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Over Seas

アメリカでの大学院生活と就職活動

宮本 百合
一橋大学大学院社会学研究科 教授

宮本 百合(みやもと ゆり)

Profile─宮本 百合
ミシガン大学でPh.D.を取得。京都大学教育学研究科での学振PDを経て,ウィスコンシン大学マディソン校に14年間勤務。2020年より現職。専門は社会・文化心理学。論文に,Self- and other-orientation in high rank: A cultural psychological approach to social hierarchy. Personality & Social Psychology Review, 28, 54-80, 2024(共著)など。

リチャード・ニスベット教授の指導を受けようと,私は2001年にミシガン大学のPh.D.プログラムに留学しました。ミシガン大学心理学部は大規模で,社会心理学分野だけでも7人ほどの同期生(現・法政大学の新谷優教授も同期でした!)がいました。

ミシガン大学では,学生は研究室に配属されるわけではなく,自らの研究のテーマや関心に応じて,教員から指導を受ける仕組みでした。そのおかげで,当初の研究テーマであった文化と認知の研究をニスベット教授の指導の下で進めるとともに,文化とコミュニケーションの研究をノーバート・シュワルツ教授,文化と混合感情の研究をフィービー・エルスワース教授の指導の下で行うことができました。複数の指導教員がいるということは,多様なアドバイスや視点に触れることができるということであり,研究の幅を広げるだけでなく,精神的健康を保つ上でも役立ったように思います。

留学当初は,卒業後に日本で就職する心積もりでしたが,アメリカでの就職活動を指南してくれる授業もあり,アメリカで就職活動をしてみることにしました。以下で,その経験も含めて,アメリカでの就職活動について書こうと思います。

主な提出書類は日本の就職活動と似ています。カバーレター,CV,Research Statement,主要論文,Teaching Statementと推薦状です。また,教えた授業の評価書を求められることも多いです。多い人では50校以上に書類を送るということでしたが,私は領域が近い職に限定し,20校ほどの大学に応募しました。

Research Statementは,単に自分の研究を羅列するのではなく,問題意識と理論的枠組みの中に自分の研究を位置づけて,魅力的で説得力ある議論を展開することが重要であると言われています。複数の異なる軸の研究を行っていた私は,それらをどう大きな枠組みの中に位置づけるのか,頭を悩ませました。

大学訪問(面接)は,2日間にまたがることが多く,研究発表と質疑応答に加えて,学部長や副学長との面談,学部の各教員との個人面談,学生との集団面談,教員との昼食,夕食などが並び,休む暇がありません。

研究者としての資質を判断する上で,研究発表(1時間弱)と質疑応答が非常に大事だと言われています。面接前に,ミシガン大学の教員や院生仲間がつきあってくれ,練習を行いましたが,最初はわれながらひどいものでした。ある程度自信を持てたのは3度目ぐらいからです。練習で率直な意見や鋭い質問をしてくれる人がいることと,場数を踏むことが有益でした。

研究発表と質疑応答が終わっても,その後の個人面談や食事の場で質疑応答の第2ラウンドが繰り広げられることも多く,気が抜けません。とは言え,緊張はするものの,さまざまな研究者と自分の研究について話す機会を与えられ,新しいアイデアが生まれるなど,刺激にもなります。ミシガン大学の指導教員は,「みんなが自分の研究に興味を持ってくれ,自分が主役になれ,なおかつ,いい料理も食べられるのだから,面接に行くほど楽しいことはないぞ。楽しんでこい」と送り出してくれました。当時の私には食事を味わう余裕はありませんでしたが,将来同僚になるかもしれない先生方と研究の話で盛り上がる高揚感(の片りんのようなもの)は味わえました。

また,面接というのは,一方的に候補者が評価される場ではなく,お互いに評価しあう,ある意味お見合いのような場です。どのような理念や特徴をもった大学・学部であるか,どのような研究がされており,どのような学生がいるかなど,候補者の側からも大学について学ぶ視点を持つことが大切です。

以上,駆け足で書きましたが,海外の研究・教育機関で学んだり,働いたりすることは,多様な専門領域やアプローチを知る上で,大きなメリットがあると思います。挑戦することを考えている人にとって,本稿が少しでも参考になれば幸いです。

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