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【小特集】

Web調査の項目設計─たかが中間選択,されど…

増田 真也
慶應義塾大学看護医療学部 教授

増田 真也(ますだ しんや)

Profile─増田 真也
1995 年,慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(心理学)。専門は社会心理学。2018 年より現職。著書に『心理学が描くリスクの世界Advanced』(共編著,慶應義塾大学出版会),『ウェブ調査の基礎』(分担執筆,誠信書房)など。

中間選択の何が問題か

調査項目に「どちらともいえない」のような中間選択肢があると,それが過度に選ばれることがある。この選択肢は本来,問われている内容に対して,肯定否定のどちらでもなく,中立のときに選ばれることが期待されている。しかし先行研究では,質問が難しかったり,曖昧だったりするときや,質問内容への回答者の関心が低かったり,明確な意見がなかったり,回答をためらったりするような場合に,中間選択が増える傾向が見られる。すなわち中間選択肢は,質問内容に対して中立なときだけでなく,わからない,答えたくない,考えたことがない,面倒くさいといった理由でも選ばれる。このような,いわば質問自体への回答の拒否や不能といった意味での中間選択のせいで,誤った結論を導くことがあるので注意が必要である。

素朴な対策

では,調査では中間選択肢を設けないほうがよいのだろうか。しかし中立を意味する選択肢がないと,無回答が増えたり,肯定側か否定側のどちらか一方の選択率が非常に高くなったりすることがある。またそもそも,中間選択者がどれくらいいるのかも重要な情報である。そのため,安易に除くべきではない。

中間選択の問題が厄介なのは,中立の意味で選ばれたのか,そうでないのかが,回答だけでは判別できないことにある。ならば,回答不能であることを示す,「わからない」のような選択肢を加えれば解決すると思うかもしれない。

しかし,無知であることを示すのを嫌がってそうした選択肢を避け,中間が選ばれがちであることが知られている。また「わからない」と答えた人を,分析の際にどのように扱うのかに悩むことになるかもしれない。したがって,これらの対策は必ずしも有効ではない。

最小限化の観点から

Web調査では,十分に努力がなされないで回答するという,最小限化(satisficing) が生じやすいとされる。そのため,「ここでは“あてはまらない”を選んでください」といった特定の回答を指示する項目を含めることで,項目文をきちんと読んでいるかどうかを確かめることがある。

指示に従わない回答者に,中間選択や同じ選択肢への回答が続くストレートライニングが多いことなどから,この方法で不適切と見なされる回答者を除外するのは有効であると思われる。さらに最近では,指示によって回答者が不快になるリスクを避けるために,こうしたやり方を用いないで最小限化回答を検出しようという研究も進められている[1]

しかし,どのようなやり方であっても,不適切な回答を除外しようとすると,誤って正確な回答も除いてしまうおそれがあるし,有効データが減少することになる。したがって,不適切な回答が生じないよう,防止するほうが望ましい。そのような試みとして,真面目に回答しないと報酬が得られないという警告を出したり,回答前に「真面目に回答します」という文言にチェックを求めたりすることで,回答の質が高まることが示されている。

以上について詳しく知りたいという方は,拙稿[2]を参照してほしい。

分岐質問は使えるか

本特集の趣旨から外れるかもしれないが,最近私が気になっていることについて記すことをお許しいただきたい。

まず,分岐質問(branching question)は使えるか,である。例えば賛否について4件法以上で尋ねられる場合,賛成か反対かの方向と,その強度の2つの判断を一緒にしなければならない。しかし,これらを分解して,まず賛成か反対かを選び,次にそれがどの程度強いのかを示してもらうこともできる。

回答が難しいときに中間選択が生じやすいというのは,通常,質問内容や用いられている語句の問題を指している。しかしながら,選択肢を分解することで,回答の負荷を小さくできるかもしれないのである。

自記式調査で分岐質問があると,面倒なために無回答にされたり,追加の質問がある選択肢が避けられたりすることがある。しかし,分岐があることがすぐにわかる紙筆型と異なり,Web調査では最初の質問の回答後にページを替えて,次の質問を表示することができる。また画面の小さいデバイスで回答するときには,分岐質問のほうが見やすいだろう。したがって,Web調査で特に活用できるかもしれない。

