公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

ここでも活きてる心理学

心の教室の先生

岐阜県可児郡御嵩町教育委員会 向陽中学校 教育相談員

小松 渓太(こまつ けいた)

Profile─小松 渓太
2017年,日本福祉大学子ども発達学部心理臨床学科心理臨床専修卒業。認定心理士。長野県の適応指導教室でのボランティアを経て,2018年より現職。日本福祉大学大学院社会福祉学研究科心理臨床専攻修士課程在学中。

相談室で生徒と会話している様子
相談室で生徒と会話している様子

「先生のおかげで人を信じていいのかなって思えたよ」

この言葉は昨年度の卒業式直後,相談室に通っていたある卒業生が大粒の涙を流しながら私に読んでくれた手紙のワンフレーズです。

私は7年前より岐阜県の公立中学校で学校常駐の心の教室の相談員(以下,相談員)を務めています。相談員は,校内の相談室にて教室に入れない生徒の話を聞くこと,教室復帰支援などが主な業務内容です。相談員になった当初,学校内に多くの支援者がいる中で,「相談員」ができることはなんだろうと考えていました。スクールカウンセラーのような心の専門家でもなく,教員免許をもった先生でもない,けれども学校では「先生」と呼ばれる立場であり,生徒と向き合いながら戸惑いを感じていました。

こうした中,心理学で学んだことを心に留めておくことで自分の中に立ち返ることができる基盤ができました。それは,学校問題が多様化する中で,さまざまな悩みを抱える児童生徒一人ひとりに対してきめ細かく対応するために,多様な専門家の支援による相談体制を作っていくことが大切であること,「チーム学校」の中の専門スタッフとして,自分の専門性を意識しながら,学校や教師との連携を促進することです。

「チーム学校」での相談員の強みは,「継続的な関係性の中での支援」です。これは学校に常駐する相談員だからこそ行える支援です。相談室で生徒と過ごしていく中で継続的な関係性がもてるようになると,生徒が誰にも言ったことがないような心の本音を吐き出してくれるなど,私に対しての心の開き方が変化してきたことを実感するようになりました。

また,相談員は生徒から,“話していなくても安心できる,信頼できる関係性”も求められていると感じます。相談室に来る生徒は「大人」や「世の中(社会)」に対してかなり強い不信感をもっています。そうした生徒たちに継続的な支援を行い続け,寄り添い続けた結果,“世の中信じられない人や信じられないことも多いけど,信じてもいいかなと思える人も世の中にはいる”という実感をもってもらえるようになることもわかりました。冒頭で紹介したような生徒を見ると,相談員としての喜びにもつながります。

このように,生徒にとって身近な立場として,話しやすい“近所のお兄さん”のような関わりをもつことができるのは,学校に常駐し生徒と同じ時間を過ごす相談員がもつ“非専門性の強み”であると私は考えています。相談員が第一の話し相手となり信頼関係ができてくると,生徒が自分の心の内を話してくれるようになります。そこから学校の体制として生徒の心の支援が進んでいくことも経験してきました。そこに“非専門家の専門性”があると考えるようになりました。

教育の専門家である教師,資格をもつスクールカウンセラーなど,学校ではさまざまな専門性をもった人たちがチームを組んで生徒支援に当たっています。その中に相談室が位置づいていることの意義を考えながら,相談員ではできないこと(弱み)を知り,それを教職員や他専門家の力を借りながら連携協働していくこと,それが児童生徒のためのチームであり,より有効な心理支援につながります。これまでの,そして今後の経験を子どもの心の支援にどう活かしていくのか,探究し続け,伝えていきたいと考えています。

PDFをダウンロード

1