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常務理事会から
講演会の開催方式と, 心理統計の標準カリキュラムの検討について
日本心理学会の仕事を大きく分けると,大会の開催,学術誌・啓発誌(心理学研究,JPR,心理学ワールド)の刊行,その他の研究,教育に関する仕事,認定心理士の認定に関わる仕事に分類できます。学術担当常務理事は,このうち,「その他の研究,教育に関わる仕事」の国内での展開を,いくつかの委員会と共に担っています。そうした委員会のうち,一番大きなものは,教育研究委員会です。この委員会は,いくつかの小委員会から成り立ち,最も大きな委員会は,講演・出版(主として単行本)活動の中心となる講演・出版等企画小委員会です。
日本心理学会が実施している講演会やシンポジウムには,公開シンポジウム,高校生のための心理学講座,認定心理士の会が実施する講演会やセミナーの3種類があります。コロナ禍では,全てオンラインで実施していましたが,現在,対面実施に戻しつつあります。しかし,オンライン実施にも利点があることから,単に対面実施に戻すのか,対面とオンラインを組み合わせた方がよいのか,組み合わせるとすると,どのような組み合わせればよいのかという問題が生じてきます。
対面形式は,会場の空気に触れることもでき効果的なものですが,その恩恵を享受できるのは会場に赴ける方だけです。また,企画,実施の手間や費用に比し,参加者の数が少ないこともありえます。オンライン実施では,全てのイベントが日本全国,いや世界中で視聴可能になり,録音・録画した素材をいつでも視聴可能な形で置いておく,オンデマンド型配信も可能になります。つまり,空間的,時間的制約を乗り越えた講演会が実施可能になり,聴衆の数も多くなります。その反面,講演そのものや,イベントとしての効果は限定されます。講師と,参加者間での直接の交流もなく,懇親の場を設けることもできません。この2つの開催方式をどう組み合わせ,実施していくか,みんなで頭をひねっていきましょう。
次に,心理統計法標準カリキュラム作成委員会の活動を紹介したいと思います。この委員会は,広報委員会が2年前に開催したYouTubeライブイベント,「話題の論文について著者と語る」を契機として,発足しました。このライブは600名余の参加を得,大盛況でした。勉強になった,勇気づけられた等の声とともに,心理学研究者/大学院生/学生の統計への理解度に関する疑問も浮き上がってきました。そうしたことから,日本心理学会として,統計法の基礎を学ぶ標準カリキュラムを作り,提案していく必要があると考え,この小委員会を組織しました。本委員会は,三浦麻子氏を委員長とし,6名のメンバーが,月1回のペースで議論を重ねています。また,2022年度から2度にわたり,大会で「心理統計教育の標準カリキュラム・シラバスはいかにあるべきか」と題したシンポジウムも開催してきました(この2つのシンポジウムはYouTube上で視聴できます)。委員会では,統計教育のカリキュラムを,「研究論文を読むための統計学」「研究を行うための統計学」「高度な統計手法を駆使した研究を実施するための統計学」という3層の構造を持つものととらえ,基盤となる1層目(Basic Statistics)の授業計画を記したコマシラバスを,委員会のサイトで公開しています(https://sites.google.com/view/jpa-psychometrics/home)。
また,到達度確認用の「ドリル」も提供します。さらに,本委員会は,統計法の理解に必要な数学の講座を計画し,第1回を本年3月に実施します。本稿が刊行される頃には,すでに実施されているはずですが,700名余の参加申し込みがあり,この問題への関心の高さに驚かされました。本委員会の今後の活動に,注目していただくとともに,心理統計教育に関心を持つ方々のご意見を待っています。(学術担当常務理事/東京大学名誉教授・人間環境大学教授 佐藤隆夫)
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