「あえて」選んでもらう

分岐質問には,中間選択肢が選ばれたときに,さらに「あえて」選ぶのであればどちらになるかを答えてもらう,というパターンもある。

首相秘書官の差別発言があったことから,2023年2月に複数の新聞社で,同性婚の法制化に関する電話調査が行われた。その結果は64~72%が賛成であり,同性婚は既に社会的に容認されているとされた。

増田ら[3]は同年1月に,同性婚に関する質問を含むWeb調査を実施した。この調査で回答者は,4群のいずれかにランダムに割り付けられた。それはまず,「賛成」か「反対」かの2択群であった。次に「賛成」「反対」に「どちらともいえない」という中間選択肢が加わるが,これが選ばれた場合には,あえて選ぶなら「賛成」か「反対」かを答えてもらう3択群であった。

残りの2群では,Item Count(IC)法を試みた。調査の回答には,しばしば社会的望ましさのバイアスが生じる。しかしIC法では,ある項目に該当するかどうかでなく,複数項目のリスト内の該当する項目の数を答えるので,社会的望ましさの影響を受けにくいとされる。

具体的には,4つの項目を含むShort list群と,それらに「同性婚の法制化」を加えた5項目からなるLong list群を設け,賛成する項目の数を答えてもらった。そして,両群の平均値の差を求めることで,同性婚の賛成率を間接的に推測した。

この調査では,特定の回答を指示する項目が3つ含まれており,どの群でも約20%の回答者が,少なくとも1項目で指示に従わない回答をしていた。そうした回答者を除いたデータでの結果を表1に示す。

表1 同性婚の法制化への賛成率(%)
表1 同性婚の法制化への賛成率(%)

本調査では無作為抽出を行っていないが,2択群での賛成率は同時期の新聞社調査と同程度であった(68.7%)。しかし,3択群での中間選択者は38.5%おり,同性婚に関して明確な意見を持たなかったり,はっきりした回答を躊躇したりする人がかなりいることも示された。

次に,3択群(48.0%)とIC法(50.3%)での賛成率はほぼ同じであった。そして3択群の中間回答者に,あえて賛否を答えてもらって加算したところ,2択群の賛成率に近く(72.5%)なった。

以上から,同性婚への明確な賛成者は50%程度で,2択で尋ねたときの高い賛成率には,社会的望ましさの影響があったことが疑われる。ただし,それでも反対者より賛成者の方が多く,同性婚は社会的に認められていると思われる。

Web調査は,低コストで大量のデータを取得しやすい。また,回答者を複数の群にランダムに割り付けることも容易である。そこでこのような,それぞれの短所を補い合う複数の調査の同時実施を,もっと試みてもよいのではないだろうか(要はトライアンギュレーション?)。

社会階層における「中」の検討

山田ら[4]は,集団的自衛権の行使に関して,「容認」と「現状維持」で尋ねるよりも,「容認(憲法改正)」,「容認(憲法の解釈変更)」,「現状維持」で尋ねるほうが,容認が多くなることを示している。さて,日本では長らく,中流を自認する人が9割を超えると言われてきた。しかし,そのことを示す内閣府による「国民生活に関する世論調査」(以下,国民生活世論調査とする)などでは,生活水準を「上」「中の上」「中の中」「中の下」「下」で尋ねていて,中カテゴリの選択肢だけが多い。

このことが,回答に与える影響について検討するために,増田[5]はWeb調査で回答者1200人を,選択肢の異なる4群にランダムに割り付けて比較した。それはまず,国民生活世論調査などと同じ選択肢からなる,上1中3下1群であった。ただし,「上」か「下」が選ばれたときには,さらにその中での上下(すなわち「上の上」か「上の下」,「下の上」か「下の下」)を尋ねた。

上1中1下1群では,「上」「中」「下」を尋ねたのち,それぞれにおける上(中)下を答えてもらった。また上2中1下2群では,「上の上」「上の下」「中」「下の上」「下の下」で尋ね,「中」の選択者には,さらにその中の上中下の回答を求めた。すなわち以上の3群では,分岐質問が用いられた。最後に上2中3下2群では,松田[6]と同様に,「上の上」から「下の下」までの7つの選択肢を一度に提示した。

