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巻頭言
社会に開かれた 『心理学ワールド』 に注目する
松見 淳子(まつみ じゅんこ)
『心理学ワールド』誌は日本心理学会と社会をつなぐ役割を担っていると考えています。私にとり,自分の専門外の研究と実践領域を広く知る機会にもなりますし,新しい企画の扉を開く楽しみもあります。心理学を専門としない方にも本誌をお読みいただくことで社会に開かれた心理学のイメージを育んでいただきたい,と願っております。最近,研究成果の社会還元,すなわち社会実装の検討が現実味を帯びてきました。
アメリカ心理学会の『Monitor on Psychology』マガジンは『心理学ワールド』と機能が類似していますが,心理学の教育,研究,実践に必要な情報を発信しています。その中で,社会還元に関わる重大なテーマの一つとしてEquity(公平性)の問題が際だっています。多文化社会とダイバーシティへの理解を深め,歴史的な「格差」や「差別」の根拠を探り是正する動きが世界的に活発化するなか,この問題に適切に対応するためには,『心理学ワールド』や『Monitor on Psychology』が学会の入り口で広く多様な社会との風通しを良くしておくことが必要ではないでしょうか。
研究の社会実装を論じるには,実践現場に精通することが条件です。実装化へのヒントを見つけられる研究も注目を浴びています。世界保健機関(WHO)は有効な支援へのアクセスに関する格差問題の深刻化を報じています。メンタルヘルスのケアにおいて,効果的なサービスへのアクセスの公平性は保障されていません。このため,有効な介入法を社会に普及させるための研究開発が急がれています。Dissemination(普及)とImplementation(実装)をつなぐ D & I 研究の増加が見込まれています。
実際,『心理学ワールド』の創刊号から本誌106号までに含まれる豊穣な課題は,D & I に繫がるような心理学の社会的進化の道を示唆しています。101号「特別企画」では,最近十数年の『心理学ワールド』を俯瞰し,トピックモデルの手法を用いて,主題を分析しています[1]。結果は時代を反映するものです。2020年から本誌へのオンラインアクセス数が急増していることも注目すべき社会現象です。『心理学ワールド』が時代の息吹を感じさせ,研究の成果が社会に還元され,発展し続けることを期待しています。
Profile─まつみ・じゅんこ
ハワイ大学大学院心理学科博士課程(臨床心理学専攻)修了(Ph.D.)。米国・東西文化センター大学院奨学生,ニューヨーク大学医学部精神科臨床講師・ヴェレビュー精神病院サイコロジスト,ホフストラ大学心理学科教授,関西学院大学文学部総合心理科学科教授などを経て定年退職。専門は臨床心理学,比較文化心理学。著書に『現代の臨床心理学1 臨床心理学専門職の基盤』(共編著,東京大学出版会),Counseling across Cultures(分担執筆,Sage),Handbook of Culture and Psychology(分担執筆,Oxford University Press)など。
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