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若手の会から
個人の尊重について考える
私はハラスメントにあったことも,道ゆく他人からかなり不快なことをされて通報したこともある。明確に「個人の尊厳を踏みにじるよくないこと」だと誰もが思うこと以外にも,真綿で首を絞められるような苦しみを感じる出来事がもっと日常にあふれている。例えば,仕事と生活の両立について人ごとのようでいられる人を見たときとか,他者をケア・キュアする人がネガティブな気持ちを口にしにくいこととか。「あなたがそれを負うのが当たり前」というステレオタイプを押しつけられて,でもそれを飲み込むしかなくて,鈍感になることでやり過ごしてきたことは山ほどある。もちろん,ステレオタイプな価値観にあまり縛られずに一人の人として向き合ってくれる人もたくさんいるし,逆に,私にはその視点がなかったと,はっと反省することもある。アイデンティティやバックグラウンドにかかわらず誰でも,そうした「その人個人がどうしたいか,どうありたいか」を無視される嫌な経験も,自分が相手に対してしてしまった経験もあるのではないだろうか。
私は前職でハラスメントや過労死等の研究をしたが,具体的な実態を知り体制をよりよく変えるための研究は,志してもたくさんの障壁があることをいくらか見た。明確に「よくないこと」と誰でも思うことですらそうなのだから,「それが当たり前」と背負わされている真綿チョークタイプの苦しみについては,もっと道のりが長そうに思える。
アーリーキャリアの研究者を取り巻く問題はいろいろあるが,一般社会の普遍的な問題としても捉えられる部分はあると思う。私たちには,エビデンスとしてまとめていくための道具である研究がある。声をあげると,日本などでは変わった人と見られてしまうのではと怖い気持ちもあるが,若手の私たちができることを具体的に考えていきたい。
(若手の会幹事 川上 澄香)
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