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イギリスの北へ南へ東へ西へ
古見 文一(ふるみ ふみかず)
Profile─古見 文一
2015年,京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。日本学術振興会特別研究員PD,JSPS-ERC特別研究員を経て2018年より現職。専門は発達心理学。著書に『ロールプレイを通じて高める他者理解』(単著,ナカニシヤ出版),『はじめての発達心理学』『はじめての心理学概論』(ともに共編著,ナカニシヤ出版)など。
私は,大学院生時と日本学術振興会特別研究員PD時にイギリスのさまざまな場所に留学しました。コロナ禍以降,円安の影響等もあって海外が遠く感じられるようになりましたが,イギリスの雰囲気を感じていただければ幸いです。
最初は,M1の冬に,バーミンガムに滞在しました。バーミンガムは,ロンドンから北西の方角にある街です。到着したヒースロー空港でスーツケースを盗まれそうになり,金銭を要求されて1000円札を「コレ!100ポンドくらいの価値はあるから!」と言って渡して逃げたり,バーミンガムまで行くはずの列車が途中で停まり,真っ暗なよくわからない田舎に放置されたり,次の日にはパスポートを盗まれたりとさまざまな出来事がありましたが,現地で親切な人に助けてもらい,なんとか生活ができました。大学は,面白い建築物などがあり,歩くだけでも楽しいものでした。大学では,授業に参加させてもらったのですが,「Theory of Mind」という授業があって,「半期ずっと心の理論の話をする授業があるとは!」と驚きました。
次は,D1の秋からプリマスに滞在しました。プリマスはイギリスの南西部にある港湾都市で,プリマス大学の先生のところにホームステイしました。先生と一緒に大学まで行って帰ってくる毎日でしたが,夕方ごろにパブに30分ほど行って,いろいろな研究者と交流を深めて,家に帰って家族で夕食の時間を過ごすというのが,とてもイギリスらしいなと感じました。休日の夜に,自然豊かな場所にある家から,先生の家族と一緒に歩いてパブに行く時に見た満天の星は今でもよく覚えています。プリマスでは,現地の幼稚園や特別支援学校を見学させてもらいましたが,見学した幼稚園では,日本の幼稚園よりもさらにはっきりとした色使いで活動の場所が分けられていたのが印象的でした。プリマス滞在後はランカスターで過ごしました。ランカスターは,バーミンガムよりもさらに北に位置する街です。大変のどかな街で,歩いていると大きな馬のフンを何度も踏みそうになりました。受け入れの先生に誘っていただいて,映画を観たり教会で歌を歌ったりと,ここでもイギリスの文化に深く触れることができました。
日本学術振興会特別研究員PDの時には,JSPS-ERC特別研究員としてUniversity College Londonで研究を行いました。JSPS-ERCのプログラムに応募するため,日本から最初に受け入れ教員の先生とオンラインミーティングをした際には,自前の実験をする予定だったのですが,現地では,ヴァーチャルリアリティでやった方が面白そう!という話になって,いきなり初挑戦のプログラミングをして実験を行うことになりました。さらにもともと考えていた実験計画だけでなく追加の実験まで行いました。なんというスピード感!ロンドンの街は,やはり都会的で休日はミュージカルを観たり,買い物に行ったりという暮らしでした。また,ロンドンでは,外国出身の人も多かったので,イギリスの伝統的な雰囲気というよりは,都会的なイギリスを感じることが多かったです。滞在中にも,日本人の研究者が何人も訪れ,そこで日本人のいろいろな人とも繋がりを持ちました(妻もこの滞在中にロンドンを訪問した研究者の一人です)。また,ロンドンには大学が他にも多くあったので,毎日いろいろな人の研究の話を聞くことができました。
あらためて振り返ってみると,海外では災難にも多く遭いましたが(ちなみにバーミンガムで盗まれて再発行したパスポートは,次は8年後にギリシャで盗まれることになります。今のパスポートこそ10年フルで持つことが目標です),それ以上に多くの親切な人たちに巡り合い,振り返ってみると,ネガティブなことよりもポジティブなことの記憶の方が強く残っているように思います。パスポート盗まれるなんて怖い!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが,意外となんとかなりますし,経験の一つとして成長できます。私も1回目に盗まれた時の再発行パスポートの写真は泣き顔だったのですが,2回目に盗まれた時の再発行パスポートの写真はにこやかな顔です。若手研究者の方には,ぜひ怖がらずに海外に飛び出してもらいたいと思います。
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