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色のイメージが行動や知覚を変える
森田 愛子(もりた あいこ)
Profile─森田 愛子
2003年,広島大学大学院教育学研究科博士課程後期修了。博士(心理学)。日本学術振興会PD,福岡教育大学を経て,2008年から広島大学教育学研究科(現在は人間社会科学研究科)。専門は教育心理学・認知心理学。著書に『生徒指導・進路指導論』(編著,協同出版),『認定心理士資格準拠 実験・実習で学ぶ心理学の基礎』(共著,金子書房)など。
みなさんは「色彩心理学」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。「色で気持ちが変わる」?「好きな色で性格がわかる」?確かに,色から連想されるイメージがあることは,実証されています。日本では,例えば,白-純潔,赤-怒り,灰-不安などの連想関係があります[1]。ここでは,色の連想イメージが,どのように心や行動に影響するかを紹介します。
色の連想イメージは行動や判断にも影響
わかりやすい例を挙げましょう。色と温度の連想関係は,多くの人に共通しています。赤-熱い,青-冷たいという連想関係があることが,多くの研究で実証されてきました[2]。この連想関係は,水道の蛇口など,日常生活でも使われています。色は人間の注意を惹くのに非常に適した手がかりなのです。信号も,その典型的な例です。
色と味覚の間にも,比較的共通した連想関係があります。例えば,ピンクや赤系統の色は甘い味,黄や緑は酸っぱい味,などの連想関係があるとされています[3]。食べ物や飲み物自体の色が,これらの色である必要はありません。食べ物や飲み物が入っているパッケージ,ラベル,カップなどの周りの色も,味を連想させます。ですので,色と味覚の連想関係に関する色彩心理学の知見は,食べ物のパッケージや飲み物のラベルなどに活用されています。
このように,色と味覚の連想関係はある程度安定しており,手がかりとしても機能しています。ただ,文化や発達段階によって,その連想関係がやや異なることもわかっています[3]。日本で育った人が,他の国の食べ物のパッケージを見て連想する味は,実際とは違っているかもしれません。色と味覚の連想関係は,少なくともある程度は経験による,学習されたものであることがわかります。
「数学-青」?
赤-熱い,黄-酸っぱい,などの連想イメージは一般的で,日常生活でも使われていますから,行動や判断の手がかりとして機能するのも納得できます。では,日常生活で必ずしも使われていない連想関係の場合も,手がかりとして機能するのでしょうか。行動をうまく誘導してくれるのでしょうか。
調べてみて面白かったのが,教科と色の連想関係です[4]。教科から連想される色は,少なくとも日本ではある程度一致しているようです。一致度の高かった教科-色の連想関係は,国語-赤,数学-青,理科-緑です。社会-茶も比較的多くの人が連想していました。そこで,その連想関係が,行動にも影響するかを調べる実験をしてみました。画面に呈示される教科名を見て,それが,国語・数学・理科・社会のいずれかを,なるべく速くキー押しで答えてもらう実験や,画面に呈示される複数のノートを模したイラストの中から,指示されたターゲット教科名の書かれたイラストをなるべく速く探してクリックしてもらう実験で,反応の速さを測りました。教科名の背景には色が塗られており,教科のイメージに一致する色だったり,他の教科のイメージに一致する色だったり,中立的な黒色だったりしました。もし,連想する色が判断の手がかりになるのなら,教科名とそのイメージに一致する色が一緒に呈示されたときに,キー押しやクリックが速くなるはずです。実験の結果,背景色やノートの色が教科の連想色と一致していると,不一致のときより速く反応できることがわかりました(図1はその結果の一つ)。やはり,色が手がかりとして有効だということがわかります。
色は知覚にも影響
さらに面白いのは,色の連想イメージによって,実際の感じ方まで変わってしまうということです。例えば味覚については,オレンジ色のパッケージに入ったジュースや,オレンジ色のカップに入ったホットチョコレートは,他の色のパッケージやカップに入っている場合より甘く感じるという研究があります。他にも,コーヒーや炭酸水,ポップコーンや乳製品,チョコレートなど,さまざまな飲食物を用いた実験で,色によって実際に感じる味が異なることが実証されています[5]。
好きな色で性格がわかる?
もちろん,色から連想されるイメージには,感情に関するものもあります。冒頭に書いた赤-怒り,に加え,ピンク-幸福,黄-楽しい,などの関連が示されています[1]。
それを考えると,好きな色と性格に関連があってもおかしくないような気がします。ところが,私も過去に調査をしてみたことが一度だけありますが,ほぼ全くと言っていいほど関連はありませんでした。一つの色でも,いくつもの連想イメージを持っています。すでに書いたように,文化によって連想イメージが異なることもわかっていますし,個人の経験によっても連想するイメージは違います。さらに,「好きな色」の理由はさまざまです。同じ色が好きな人でも,「自分のイメージに合っているから好き」な人と「自分にないものを求めるから好き」な人では,性格は全然違うかもしれません。色の連想イメージというより「小さい頃から身につけていたからなんとなく好き」「自分に似合うから好き」などの理由もあります。最近は,「推し色だから」という理由も耳にします。「好き」の原因の多様さを考えると,好きな色から単純に性格傾向を把握するのは難しそうだということがわかるのではないかと思います。
引用文献
- 1.大山正 (2011) 心理学評論, 54, 456–472.
- 2.Lorentz, E. et al. (2016) Vis Cogn, 24, 173–181.
- 3.Spence, C. (2015) Flavour, 4, 21.
- 4.山下彩花・森田愛子 (2022) 教科のイメージカラーが行動に及ぼす影響. 日本認知心理学会第19回大会発表論文集.
- 5. Spence, C. (2018) Food Qual Prefer, 68, 156–166.
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