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【小特集】
自己モニタリングでゆるり行動変容

藤巻 峻(ふじまき しゅん)
Profile─藤巻 峻
慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了。博士(心理学)。2024年より現職。専門は行動分析学,学習心理学。著書に『Rではじめるシングルケースデザイン』(共著,ratik)など。
意外と知らない自分の行動
あなたは今までに食べたパンの枚数を覚えているだろうか? 正確に覚えている人は恐らくいないだろう。それでは,1週間前の夕食は? 昨日の歩数は? 本日の起床時間は? こうした質問を通じて,私たちは意外と自分自身の行動についてよく知らないことが見えてくる。だからといって日常生活に特段の支障はないが,自分自身の行動を記録することは,特定の行動を形成し,維持する際に有用である。
図1は2年半に及ぶ筆者の体重記録である。記録開始時の体重は約85kg,BMIは29であった。立派な肥満体型だった筆者が,およそ2年で20kgほどの減量を達成した。この成功は,体重や減量に関連するさまざまな行動を自分自身で記録する手法,すなわち自己モニタリングによるところが大きい。本稿では筆者自身の実践に触れながら,自己モニタリングについて紹介する。

自己モニタリングとは?
自己モニタリングとは,自分自身の行動などを自ら観察・記録することで,望ましい行動を増やしたり,逆に望ましくない行動を減らしたりする行動変容技法の一種である。例えば,体重を毎日記録するだけでも,一定の減量効果があることが,さまざまな研究で示されてきた[1]。他にも,食事[2]や運動[3],血圧[4]などの健康管理,学業成績の向上[5]やスポーツ選手のトレーニング管理[6]まで,自己モニタリングの有効性は幅広く報告されている。ここからは筆者の体重減量を例に,自己モニタリングの実施方法を紹介する。
自己モニタリングの事前準備と実施
(1)目標の設定自己モニタリングは,必ずしも単独で十分な効果が得られるわけではない。その他の手法と組み合わせて使われることが多く,目標設定はその一つである。目標は島宗[7]が紹介しているように,中長期の目標と1か月程度の小目標に分けて考えるとよい。筆者の場合は最終目標が体重65kg,小目標は毎月初めに1か月後の目標体重を設定した。
(2)モニタリング対象の設定筆者は体重を主要なモニタリング対象としたが,体重のモニタリングだけでは効果が限定的である[8]。同様に,例えば学業成績の向上を目的とする場合,試験の成績だけをモニタリングしても,高い効果は得られないだろう。体重や学業成績の変化は,日々の食事や運動,勉強量など,何らかの行動の所産である。自己モニタリングの効果は,記録することを通じて自分自身の行動が変容することで得られる[9]。そのため,目指す成果に影響する具体的な行動や指標を設定することが重要である。
筆者の場合,体重の増減に影響する食事と運動を,段階的にモニタリングの対象に含めた(図1参照)。ただし,食事といっても,食事の内容,時間,外食の頻度,摂取カロリーなど,記録する対象の候補は多岐に及ぶ。どれを選択するかはケース・バイ・ケースだが,記録が容易で,目標達成に重要なものを選ぶとよい。
(3)モニタリングシートの作成目標やモニタリング対象が決まったら,次にそれらを記録するシートを作成する。WordやExcelなどで作成してもよいし,ノートなどに手書きしてもよいが,記録方法は簡潔にすべきである。記録が面倒だと,自己モニタリングを継続できない可能性が高くなるためである。近年では,スマートフォンのアプリなどデジタル記録も効果的であるという研究結果が報告されている[10]。こうしたツールを活用することも一つの手段である。
筆者の場合はExcelで図2のようなシートを作成し,自己モニタリングを行った。体重は変化が一目でわかるようグラフで表示し,設定した標的行動を達成できた場合はセルを塗りつぶした。

