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私のワークライフバランス

子どもを取り巻くつながりこそ,膨大なフィールドワーク

髙橋 尚也
立正大学心理学部対人・社会心理学科 教授

髙橋 尚也(たかはし なおや)

Profile─髙橋 尚也
2008年筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程修了。博士(心理学)。専門は社会心理学,コミュニティ心理学。2021年より現職。著書に『住民と行政の協働における社会心理学』(単著,ナカニシヤ出版)など。

配偶者の方との二人三脚で,また地域や職場の方々と協力・連携しながらコロナ禍を乗り越えてきた髙橋尚也先生。地域活動でのご縁がご自身の研究の視野を広げたことを語ってくださいました。

私は,地域コミュニティに関する社会心理学の研究をもとに2008年に学位を取得しました。その後2年を経て,立正大学に新学科設立メンバーとして就職し,さらに1年半後,妻と結婚しました。妻はフルタイムの会社員です(でした。最近,起業しました)。

2014年に第一子(女児)が生まれます。妻は翌年秋に復職しますが,娘ははじめ認可保育園に入れず,2016年度から認可保育園に入園できました。よかったと感じていることは「職住『保』近接」です。子どもの発熱時,午前は妻が家で私が職場,午後は逆のように分担でき,お互い職場への影響を低減することができました。

娘の通った認可保育園は,東京タワーの麓にある廃校になった小学校の1・2階にあります(上階には学童クラブも)。この保育園でできたパパ友・ママ友・地域のつながりは,サポート縁・情報縁・人脈として宝です。多様な職業・背景の人がいて,私のような大学人が事業や企業の話も聞けたことは刺激になりました。

2020年のCOVID-19はチャレンジでした。2020年夏に第二子(男児)が誕生します。ちょうどそのとき,私は学部の入試責任者でした。コロナ用の新規対応の作成,YouTubeライブでオープンキャンパス,オンデマンド授業,家には娘と妊娠中の妻…,あの自粛期間は,皆が寝静まった夜中に仕事をしていたことを思い出します。とにかくコロナ禍での息子の誕生は夫婦二人だけで乗り越えるしかありません。息子が生まれた日,娘を預かってくれたのも保育園のお友達のお家でした。この間,職場で注力したことは情報共有と代理がきく体制づくりだったように思います。そのとき,理解ある学部長や学科主任の存在は支えでした。また仕事の中で,ワークライフバランスへの理解や共感は「世代ではない」と実感しました。大学院時代,研究室の先輩が研究されていた種々の判断基準[1,2]が,配偶者が有職か・どんな働き方か,家事ウエイトがどうか,保育園か幼稚園か,親の助けが得られるかなどで変わるため,その家庭ごとに基準が異なるのです。そこで,私は「うちはこうです」と家庭の状況を意図的に職場で話すようにしています。前提を示した上で議論したいための私なりの工夫です。

研究となると,年1回以上の学会発表や科研費獲得など最低目標はクリアしていますが,芳しくありません。研究に集中する時間を割けず後ろめたさを感じていましたが,最近,認知を変えました。保育園,保育園の役員,学童,学校,PTA役員,地域の菜園クラブへの参加…私の日々の生活が,膨大なフィールドワークなのだと。自分が博論で提唱したモデルが適用できる部分があることや,子どもや地域のエンパワメントを妨げうるリアルな課題も体験しています。これらの課題をデータで照らし出すことが今の研究目標です。

共働きの妻と約束していることがあります。日々の送迎や家事は時間に自由のきく私の方が多くやるから,年に2~3回,国内外の学会出張のときは子どもたちをお願いねと。国際学会に行く機内や現地滞在中は研究アイデアを具現化する集中時間となっています。

妻と子どもたちとの生活は,私に「いつでもチャレンジできる」という感覚を与え,前向きにさせてくれていると感謝しています。

  • 1.宇井美代子 (2002) 青年心理学研究, 14, 41-55.
  • 2.宇井美代子 (2005) 社会心理学研究, 21, 91-101.

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