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常務理事会から

円安時代の国際化

円安が止まらない。私が海外学振の研究員だった2010年は1ドル87円程度であったのが,今では1ドル160円を超える日もある。論文掲載費も物品価格も航空券も値上がりが続いている。研究費が倍増しているわけでもないので,どこかを削らなければいけない。論文掲載費が高額なジャーナルを避けたり,国際会議への出席を控えたりせざるを得ない。オンライン参加できるハイブリッドの学会は増えたが,セッションを一方的に視聴するにとどまることが多く,対面参加の充実度とは比較にならない。

このような時代に,これ以上世界から取り残されないために,何ができるのだろうか。日本心理学会では,国際会議旅費補助の制度を設けているが,その金額も補助を受けられる大学院生の数も多くはない。9月に熊本で開催する日本心理学会大会では,英語でのポスター発表を推進するために,英語での発表に与えられる賞を新設した。国際会議ではないが,英語での研究発表の機会として有効に使っていただければありがたい。日本国内で国際会議を開催すれば,比較的低コストで日本在住の研究者が国際会議で発表する経験を増やすことができるだろう。私も2025年に東京で開催する国際会議の開催実行委員長を務めている。円安のおかげで欧米よりも低コストで開催できるし,「日本で学会があるならぜひ参加する」と言ってくれる研究者は多い。研究室の学生を海外に連れて行くよりも低いコストで国際学会の発表が実現できる。

もちろん,予算が許すなら,国外で開催される国際会議には積極的に参加できるとよいだろう。7月21日〜26日にチェコ共和国プラハで開催されたInternational Congress of Psychology(ICP)では,世界各国から参加者が集い,心理学に関する幅広いトピックで講演,シンポジウム,ポスター発表があった。会期中には,国際心理科学連合(IUPsyS)の会議やアメリカ心理学会(APA)主催のイベントもあり,自らの研究教育活動が,今の世界情勢の中で果たす役割について考える機会となった。ICP期間中に,日本心理学会は,ニュージーランド心理学会(NZPsS)と相互交流に関するMOU(覚書:Memorandum of Understanding)を締結した。これをきっかけに,ニュージーランドと日本の心理学者の交流の機会を増やしたいと考えている。

ICP期間中に一点,気になったことがあった。ポスター発表の会場で,複数の日本からの参加者が日本語で発表している様子が目立っていたのである。オーディエンスが日本語話者なので,深い議論がしやすい。という理由なのだと推察するが,国際学会という場で他の参加者が理解しない言語で発表するのは控えるべきであろう。ポスター発表は,途中で加わってもその議論を聞くことができる場である。特に若手研究者にとっては,貴重な国際学会の場である。高い旅費と参加費を支払って日本語で議論することに発表時間を費やすのはもったいない。どうしても日本語で議論したいならば,ポスターから少し離れて会話するという配慮はあってほしいと思う。

この円安時代にどう国際化を進められるのか,答えは持ち合わせていない。Zoomを活用してバーチャルで海外と繋がるだけではいけないとは思っている。日本心理学会の国際委員会では,尾崎由佳国際委員長のリーダーシップのもと,国際委員による「日本心理学会に求める学生・若手の国際化支援に関するアンケート調査」も行われた。ここで寄せられたご意見をもとに議論を深め,国際化に向けて日本心理学会としてできることを模索したい。

(国際担当常務理事/東京大学教授 四本裕子)

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