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【特集】

犯罪捜査と心理学

シャーロック・ホームズや明智小五郎,エルキュール・ポアロ,江戸川コナン─創作された古今東西の名探偵たちは,犯人の心理を読み解き,ときには心理的に追い詰めて,完全犯罪を暴いてきました。でも,実際はどうなのでしょうか?犯罪捜査に心理学を役立てることは本当にできるのでしょうか?

本特集では,取調べ,ポリグラフ検査,プロファイリングを例に,心理学の知見が犯罪捜査にどう活かされているのかについて取り上げます。また,日本における法的・倫理的な課題についても考えていきます。学問としての心理学が個別の事件の解決にどのように寄与できるかについて,現場と理論とのリアルな葛藤と協調をごらんください。(松田いづみ)

心理学の知見を活かした証言[1]の聴取─司法面接の取組み

仲 真紀子
理化学研究所 理事/立命館大学OIC 総合研究機構 招聘研究教授/北海道大学名誉教授

仲 真紀子(なか まきこ)

Profile─仲 真紀子
お茶の水女子大学大学院博士課程単位取得退学,学術博士(お茶の水女子大学)。専門は発達心理学,認知心理学,法と心理学。著書に『子どもへの司法面接:考え方・進め方とトレーニング』(編著,有斐閣),『法と倫理の心理学:心理学の知識を裁判に活かす:目撃証言,記憶の回復,子どもの証言』(単著,培風館),『目撃証言の心理学』(共著,北大路書房)など。

はじめに

暴力,虐待,誘拐,事故の被害や目撃など,子どもが事件に巻き込まれることは少なくない。こういうとき,私たちは子どもに何があったかを話してもらう必要がある。しかし,認知能力の発達途上にあり,社会的にも大人の影響を受けやすく,さらにネガティブな経験を報告するという精神的な観点からも子どもは脆弱であり,正確な情報を聴取するのは容易ではない。

このような問題を克服するために,心理学の知見にもとづき開発され用いられるようになった面接法を司法面接(forensic/investigative interviews)という。1990年代に英国,米国の心理学者を中心に研究が進み,日本でも2000年頃から研究が行われるようになった。司法面接の方法は,児童虐待防止法の施行や取調べの可視化などとも呼応し,2008年頃からは国内でも用いられるようになった。2015年には厚生労働省,警察庁,最高検察庁の通知により,児童相談所,警察,検察が連携して司法面接を実施するようになり,2023年の刑事訴訟法の改正により,このような面接の録音録画の記録媒体は,裁判での主尋問の代替として用いることが可能になった。

以下では,子どもからの聴取(事実の確認)を困難にする問題を例示し,心理学がどう関われるかについて筆者が悩んでいたことなどを振り返る。そして,司法面接の概要やその社会実装,新法を紹介する。

問題

子どもからの聴取を困難にする問題は数々存在するが,被暗示性もその一つである。被暗示性は,実際には体験していないことを体験したかのように信じてしまう傾向性であり,その亢進により,体験していないことの記憶(虚記憶,偽りの記憶)が作られることもある。被暗示性は認知的な能力の制約と,社会対人的な影響を受けやすいという特性として捉えられており,例えばグッドジョンソン被暗示性尺度では,被面接者に物語を提示し,その物語に関連する一連の質問(物語にはなかった虚項目についての質問も含まれる)を行う[2]。回答が終了したあと「成績が芳しくないので再度同じ検査をする」として,再質問を行う。そして虚項目への回答(イールド)や回答の変遷(シフト)により被暗示性の度合いを測定する。被暗示性は年齢,障害,特殊な状態(アルコールや薬物の影響,隔離)などと関わっているが,上記のような虚項目に関する質問や圧迫的な面接,面接の繰り返し,その他イメージの膨張(イメージ化を促す)によっても強まる。1990年代に米国で起きた「偽りの記憶論争」では,誘導的な面接の繰り返しにより性的虐待の記憶が植え付けられるとして,大きな社会問題となった[3]

