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グループワークがパフォーマンスを高める?─「みんなでやること」の落とし穴
真島 理恵(ましま りえ)
Profile─真島 理恵
2007年,北海道大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。2016年より現職。専門は社会心理学。著書に『利他行動を支えるしくみ:「情けは人のためならず」はいかにして成り立つか』(単著,ミネルヴァ書房),『集団と社会の心理学(ライブラリ 心理学を学ぶ 7)』(分担執筆,サイエンス社)など。
何かに取り組むとき,個人ではなくグループとして取り組もう,ということはよくありますよね。学校で,課題にグループワークとして取り組んだ経験がある人も多いのではないでしょうか。ここではそのような「グループで協力して作業する状況」が行動に与える影響についての知見を紹介します。
「みんなでやること」の落とし穴
「みんなで取り組むこと」は,個人の遂行にどのような影響を与えるのでしょうか。他者が一緒にいることで作業の遂行が促進される,社会的促進という現象が生じることがありますが[1],そうした社会的促進が生じることを期待して,大変そうな課題に直面すると「とりあえずグループでやろう」と考えることも多いかもしれません。しかし実は,「みんなでやること」によって,かえって遂行量が低下してしまう可能性があるのです。例えばグループワークで,「自分が頑張らなくても,他の人が頑張ってくれるだろう」と思ってつい手を抜いてしまった,という経験はないでしょうか。あるいは,そのような人がグループにいて困った経験はないでしょうか。このように,グループとして取り組むことで個人の努力量が低下する現象を社会的手抜きと呼びます[2]。
社会的手抜きの実験
では,社会的手抜きはなぜ起こるのでしょうか? この問題に対する手がかりを与える実験が,ウィリアムズらによって行われました[3]。実験には,大学生が4人1組となって参加しました。参加者には,(他の人の様子が見聞きできないように)目隠しとヘッドセットを着用した状態で「1人ずつ」「2人ずつ」「4人一緒に」叫ぶ課題に取り組んでもらうこと,できるだけ大声を出してほしいことを伝えました。さらに,各個人が出した声の大きさ(各個人の遂行量)が記録されるかどうかについて,次の3種類のいずれかの説明を行いました。
単独のときのみ個人評価可能条件:この条件では,1人ずつ叫ぶときには各個人の声量が記録されるが,2人以上のグループで叫ぶときにはグループの声量の総量だけが記録され,各個人の声量は識別できない,と教示されました。つまり,個人の遂行量が記録・評価されるのは1人で取り組む場合のみで,グループで取り組む場合には各個人の遂行量がわからなくなる,という状況が設定されており,したがって「単独作業の場合はその人がさぼったらすぐにばれてしまうが,グループ作業になると誰がさぼったかがわかりにくくなる」という現実のグループでよくある状況となっていました。
常に個人評価可能条件:この条件では,1人ずつ叫ぶときのみならず,2人以上で叫ぶときも,各個人の声量を識別して記録できると教示されました。つまり,人数にかかわらず各個人の遂行量がわかる(常に,さぼったらばれる),という状況です。
常に個人評価不可能条件:この条件では,2人以上で叫ぶときはもちろん,1人で叫ぶときも,各個人の声量は記録されないと教示されました。つまり,人数にかかわらず各個人の遂行量はわからない(常に,さぼってもばれない),という状況です。
なお,実験では参加者は「1人で」「2人で」「4人で」叫んでいます,と教示されていましたが,実はこれらは全て擬似グループで,実際には参加者は常に1人で叫び,声量が測定されていました。
実験の結果は次のようなものでした(図1)。「単独のときのみ個人評価可能条件」では,1人で叫ぶ場合に比べ,2人以上のグループで叫ぶ場合には遂行量が低下しました。つまり,グループで作業することで努力量が低下する,社会的手抜きがみられました。一方,「常に個人評価可能条件」では,人数が2人以上に増えても,1人で叫ぶときと変わらない高い遂行量が観察され,社会的手抜きはみられませんでした。最後に「常に個人評価不可能条件」では,人数にかかわらず,遂行量は低いものとなりました。つまり個人の遂行量が識別できない状況では,たとえ1人で作業する場合でも手抜きのような状態が生じてしまいました。これらの結果からは,グループになることによって,各個人の貢献度(どの程度貢献したか,さぼったか)がわかりにくくなることが,社会的手抜きを引き起こす重要な要因の一つであることが示唆されています。自分の努力が他者(この実験では実験者)からの評価に結びつかないと思うことで,意欲が低下してしまう可能性が考えられるのです。
社会的手抜きを防ぐコツ
上記の結果をふまえつつ,社会的手抜きを防ぐ工夫を考えてみましょう。まず,グループ内で,各人の貢献度がわかる仕組みが不可欠といえそうです。「全員,来週までにやってこよう」というだけでは,結局誰もやってこない状態になりがちですが,誰が何を担当するか,責任の所在を明確にすることで,各人の貢献量がわかりやすくなり,社会的手抜きが生じにくくなると考えられます。また,ただ乗りが容易なグループワークでは,報酬や罰または評判などの何らかの形で,「集団に協力した人が得をする」あるいは「さぼった人が損をする」ような仕組み[4]がグループ内に存在することが重要となる可能性も考えられます。また,そもそも取り組む課題が人々にとって重要であったり魅力的であったりする場合は比較的社会的手抜きが生じにくいことなども指摘されています[5]。こうしたことをふまえ,社会的手抜きを防げる環境を整備することが,上手なグループ運営のコツの一つといえるかもしれません。
文献
- 1.Zajonc, R. B. (1965) Science, 149, 269–274.
- 2.Latané, B. et al. (1979) J Pers Soc Psychol, 37, 822–832.
- 3.Williams, K. et al. (1981) J Pers Soc Psychol, 40, 303–311.
- 4.高橋伸幸・稲葉美里 (2015) 規範はどのように実効化されるのか. 亀田達也編著, 「社会の決まり」はどのように決まるか(pp.85–115). 勁草書房
- 5.Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993) J Pers Soc Psychol, 65, 681–706.
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