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私のワークライフバランス
駆け出しパパ期のライフとワーク
土元 哲平(つちもと てっぺい)
Profile─土元 哲平
2020年9月,立命館大学大学院文学研究科博士後期課程修了(博士・文学)。専門は文化心理学。
日本学術振興会特別研究員PD(大阪大学人文学研究科)を経て現職。著書に『転機におけるキャリア支援のオートエスノグラフィー』(単著,ナカニシヤ出版)など。
研究者として歩み始める中,父親になった土元哲平先生。育児をする中で父親・研究者として自分の代わりはいないことを痛感。研究と生活の維持は挑戦的なものであることを語っていただきました。
2021年12月,新型コロナ感染拡大の第3波の最中に娘が生まれました。この時期は,感染症に対する制限が厳しい時期だったのですが,幸いにして,娘が生まれた病院では,出産時のみ立ち会うことができました。それから生後しばらくは,産前には想像もしなかった子育ての現実に圧倒されました。“泣く”,“吐く”,“こぼす”はかわいいもので,娘が急に咳き込んだりすると,同時に「次は私か,妻か……」と恐怖が襲います。さらに,私と妻の両親の実家が遠方にあったこともあいまって,ますます,“休まらない,終わりのない育児”であるかのように感じました。子育ては決してつらいだけの時間ではなく,楽しい,癒やしの時間でもありますが,投げ出したくなる瞬間も少なからずありました。一方で,親としての役割から逃げ出すことは,自分をも裏切ることだ,という思いもあり,その緊張感の中で育児に関わっていました(考えすぎでしょうか?)。
私が父親になったのは,博士学位を取得後,ポスドク研究員として雇用されている時期でした。仕事との関係で育児についてふり返ると,裁量性が高いこの時期に娘が誕生したことは,育児に関わりやすくさせた一つの要素だったと感じます。例えば,朝の3時から6時頃まで論文執筆(兼・途中で娘が泣いたら育児)をするぐらいの自由度がありました。一方で,産休や育休取得については,難しさを感じていました。私一人の給料で家計をやりくりしていましたので,産休を取る(=収入が激減する)ことは,出費がかさむ産前産後においては特に致命的だったのです。また,任期付きのポストでは,成果を上げなければ生活も危うくなります。育児に携わる中で,研究職は,究極的には“自分の代わりがいない仕事だ”ということを痛感しました。
あれから約2年4か月が過ぎ(執筆現在),娘は一人でできることが増えてきました。現在では,常勤として大学に勤めており,比較的ライフとワークの“バランス”が取れているように感じます。しかし,まだ私は任期付き教員ですし,第2子出産という将来のことを想像すると,この状況は刹那的なものだろうと思います。そもそもキャリアにおいて“安定”はあり得ないとはいえ,研究を進めながら生活を維持していくことは常に挑戦的なものだろうと感じています。
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