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巻頭言

比較心理学と時間の研究

新潟医療福祉大学心理・福祉学部心理健康学科 教授
坂田 省吾(さかた しょうご)

学部3年の時に杉本助男先生から動物の学習についての講義を受けて,「動物ってこんなこともできるんだ!」と感じたことがこの道に入った最初でした。客観的データを得るために,できるだけ自動化した機械で実験をしようとしたことから,必然的に機械いじりもしていました。当時はまだパソコンもなく,TK-80という8ビットマイクロコンピュータのキットを半田付けして組み立てて使っていました。ラットを使った実験は面白く,結果が出るのが楽しみでした。どんなものでも実験計画を工夫すれば興味ある対象の弁別実験をすることが可能ですが,私の興味の対象は時間経過の感じ方でした。動物はどうやって時間を感じているのだろうという素朴な疑問からもう40年以上が経過してしまいました。研究の楽しさや苦しみ,研究結果の詳細については別の機会に譲るとして,ここではこれまで感じてきたことと心理学について記します。

初めての場所に行くことも好きで,実験で得られたデータを持って知らない土地で開催される学会で発表することは楽しみの一つでした。海外の学会発表も楽しみでした。国際心理学会(ICP),国際比較心理学会(ISCP),全豪冬季脳科学会(AWCBR),北米神経科学会(SfN)等に参加しました。世界中の研究者と研究テーマで繋がれることの楽しさと幸せを感じました。ISCP(International Society for Comparative Psychology)が2010年に石田雅人先生を大会長として淡路夢舞台で開催されました。その後ISCPのPresident-Elect, President, Past-Presidentと6年間国際学会の学会運営にも関わりました。年齢を重ねるにつれて必然的に自分の研究発表よりも学会運営や心理学の将来について考えることが多くなりました。

2014年10月から日本学術会議連携会員になり,6年の任期後に日本学術会議会員に選任されました。所属は第一部心理学・教育学委員会です。2020年10月1日に学術会議講堂に入り指定された席に座り会員総会が始まって驚いたのは,学術会議が推薦した105名の会員候補者のうち第一部の6名が任命拒否されたということでした。とても大きな衝撃が走りました。学術会議会員は首相からの直接任命ですが,それは形式的なことで学問の自由は守られていると思っていましたので,学術界に政治からの圧力が加わったという事実に直面した恐ろしい経験になりました。日本心理学会も学術会議声明に賛同していますが,この問題は未だに解決されないまま残されています。時間の流れの中で,心理学の研究・教育の声を国民に届けるために,心理学関係者の皆さんのご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。

坂田 省吾

Profile─坂田 省吾
1982 年,広島大学大学院環境科学研究科修士課程修了,医学博士(広島大学)。広島大学総合科学部教授,広島大学大学院人間社会科学研究科人間総合科学プログラム教授などを経て2024 年より現職。専門は生理心理学,動物心理学,時間心理学。著書に『Functional and neural mechanisms of interval timing』(分担執筆,CRC Press), 『心理学基礎実習マニュアル』(共編,北大路書房),『パピーニの比較心理学:行動の進化と発達』(分担翻訳,北大路書房),『生理心理学と精神生理学 第I 巻 基礎』(編著,北大路書房)など。

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