のリーダーシップ論[4]」と呼び,われわれがリーダーを評価する時や,自身がリーダーシップを発揮する時も,この素朴な信念が影響を与えている。

図2 リーダーシップのパラダイムシフト
図2 リーダーシップのパラダイムシフト

こうしたリーダーシップのイメージからも分かるように,リーダーシップ研究においても,リーダーが多数のフォロワーを主導する構造を前提とした理論が中心であった。先述のPMリーダーシップ論をはじめ,1980年代から2000年代にかけてリーダーシップ研究の中心的な理論であったカリスマ的リーダーシップや変革型リーダーシップはその代表的な理論である。これらをリーダー中心的アプローチと呼ぶ。

一方で,最近,話題となるリーダーのイメージはどうだろうか。昨年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で侍ジャパンを率いた栗山英樹監督をはじめ,昨今注目を集め,共感されるリーダー像は,かつてのリーダー中心的アプローチとは異なるリーダー像ではないだろうか。それは,リーダーを中心とするリーダーシップではなく,フォロワーの主体性を大事にするフォロワー中心的アプローチである。この転換は,リーダーシップのパラダイムシフトと言える。

こうしたパラダイムシフトの視点から,古典的な研究を改めて異なる視点から見つめ直してみると,実は,フォロワーを中心に据えるリーダーシップは古くから取り上げられていたことに気づかされる。例えば,リーダーシップ研究で最初の実験的研究として知られ,グループ・ダイナミックスの礎を築いたクルト・レヴィンとその指導学生のホワイトとリピットによる「リーダーシップと社会的風土」の実験[5]は注目に値する。レヴィンらは,子どもたちがお面作りを行う際の指導者として,専制型リーダーと民主型リーダーを取り上げ,リーダーの働きかけが集団にどのような効果をもたらすかについて検証した。専制型リーダーは,集団活動の全てを指示・決定したのに対し,民主型のリーダーは,集団の方針は可能な限り子どもたちの討議によって決定し,リーダーは討議に対する助言を行った。この古典的な研究では,リーダーシップのスタイル(質)の違いとして取り上げられることが多い。ところが,リーダーシップの構造という視点から見つめ直してみると,実は専制型はリーダー中心的アプローチであるのに対し,民主型はフォロワー中心的アプローチのリーダーシップであると理解することができる。

フォロワーの自律性と自己成長を支援するサーバント・リーダーシップ

近年,フォロワー中心的アプローチを代表する理論として「サーバント・リーダーシップ」が関心を集めている。サーバント・リーダーシップ[6]とは,ロバート・グリーンリーフが提唱した理論で「リーダーである人は,まず相手に奉仕し,相手を導くもの」という実践哲学に基づき,フォロワーを支え,支援し,目指すべき方向へ導くことを指す。

従来のリーダーシップ理論では,リーダーが目標達成に向けてフォロワーを導く際に,リーダーが多数のフォロワーの先頭に立ち,上意下達に指示や命令を行うという構造が暗黙の前提にあったのに対して,サーバント・リーダーは自身の掲げるビジョンの実現と,フォロワーの成長支援に向けて無私無欲でフォロワーに奉仕する点に大きな特徴を持っている。

実は,サーバント・リーダーシップは古くて新しい理論と言える。すなわち,この考えは,グリーンリーフが1970年に “The Servant as Leader” という著作を出版したことが始まりとされる。しかし,この理論は,30年以上もの間,リーダーシップ研究の領域ではほとんど注目されることはなかった。その大きな原因は,当時,カリスマ的リーダーに代表されるように,エネルギッシュで自信にあふれ,多くの人に影響力を持つ人物こそがリーダーであるとの考え方が主流であたったからであると言える。そのために,あまりにも時代を先取りした着想だったと言えよう。ところが2000年を過ぎた頃から,IT社会が到来し,またグローバル化が進んだことで,組織のフォロワーに自律性が求められるようになり,それを引き出しうるリーダーシップとして,サーバント・リーダーシップが注目されるようになった。

サーバント・リーダーシップはどのような効果を持つか

では,サーバント・リーダーシップは,どのような効果を持つのだろうか。ここでは他のリーダーシップ理論とは異なる3つの効果を概説する。

1つめの効果は,リーダーに対する信頼の形成である[7]。リーダーに対する信頼は,リーダーの能力や実績に起因する認知的信頼と,人柄や人間性,誠実さなどによる情緒的信頼に大別される。シャウブルックらは,変革型リーダーシップは,その卓越した能力と実績から認知的信頼の獲得と関連するのに対し,サーバント・リーダーシップはフォロワーに対する支援や奉仕などから,フォロワーは情緒的な信頼を抱くようになることを明らかにしている。

2つめはフォロワーの自律的モチベーションの促進である。デシとライアンの自己決定理論によれば,人は「自律性」「有能さ」「関係性」の3つの基本的欲求が満たされた時に自律的モチベーションが高まるとされている。サーバント・リーダーシップは,フォロワーに仕事を任せて権限を委譲すると同時に,成長を支援する。そしてリーダーとの信頼関係を形成することから,結果としてサーバント・リーダーシップはフォロワーの3つの基本的欲求を充足する機能を持つ。