実際,面接のあり方は重要である。ある実験[4]では,小学校2年生と5年生に動画を見せ,その後数回にわたって想起を求めた。1度目の想起は4条件あって,(a)用紙に書き出す(自由再生),(b)内容をイメージしたあと用紙に書き出す(イメージ),(c)WH質問やクローズド質問を行う(質問),(d)「~のことを話してください」「それから」「それで」といったオープン質問を用いて話してもらう(面接)であった。図1に示されるように,オープン質問で話してもらう条件において,情報量が最も多い。私たちは子どもから話を聞くとき,ついWH質問やクローズド質問を重ねたくなる。しかし,質問を行う条件では質問の「答え」しか得られない。

図1 小学生を対象とした目撃実験(文献4より)
図1 小学生を対象とした目撃実験(文献[4]より)

2度目の想起と,数日後に行われた4度目の想起では(3度目の想起の説明は割愛する),子どもに20の命題を提示し,その内容につき「見たか」「見なかったか」「わからないか」を尋ねた。20の命題のうち15の命題は実際にはなかった虚項目であった。その結果,特に2年生の(b)イメージ条件と(d)質問条件では虚項目に対する「見た」反応が多かった。(b)では色などの視覚的情報,(c)では,質問に含まれていたが実際にはなかった項目(「帽子」など)への誤った「見た」反応が見られた。また,4度目の想起では,学年によらず,全体として「見た」反応が増加した。

こういった研究は数多く行われている[5]。ただ,当時は,どうすればこういった知見を現実の問題に適用できるのかわからなかった。一般的な知見と個別具体的な事例には埋められない溝が存在すると感じていた。

予防に活かす

少し話を戻すと,筆者は,語彙の獲得や会話,記憶の基礎研究を行っていたが,目撃証言の正確さについて相談を受けたのをきっかけに,司法場面でのコミュニケーションに関心をもつようになった[6]。最初の事案は目撃者による同定識別に関するものであった。目撃証言は,記憶の過程(記銘-保持-検索)になぞらえられることがある。しかし,目撃証言の正確さを,記憶に関する一般的知見から推定するのは困難である。ロフタスらの研究をはじめ,目撃証言が不正確であることを示す研究は多数存在するが[7],だからといって,特定の事案における目撃記憶が不正確だと言えるだろうか。

この事案については,シミュレーション実験,すなわち実際の事案に近い状況を作り出して,その条件下での目撃記憶の正確さを推定する,ということを行った[8]。しかし,それでも「事案に近い状況」と実際の状況のギャップは埋まらない。確率というかたちで一般化を求める心理学と,実際の事案の理解との間で,違和感を感じていた。

次に出会った事案は子どもの目撃証言であった。当時の供述調書は会話そのものの記録というよりも,面接者が聞き取った内容を供述者が独白しているようなかたちで作られていることが多かった(「きのう,ぼくがバスで幼稚園にいったとき…」など)。やりとりが一問一答で記録されていることもあるが(「きのうは幼稚園に行ったの」-「うん」-「どうやって行ったの」-「バス」),実際にその通りのやりとりが行われたかどうかは不明であった(立会人が別の調書で「この子が『ブーブ』と言っているのはバスのことです」と供述しているような事案もあった)。供述の変遷や矛盾などを見ていくことで供述の正確さを推定することもできるが,これらの言葉自体,実際に発せられた言葉ではない可能性もあり,心理学の知見はどうすれば使えるのかという思いはつのった。

このようなときに司法面接に出会い「これだ!」と思った。「面接法/ガイドライン」であれば,一般的知見を個別具体的な事例に予防的に活かせるからである。ウエルズは目撃証言の正確さに関し,推定変数とシステム変数を区別した。前者は,事件が起きたあとではどうすることもできず,正確さを推定するしかできない変数である。目撃した距離,目撃から同定識別までの時間,目撃者の視力などがこれにあたる。これに対し,システム変数は,捜査機関がコントロールできる変数である。例えば,同定識別の方法(1枚だけ見せるか,複数枚,継時的に提示するかなど)であり,ウエルズはシステム変数の研究こそが重要だと指摘した[9]

