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心理学ライフ

人生に彩りを添える,フィギュアスケート

桾本 知子
元・宇部フロンティア大学心理学部 教授

桾本 知子(くぬぎもと のりこ)

Profile─桾本 知子
博士(学校教育学),公認心理師。専門は健康心理学・臨床心理学。2024年3月末退職。KRY山口放送のラジオ番組「KRY Morning Up」で「モーニング・クローズアップ:幸せをつなぐ心理学」コーナーを月1回担当。

フィギュアスケートをはじめて観たのはTVで放送された札幌オリンピックです。それから半世紀を越え,選手のスケート技術が格段に進歩し,試合のルールも大きく様変わりしていきました。今シーズンから試合でのバックフリップ(後方宙返り)が解禁になり,アクロバティックな演技に期待が高まります。

さまざまな変化を経ても,フィギュアスケートの魅力が,圧倒的なスピードで滑りながら,音楽を全身で表現するプログラムにあることは変わりありません。シーズンごとに披露される新しいプログラムを心待ちにしています。選手が各々の持ち味を存分に発揮しながら,新たな面を見せてくれる,そんな出会いにワクワクします。試合を重ねるたびに,ひとつのプログラムが醸成されていく過程を楽しめるのも醍醐味ですね。

会場で試合を生観戦すると,やはりテレビで観る以上の速さに驚かされます。あのスピードで滑りながら,ジャンプやスピン,ステップを繰り出して,作品世界を表現するなんて,スケートのできない私には人間技とは思えません……。

試合会場にすさまじい緊張感が張り詰める時間があります。選手が名前をコールされてスターティングポジションに向かうときです。拍手と声援が収まり会場は静まり返ります。漫画で無音を表す「シーン」という音が聞こえてくるかのようです。会場中の視線がリンクに立つ一人の選手に集まります(カップル競技の場合は二人の選手)。コーチも観客もその選手を見守ることしかできません。

音楽がアップテンポになると,会場一体となった手拍子での応援が始まります。観客の誰か,おそらくそのプログラムをよく知り,確かなリズム感をもつ観客が手拍子を先導し,それが波及して会場一体になると感じています。理屈抜きで,これが楽しい! ちなみに私はあとからついていくタイプです。

演技の終盤,疲れの見える選手が最後のステップに向かうとき,観客の応援がさらに熱を帯びます。「私たちの手拍子であなた(演技している選手)の背中を押していくよ!」と気合が入り,手拍子にさらに力がこもります。選手が最後の力を振り絞ります。ガンバ! そしてフィニッシュ! 拍手喝采!! 滑りきった選手の晴れ晴れした表情を見ると幸せな気持ちになります。

フィギュアスケートは選手同士が直接対戦する競技ではありません。ライバルに勝つことよりも,選手自身が目指す演技をいかに試合本番で行えるかが問われます。そのため,選手は自分と向き合い,自分の強みをさらに伸ばし,課題を発見しそれを目標に変えて毎日ひたすら練習を積み重ねていきます。どのようなときも,選手の傍らでどんと構えて苦楽をともにするコーチの存在の大きさに思いを致します。

そして選手が演技を完成させる最後のピースは私たち観客です。選手の演技に観客が思わず発する歓声や声援,拍手に選手が呼応し,それに観客が反応し……というループが起きると,演技に深みが増していきます。その演技ができた/観られたことへの喜びと感謝,称賛に会場が包まれ,感銘します。

一方,アイスショーは試合とは異なり,ルールに縛られていないので,自由度が高く,とても華やかです。非日常の世界を満喫できます。今はアイスショーも多様化が進んでいますが,特筆したいことは,フィギュアスケートと殺陣の親和性が非常に高いことです。アイスショーに殺陣がはじめてお目見えしたのは『氷艶2017−破沙羅−』でした。フィギュアスケートによる殺陣は,とにかく動きが速くてキレがあり,ダイナミック! 思わずうなりました。

そして『氷艶2024−十字星のキセキ−』では親友を守るためにメインスケーターが戦った迫真の殺陣のあと,「生きろ」「生きろ」「一人じゃない♪」[1]と爆速で滑りながら全身で力強く舞っているのを観て,明日からも生きていこうと活力が湧いたことをご報告いたします。

文献

  • 1.使用された曲はフォークデュオ「ゆず」の『かける』アイスショーバージョンで,歌唱は『氷艶2024−十字星のキセキ−』に出演したスケーターと俳優のみなさん。

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