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- 108号 行動主義を見つめなおす――心なき心理学と呼ばれて
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常務理事会から
日本心理学会学術大会の課題
日本心理学会の第1回学術大会は,1927年に東京帝国大学で開催されたが,そのときの発表件数は66件,参加者は190名であった。回数を重ねる中で,これらの数字は飛躍的に拡大し,現在は1000件以上の発表件数と3000名前後の参加者数である。この規模の学術大会を健全に維持するためには,運営コストへの対応が課題になる。
日本心理学会には,スケール「デメリット」があり,現状の発表件数と参加者を収容可能な会場の選択肢は限られる。首都圏・関西圏以外での開催の場合,ホテルの部屋数も考慮する必要があり,この点での制約もある。今年度の開催場所である熊本城ホールについては,会場の快適さについてポジティブなコメントを多くいただいた。ゆとりある空間を持つホールに加え,会場近辺の商業施設も充実しており,快適な環境の中での大会であったと思う。ただ,想像通り「お高い」会場であり,今回の参加費が高くなった一つの要因である。
財政面を踏まえ,商業施設ではなく大学で大会を開催すべきだという声もあるだろう。しかし,ことは,そう簡単ではない。そもそも,日本心理学会の大会をお願いできる設備を持つ大学は限られているし,開催校ではなく運営委員会主催体制に移行したとはいえ,開催する大学の先生方には負担がかかる。加えて,近年,大学を使わせていただく際にも利用料が相当発生するのは,皆様もご存じのとおりであり,安くなったことを実感できるほど参加費を下げることができるかといわれると,かなり難しい状況だ。
参加費は,開催に必要な諸費用と参加者数予測に基づき,シミュレーションを行った上で決定している。学会本体の財政状況を踏まえると,大会で大きな赤字を出すことはできないという判断の下,若干の赤字(これは学会財政から補填するのだが)を前提とした設定である。もっとも,どの程度の赤字を許容するかは,学術大会という事業 をどう意味づけるかに左右される。学会財政からどの程度補填することが妥当なのか,状況を見極めつつ,その都度の判断が求められる。
協賛企業獲得については,新刊連動セミナーなど,いくつかの企画を試みた。ただ,高額な支出をお願いできるものではなく,企画自体が大幅な収入増につながるわけではないので,収入よりも,心理学コミュニティの活動の活性化や広報という観点からの効果を狙うものになるだろう。
熊本大会では,一般会員の参加費を値上げする一方,学生会員の参加費を値下げする措置をとった。また参加に際してのサポート提供についても,なるべくきめ細かい個別対応が可能になるよう工夫をしてきた。このような配慮は,今後も継続すべきことだと考えている。
「学術大会に関するたいていの課題は財政問題に行きつく」とは事務局長の言葉であるが,そのような現状の中,何にどの程度のコストを払うのか(そして何をあきらめるのか)が問われている。これは学術大会にどのような意義を求めるのかと直結した問いである。一般参加者の参加費が「高止まり」するなか,参加に値する学術大会のあり方を模索せねばならない。
心理学という領域の細分化が進む中,日本心理学会以外の心理学個別領域関連の学会を「ホーム」としている会員が多数おられるのが現状だろう。日本心理学会は,心理学全体を包摂する学会ではあるが,それゆえに,ホーム感が薄れ,コミットメントが下がると,活動自体が空洞化する危険もはらんでいる。そうならないためにも,学術 大会が会員各位にとって有意義かつ楽しめる場であることが重要だ。その実現に関する妥当かつ適正な運営コストについて,会員各位のご意見とご理解に基づいた継続的な検討が必要である。
(大会・広報担当常務理事/東京大学教授 唐沢 かおり)
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