表2 社会階層意識の各選択肢とカテゴリ別の選択率(%)
表2 社会階層意識の各選択肢とカテゴリ別の選択率(%)

表2に,各選択肢と上中下のカテゴリで見たときの選択率を示す。上1中3下1群では,平成30年国民生活世論調査と同様に,中カテゴリの合計選択率は90%を超えていた。一方,上2中1下2群では「中」の選択率が最も低く,上と下の合計選択率は最も高かった。つまり,そのカテゴリに最初から多くの選択肢が用意されていると,合計での選択率が高くなった。また,「中の下」「中の中」「中の上」が最初から提示されたとき(中3)のほうが,分岐後に尋ねられたとき(中1)よりも,「中の中」が選ばれる傾向があった。

付け加えると,松田[6]では,「中の下」「中の中」「中の上」の合計が,郵送法調査で80%,面接法調査で84%と,同じやり方で尋ねた本研究の上2中3下2群と近い値(82.0%)であった。これらの結果は,調査年度や調査方法などが違っても,社会階層の回答において,選択肢の設け方の影響が強いことを示している。

分岐質問を用いると項目数が増えるので,むしろ負担が増える可能性もあり,データの質が向上するかについて検討した先行研究の結果は混在している。しかし,回答形式が調査結果にどのような影響を及ぼしているのかの検討をする上で,分岐質問の利用は有益であると思われる。

中間選択は増加する?

増田ら[7]は,パーソナリティ尺度の50項目を回答者ごとにランダムな順番で回答してもらって,項目配置の影響を検討した。すると,後半になるにつれて中間選択が多くなっていった。同じことは,他の調査でのわずか7項目の質問でも,また真面目に回答しているとされる回答指示の遵守者でも見られた(これらについても拙稿[2]を参照してほしい)。

さらにトルーブナー[8]は,1991~2008年の18波のパネル調査(面接法)で,中間選択率がだんだん高くなっていくことを報告している。この研究では,回答者間で比較すると,年齢が高いほうが中間選択が少なかった。しかし,認知能力の変化の影響を考慮しても,個人内では次第に中間選択率が高くなっていった。これらは,単一の調査内であれ,複数回の調査であれ,繰り返し回答をすることによる負担や慣れなどのために,中間選択が増えることを示しているように思える。

通常,各調査やその中の項目は,それぞれ独立して回答されるものと見なされている。一方で,特に調査会社のモニターに依頼してWeb調査を行う場合には,何度も調査に参加する人のことが懸案となっていた。後者の点については,多くの調査に参加する人の回答の質が,必ずしも低いわけではないという報告もあり,少なくとも現時点では明確な問題があるとは言えない。しかし,まだ当分は多くのWeb調査が実施されるだろうから,調査回答の経験の影響や,それが何らかの要因で,いわばリセットされるのかどうかについて,さらに検討しておきたい。

たかが中間選択であり,何を細かいことを,と思われるかもしれないが,まだまだ課題は見つかるのである。

文献

  • 1.Ozaki,K.(2024)Behav Res,https://doi.org/10.3758/s13428-024-02407-2
  • 2.増田真也・坂上貴之(2023)6章 調査回答における中間回答,8章 回答の指示と不注意回答.山田一成編著,ウェブ調査の基礎:実例で考える設計と管理(pp.127-157,182-203).誠信書房
  • 3.増田真也他(2023)日本心理学会第87回大会ポスター発表.
  • 4.Yamada,A.,&Kim,J-Y.(2016)SSJJ,19,59–69.
  • 5.増田真也(2019)日本社会心理学会第60回大会発表論文集,214.
  • 6.松田映二 (2008) 行動計量学,35,17-45. 
  • 7.増田真也他(2017)行動計量学, 44,117–128.
  • 8.Truebner, M.(2019)J Surv Stat Methodol,9,51–72.
  • *COI:本稿に関連して開示すべき利益相反はない。

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