司法面接も同様である。一般的知見にもとづき,個別の識別や供述の正確性を分析しても後付け的な推定の範囲を超えない。しかし,AよりもBの方法をとることで正確な情報が得られる確率が高まるのであれば,後者を採用することで,より精度の高い供述を得ることができるだろう。例えば,上述の実験からは,イメージ化を求めることや,WH質問やクローズド質問の多用,面接を繰り返すことを避け,オープンな質問を用いた面接を少ない回数行うことで,正確な情報がより多く得られることが示唆される。そのように考えれば,心理学の知見を実務に活かすことができる! 司法面接は,まさにそのような知見の蓄積により作られてきた[10]

司法面接

司法面接は以下のような特徴をもっている(図2)。第1に,オープン質問を主体とした聴取を行う。WH質問やクローズド質問には暗示的な情報が含まれやすいので,できる限り避ける(WH質問「どんな音がした?」は音がしたかのような印象を与え,クローズド質問「バスで行ったの?」には「バスで行く」という文言が含まれる)。一問一答で確認するのではなく,「何があったか話してください。どんなことでも,覚えていることを最初から最後まで全部話してください」などの広いオープン質問(誘いかけ)を用い,子どもに自発的に,自分の言葉で話してもらう(自由報告という)。「そして?」「それから」とさらなる報告を求めたり(それから質問),子どもが言及したことについて「そのことをもっと詳しく話してください」と補ってもらうことも有用である(手がかり質問)。

図2 司法面接の一般的な方法
図2 司法面接の一般的な方法

第2の特徴は,面接が構造化されている,ということである。いきなり自由報告を求めても,子どもは話ができるとは限らない。まずは挨拶や面接の説明を行う(「今日は来てくれてありがとう。この面接はビデオで撮っています。私が話を忘れないように,あとで見ればわかるようにするためです」など)。そして,グラウンドルール(面接での約束事)を示す(「今日は本当にあったことを話してください」「質問の意味がわからなければわからないと言ってください」など)。続いてラポール形成のための会話を行う[11]。例えば,「◯◯さんは何をするのが好きですか」と尋ね,子どもに,いつもすること(スクリプト)や体験(エピソード記憶)を話してもらう。さらに思い出して話す練習も行い(「今日朝起きてからここに来るまでにあったことを,最初から最後まで全部話してください」),ここでもオープン質問でたくさん話してもらう。

そのあと,「今日は何を話しに来ましたか」というオープン質問で本題へと移行し,「嫌なことがあった」などの概括的な報告が得られたならば,「そのことを最初から最後まで全部話してください」と誘いかける。そして,「うんうん」などのあいづちやそれから質問を用い,出来事を最初から最後まで話してもらったあと,面接者はモニター室に行き,残りの面接で確認すべきことをチームで議論する。そして面接室に戻り,手がかり質問などを用いながら残りの面接を行う(「さっき話していた◯◯のことをもっと詳しく教えてください」)。最後は必要に応じて,子どもが話していないことがらについても確認し,クロージングの手続き(話してくれたことへの感謝,質問や要望など)をもって面接を終了する。正確な記録を残すため,面接はすべて録音録画する。

こういった手続きや要素が,より正確な情報をより引き出しやすいことは多くの研究により示されている[12,13]

三者連携と新法,そして今後のこと

心理学の知見にもとづくガイドラインが作られたとしても,それがすぐに社会で用いられるようになるとは限らない。社会実装のためには,研究者,実務家,政策立案者が課題や解決法を共有する必要がある。こういった橋渡しには実務家との共同研究,実務家への講義や研修,特に,そこでの情報交換や質疑応答,そして研究者が施策につながる委員会に参加することなどが有用である。司法面接においては,北海道大学で児童相談所と契約を結び,司法面接の研修プログラムを開発し,ガイドラインを策定できたこと,立命館大学で研修を事業化できたことは意義があったと思う[14]。また,警察庁の取調べの高度化を図るための研究会の委員を務めたことや(2010~2012年),警察庁,文部科学省,厚生労働省などで事実調査に係る研修やガイドラインの策定に関わらせていただいたこともありがたかった。

