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学習心理学って知っていますか?

永石 高敏
帝塚山大学心理学部 准教授

永石 高敏(ながいし たかとし)

Profile─永石 高敏
関西学院大学大学院文学研究科総合心理科学専攻博士課程単位取得満期退学。博士(心理学)。専門は学習心理学。著書に『心理学研究法3 学習・動機・情動』(分担執筆,誠信書房),訳書に『ドムヤンの学習と行動の原理(原著第7版)』(分担翻訳,北大路書房)など。

心理学という学問領域について

みなさんは「心理学」と聞くと,どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。例えば,感情・心理テスト・カウンセラーなどのイメージを思い浮かべることが多いのではないでしょうか。

心理学とは,「心」を科学的に研究し,「心」の機能を解明する学問領域です。「心」の状態はさまざまな行動に反映されることが考えられ,その行動を科学的に研究することで,「心」の機能を解明しようとしています。また,科学的な研究とは,例えば心(行動)についてある仮説を立て,その仮説を検証するために実験や調査を用いデータを集めます。そして,そのデータを分析することで,仮説の是非を確かめます。

その心理学には,さまざまな専門領域があります。大きく分けると「基礎心理学」と「応用心理学」に分けることができます。基礎心理学とは,ヒトや動物の心の生物的・基本的機能を実験・調査に基づき明らかにしようとする領域で,応用心理学とは基礎心理学の領域で得られた知見を社会や現実場面に応用しようとする領域です。

今回みなさんにご紹介する「学習心理学」は,基礎心理学領域の学問になります。

学習心理学とは?

学習心理学という言葉を聞くと,みなさんは勉強に関係した心理学をイメージするかもしれません。ところが,実際の学習心理学はほとんど勉強とは関係のない心理学になります。学習心理学の学習とは,「経験によって生じる比較的永続的な行動の変化[1]」と定義されています。つまり,学習心理学とは生物が環境にどのように適応し,新たな行動を獲得したり,すでにある行動をどのように修正するのかという生物的および心理的な側面に関する心理学なのです。

学習心理学の代表的なトピックとして,「古典的条件づけ」と「オペラント条件づけ」があります。

例えば,空腹のイヌにエサ(無条件刺激)を見せると,唾液を出します(無条件反応)。これは,唾液反射と呼ばれる生得的な無条件反射[2]ですが,その際にエサと一緒に例えばベル(条件刺激)を繰り返し提示すると,最終的にイヌはベルを聞いただけで唾液を出すようになります(図1参照)。これを「古典的条件づけ」といいます。

図1 古典的条件づけの例および図式(文献1の図をもとに作成)
図1 古典的条件づけの例および図式(文献[1]の図をもとに作成)

また,箱に入れられたネコは,箱内を探索し,箱内の紐を偶然に引っ張ると,箱の扉が開き,外に出られ,エサが食べられるという経験をします。その後,同じように箱に入れられたネコは,次第に紐を引っ張って外に出るまでの時間(脱出時間)が短くなっていきます(図2参照)。このように,ネコは箱内(刺激)の紐を引っ張る(反応)ことでエサ(結果)が得られるという経験をすることによって,紐を引くという行動が増加します。このような学習を「オペラント条件づけ」といいます。このオペラント条件づけでは,反応した後にポジティブな経験をするとその反応は増加します。その反対に,反応した後にネガティブな経験をするとその反応は減少します。

図2 オペラント条件づけの例および図式(文献1の図をもとに作成)
図2 オペラント条件づけの例および図式(文献[1]の図をもとに作成)

このような条件づけは,無脊椎動物からヒトに至るまでのさまざまな動物種に共通する行動原理とされています。

日常生活における行動メカニズムについて

この条件づけは,日常生活のさまざまな行動のメカニズムについて説明することができます。

例えば,皆さんはある食べ物を食べた後に,おなかを壊したりしたことによって,その食べ物を食べられなくなったという経験はないでしょうか。これは「味覚嫌悪学習」とよばれる古典的条件づけによるもので,食べ物が条件刺激,菌やアレルギー物質などが無条件刺激となり,その二つ刺激が対提示されたことで,その食べ物に対する嫌悪が学習されます。

また,皆さんは夏や冬にエアコンをつける頻度が多くなりませんか。これはオペラント条件づけによって説明することができます。夏も冬もエアコンをつけることでポジティブな経験(涼しくなる/暖かくなる)をすることで,その結果エアコンをつけるという行動が増加していきます。その他にも,CMやSNSによる宣伝効果(古典的条件づけ)や動物園などの動物たちのショー・パフォーマンス(オペラント条件づけ)なども学習心理学よって説明することができます。

このように,学習心理学によるアプローチを行うことで,日常生活のさまざまな行動のメカニズムを理解することができます。また,応用心理学領域である臨床心理学とも深く関連しており,例えば不安症や恐怖症などの治療において,学習心理学の知見が活用されています。おそらく皆さんにとって,学習心理学という学問は聞き慣れない言葉だと思いますが,今回の記事を読んでいただき,少しでも学習心理学に興味・関心を持っていただけますと幸いです。

引用文献

  • 1.中島定彦 (2019) 学習と言語の心理学.昭和堂
  • 2.無条件反射とは,無条件刺激によって無条件反応が誘発されるという生得的な関係を指します。誘発される無条件反応との関係のことをします。

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