自己モニタリングの適切な頻度は,対象とする指標の性質などによって異なるが,なるべく頻繁に実施する方が効果的である。筆者は毎日記録を付けていたが,毎日の記録が難しい場合は1週間に一度から始めてもよいだろう。無理のない頻度で継続していくことが重要である。
自己モニタリングのコツ
次に自己モニタリングを継続するためのいくつかのコツを紹介する。第1のコツは完璧主義にならないことである。記録できない日があったからといって,自己嫌悪に陥る必要はない。記録の欠損が続く場合,自分は不真面目だなどと考えるよりも,自己モニタリングの方法や記録ツールなどの変更を考えるべきである。
筆者の自己モニタリングシートには,「ラーメン食べない」という項目があるが,図2の時期は1か月で7回もラーメンを食べている。日々節制していたら,ラーメンを食べたくなることだってある。それでもこの月は目標体重を1.4kg下回っている。常に完璧を目指すのではなく,自己モニタリングが嫌いにならないよう,適度に息抜きをすることも大切なのだ。
自己モニタリングを継続しても,十分な効果を得られないことがある。筆者の場合は体重が停滞し始めた段階でモニタリング対象を追加したり,記録の付け方を変更したりした。例えば図1のモニタリング2期では70kg付近で体重が停滞したため,食事のモニタリングを見直した。具体的には,カロリー摂取量の目標に加え,糖質,タンパク質,脂質量を記録した(図2,下部参照)。なお,「18000歩以上歩く」は1か月で5回しか達成できなかったため,翌月からは除外した。このように,目標を見直したり,モニタリング対象や記録方法を柔軟に変更したりすることが第2のコツである。
実際に自己モニタリングをやってみると,今まで知らなかった自分自身の行動傾向などが見えてくる。目標を達成できたり,自分の目で行動変容を確認できたりすると,自己モニタリングは楽しくなる。SNSを頻繁に使う人は,自己モニタリングの結果を公開し,他者からのフィードバックを得るのもよい方法である。あるいは学校や職場などで,定期的に記録を公表するのもよいだろう。この手法はパブリック・ポスティングと呼ばれ,自己モニタリングとの組み合わせは効果的である[11]。自分なりに楽しむ方法を見つけることが,自己モニタリングを成功させるための第3のコツである。
おわりに
自己モニタリングの対象となる活動は実に幅広く,なおかつ簡単に実施できる。ここで挙げた例以外にも,日々の感情の変化や,無駄遣いを減らすための支出管理など,日常生活で改善したいさまざまな問題に適用できる。今の自分を変えたいと考えている人は,自己モニタリングから始めてみてはどうだろうか? 20kg痩せた筆者のように,それはあなたの人生を大きく変える一歩になるかもしれない。
文献
- 1.VanWormer, J. J. et al. (2008) Int J Behav Nutr Phys Act, 5, 54.
- 2.Baker, R. C., & Kirschenbaum, D. S. (1993) Behav Ther, 24, 377–394.
- 3.Page, E. J. et al. (2020) Perspect Behav Sci, 43, 501–514.
- 4.Tucker, K. L. et al. (2017) PLoS Med, 14(9), e1002389.
- 5. Guo, L. (2022) Int J Ed R, 112, 101939.
- 6.Polaha, J. et al. (2004) Behav Modif, 28, 261–275.
- 7.島宗理 (2012) 心理学ワールド, 58, 17–20.
- 8. Madigan, C. D. et al. (2015) Int J Behav Nutr Phy, 12, 1–11.
- 9.藤巻峻・坂上貴之 (2017) 応用行動分析学:体重減量のプログラム.今田純雄・和田有史編,食行動の科学:「食べる」を読みとく(pp.187–204).朝倉書店
- 10.Berry, R. et al. (2021) Obes Rev, 22(10), e13306.
- 11.Ayvazo, S., & Naveh, M. E. (2024) J Appl Behav Anal, 57, 394–407.
- *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。
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