こういったなかで2015年10月28日に厚生労働省,警察庁,最高検察庁が通知を出し,児童相談所,警察,検察が連携して司法面接を実施することを推奨する通知が出された[15]。 聴取を繰り返すと精神的な負担がかかり,供述の信用性が下がるというのがその理由である。そして,2023年の刑事訴訟法の改正により,321条の3という新法(聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則)が作られ,同年12月15日より施行されている。

この法律は,以下に掲げる「措置」の下で聴取が行われた場合,その記録媒体を主尋問での証拠とすることができる,というものである。その措置とは,以下の2点である(( )内の表現は筆者による)。

(a)供述者の年齢,心身の状態その他の特性に応じ,供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置(精神的な負担の緩和)

(b)供述者の年齢,心身の状態その他の特性に応じ,誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置(誘導や影響の排除)

法律の文言に司法面接という言葉が入っているわけではないが,司法面接の趣旨に則った面接の記録は,裁判の証拠となる可能性を高める,と読み取ることができる。反対尋問は必要であり,また聴取までに誘導や暗示がかからないようにする配慮は必要だが,被害者の認知的,精神的負担は大きく緩和される。また,初期の正確な情報が裁判で用いられることは,すべての当事者にとって重要である。

今後は,こういった面接を常時行うことができるワンストップのセンターができればと願う。そうすれば,迅速で確実な事実確認,医療的な対応,その後のカウンセリングやサポート,そして実務家への研修や効果測定なども集約的に,多専門連携で行うことができるだろう。

いずれにしても,犯罪心理学は,基礎的な課題においても実務家と心理学者との協働が可能な,有効かつたいへん魅力的な研究領域だと感じている。

文献

  • 1.法廷では証言,取調べでは供述と呼ばれるが,ここでは区別しないで包括的に用いる。
  • 2.Gudjonsson,G.H.(1987)Br J Clin Psychol, 26,215–221.
  • 3.ロフタス,E・.ケッチャム,K./仲真紀子訳 (2000)『抑圧された記憶の神話:偽りの性的虐待をめぐって』誠信書房
  • 4.仲真紀子(2012)心理学研究,83,303–313. 
  • 5.仲真紀子・上宮愛(2005)心理学評論,48,343–361.
  • 6.仲真紀子(2023)心理学ワールド,101,1. https://psych.or.jp/publication/world101/pw01/
  • 7.仲真紀子(2024)「ロフタス,エリザベス」サトウタツヤ他編著『人物で読む心理学事典』(pp.371–375)朝倉書店
  • 8.Naka,M.et al.(1996)Jpn Psychol Res, 38,14–24.
  • 9.Wells,G.L.(1978) J Pers Soc Psychol, 36,1546–1557.
  • 10.Lamb,E.et al.(2008)Tell me what happened: Structured investigative interviews of child victims and witnesses. Wiley & Sons.
  • 11.近年ではラポール形成を先に行うことも多いが,ここでは簡便な記述を目指し,この順序とした。
  • 12.仲真紀子編著(2016)『子どもへの司法面接:進め方・考え方とトレーニング』有斐閣
  • 13.仲真紀子(2017)心理学評論,60,404–418. 
  • 14.2008–2012RISTEX「子どもを犯罪から守る司法面接法の開発と訓練」,2012–2015文部科学省新学術領域研究「法と人間科学」,2015–2020RISTEX「多専門連携による司法面接の実施を促進する研修プログラムの開発と実装」,立命館大学司法面接研修
  • 15.法務省(n.d.)警察及び児童相談所との連携について, https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji10_00006.html
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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