3つめは,フォロワーの協力行動や協力風土の醸成である。サーバント・リーダーはフォロワーに対して支援や協力を行うが,一方で,フォロワーはサーバント・リーダーの行為を社会的に学習し,チーム内の他のフォロワーにも支援や協力を行うようになる。実際,ライデンら[8]は,レストランで働く従業員を対象に調査を実施したところ,サーバント・リーダーシップが職場のフォロワーに伝染し,それが奉仕する文化を産み出すことを明らかにしている。これと関連して,日本でも池田ら[9]は,看護集団を対象に調査を行ったところ,サーバント・リーダーシップは,まず各フォロワーとの個別の関係を築き,それが波及してフォロワー同士の関係性や結束力を形成することを実証的に裏付けている。こうしてサーバント・リーダーシップは,職場や組織の質の高い関係性を育むことで組織力の形成にも寄与する可能性が示唆されている。

サーバント・リーダーシップに伴う落とし穴

サーバント・リーダーシップは,一見すると,フォロワー一人ひとりに寄り添った理想的なリーダーシップのように見えるかもしれない。しかし,そこには思わぬ落とし穴があることにも注意が必要である[10]。それは,特定のフォロワーに向き合いすぎることへのリスクである。例えば,不安や悩みを訴えるばかりか,個別のサポートを必要とするフォロワーがいたとする。当然リーダーはそれに向き合い,配慮することが求められるが,それが行き過ぎるとリーダーとしての方針がブレてしまい,成すべきことがおろそかになるばかりか,他のフォロワーから見て公平性を欠く対応と受け取られかねない。それは,集団全体に悪影響をもたらす。

また,サーバント・リーダーシップは,放任型リーダーシップとも紙一重である。先のレヴィンらの実験では,専制型と民主型,そして放任型の3つのリーダーシップが比較された結果が紹介されているが,実は,本来は専制型と民主型リーダーを比較する予定が,民主型リーダーを演じる大学院生が演技に失敗してしまい,結果として放任型リーダーが生まれたことはあまり知られていない。

サーバント・リーダーシップは,フォロワーに仕事を任せて,それを支援することを特徴とするが,任せるだけ任せて,その後の支援がなければフォロワーから見ると丸投げと受け取られ,放任型リーダーと評されてしまう。単に仕事を任せるだけでなく,なぜその仕事を任せるのかの期待を寄せて,仕事を遂行する途中も観察と必要に応じた支援を提供し,そして仕事が完了した際にはねぎらいや感謝などの有形無形の報酬を提供する必要がある。

まとめ

本稿では,リーダーシップ研究の動向を俯瞰的に概観し,そして昨今注目を集めるフォロワー中心的アプローチとしてサーバント・リーダーシップについて概説した。かつてのリーダー中心的アプローチの研究では,リーダーがどのようなリーダーシップを発揮し,それが集団のパフォーマンスにどのような効果を持つかについて関心が寄せられていたものの,そのプロセスにおいて中心的な役割を担うフォロワーの存在や反応や行動について十分に考慮されていなかった。ややもすれば,フォロワーは,リーダーのビジョンや指示に対して無批判に従う存在と暗黙に想定されていた。

しかし,指摘するまでもなく,フォロワーも自らの意思を持つ人間である。そして,元来,フォロワーも集団の一員として主体的に振る舞いたいと願う存在であることを考えると,そのフォロワーが自ら考え,判断し,そして目標の達成に向かうことができるよう,リーダーがいかに働きかけるべきかを問うサーバント・リーダーシップ理論の誕生は,至極当然の流れであり,今後ますます研究が進められるべきテーマであると言えよう。

  • 1.カーライル,T. /老田三郎訳 (1949) 英雄崇拝論.岩波文庫
  • 2.池田浩 (2017) 個人特性とリーダーシップ.坂田桐子編著,社会心理学におけるリーダーシップ研究のパースペクティブⅡ,pp.63-80.ナカニシヤ出版
  • 3.三隅二不二 (1984) リーダーシップ行動の科学(改訂版).有斐閣
  • 4.Lord, R. G., & Maher, K. J. (1994) Leadership and information processing: Linking perceptions and performance. Routledge.
  • 5.White, R., & Lippitt, R. (1960) Leader behavior and member reaction in three “social climates”. In D. Cartwright & A. Zander (Eds.), Group dynamics (2nd ed.) (pp.527-553). Harper.
  • 6.Greenleaf, R. K. (1970) The servant as leader. Greenleaf Center.
  • 7.Schaubroeck, J. et al. (2011) JAP, 96, 863–871.
  • 8.Liden, R. C. et al. (2014) AMJ, 57, 1434–1452.
  • 9.池田浩・黒川光流 (2018) サーバント・リーダーシップの波及効果と職場活性化.日本リーダーシップ学会論文集, 1, 24-30.
  • 10.池田浩 (2021) モチベーションに火をつける働き方の心理学.日本法令
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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