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Keeping fresh eyes 心理学研究 最先端

心理学的によりよい「出会い」を提供できるか?

山田 順子
立正大学心理学部 助教

山田 順子(やまだ じゅんこ)

Profile─山田 順子
北海道大学大学院文学研究科修了,博士(文学)。2022年より現職。専門は社会心理学。社会環境が対人関係に与える影響を研究。近年は自治体や企業と協働で結婚支援に関する研究にも取り組む。

最近,日本人の「恋愛離れ」を憂える記事をニュースで見かけます。確かに2022年の内閣府調査では,20代女性の約半数,20代男性の約7割が,現在パートナーがいないと回答しています。一方で,国立社会保障・人口問題研究所の調査[1]では未婚男女の8割以上が「いずれ結婚したい」と回答していることから,日本人が恋愛や結婚に対する興味を失ったわけではないのだろうと思います。

「出会いの場」の不足

「いずれ結婚したい」のにパートナーがいない主たる理由として挙げられているのが,「適当な相手にまだめぐりあわない」ことです。例えば社会学では,非正規雇用の増加などによって職場での出会いが廃れたことで,出会いの場が奪われているという指摘もあります[2]。日本で夫婦が知り合うきっかけは主に「職場や仕事」,「友人・知人の紹介」「学校」であり,職場や仕事を通じた出会いが全体の25%以上を占めることからも,代替となる出会いの場を提供することが問題解決の一助となるだろうことが予想されます。

「出会いの場」を作るための試みと課題

そうしたなか,近年では新たな出会いの場を提供する取り組みとして,自治体や民間企業が主催する婚活支援イベント[3]やマッチングアプリが台頭しています。こうした取り組みはまだ始まったばかりですが,過去6年間でマッチングアプリなどネットを通じた出会いの割合が増加していることからも,今後こうした新たな出会いのシステムが普及していくのだろうと期待されます。

自治体や民間企業による婚活支援イベントやマッチングアプリが新たな出会いの場を提供し成果を示す一方で,そうしたサービスを提供する側である自治体や企業からは,より効果的な出会いを提供するためにはどうすればよいか,という話を聞きます。

心理学の知見をいかに応用するか

自治体や民間企業では,結婚を希望する未婚者によりよい出会いを提供するため,さまざまな取り組みを行っています。そうしたなかには,ビッグ・ファイブを活用した性格によるマッチングや,さまざまな特性の類似性に基づいたマッチングなど,心理学の知見を応用した取り組みもあります。ところが,そうした心理学的な取り組みは,必ずしも期待されるほどの成果につながらないこともしばしばです。例えば,地方自治体と共同で主催した婚活イベントの一つでは,類似性仮説に基づいて性格が似た参加者を集めました。しかし,マッチングの状況やその後の交際への発展は期待したほどには伸びず,自治体の方が期待するほどの大きな効果が得られたとは言いがたい結果でした。

また,これまで心理学では性格の類似性など相手への好意を予想するさまざまな要因が検討されてきましたが,そうした要因は相手の「あり・なし」といった恋愛関係におけるスタートラインの判断は予測するものの,婚活支援の現場で求められる「交際への発展」はあまり予測しないという指摘もあります[4]

自治体や企業と協働するなかで,実験や調査で得られた知見は非常に単純化されたものであり,机上の理論を社会的に実装するうえではさまざまな困難があることを痛感します。これまでの研究成果をいかに社会に実装するかについてはまだ取り組みを始めた段階ではありますが,取り組みのなかで効果が見込めそうなものや,今後の検討課題が見つかっています。今後も自治体や企業と協力しながら,心理学で得られた知見をいかに応用して,より多くの人が適切な相手とめぐりあうための出会いの場を作るためにはどうすればいいか模索していきたいと考えています。

文献

  • 1.国立社会保障・人口問題研究所 (2022) 第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)
  • 2.小林盾・川端健嗣編 (2019) 変貌する恋愛と結婚:データで読む平成. 新曜社
  • 3.Nishimura, T. et al. (2022) Front Psychol, 13, 982102.
  • 4.Joel, S. et al. (2017) Psychol Sci, 28(10), 1478–1489.

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