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心理学史諸国探訪【第29回】

学校法人立命館・副総長/立命館大学総合心理学部教授 サトウタツヤ
文中のWASP(White, Anglo-Saxon, Protes-tant)にかわって最近ではweird(変わっている)という語が使われます。Western, Educated, Industrialized, Rich, Democratic(欧米・高学歴・産業化・裕福・民主主義)の頭文字をとったものです。

サトウタツヤ

アフリカ心理学史入門─②

19世紀末の近代心理学の成立は,科学の方法を用いて目で見ることのできない精神の機能を扱うものであり,その前提にはヒトという種は均質なものだという素朴な前提があるはずです。ところが,近代心理学を発達させた西欧人(WASP=White, Anglo-Saxon, Protestant の頭文字をとった略称)はヒトという種が普遍だと主張しつつも,他の地域の人たちと自分たちが同じであるという前提に納得していたわけではなかったようなのです(ダブルスタンダード)。そこでヒトの中に下位集団を設定して比較するという方法を編み出しました。

心理学における比較の眼差しは性別などにも及びましたが,最も早い時期から比較され劣位に置かれたのがアメリカの黒人たちだったようです。科学の名の下で,肌の色が変数化されて独立変数として設定され,知能などの心的特徴を従属変数に設定するとどうなるでしょう? 知能は,知能検査という道具で「測定」されます。その知能検査の根本には「学校で習ったことを項目に入れると,学校の影響を排除できない」という考えがありました。それ自体は非難されるようなものではないですが,結果として採用された項目は,数字の順唱・逆唱のような抽象的な認知的な課題と,生活習慣を問うような文化負荷の高い課題だったのです。知能の測定を知能検査に依存した場合には,近代西欧社会における個人主義的な能力主義を反映しているので,西欧由来のアメリカ人とアフリカ由来(奴隷起源)のアメリカ人を比べると前者のほうが優れていることになりがちだったようです。

こうしたときに,比較によって優劣をつけるという科学実践を止めるのも重要ですが,アフリカと西欧では人間観や世界観が異なるということを強調することも重要です。こうした流れの中でアフリカ中心心理学(Africentric Psychology)という考え方が広まってきました。アフリカ中心心理学は,「統一的なアフリカの原理,価値観,伝統の動的な顕現である。それは心理学的分析と応用をアフリカの現実,文化,認識論に自覚的に位置づけるものである」とされています[1]

また,アフリカ中心心理学はアフリカ哲学の影響をうけていますが,アフリカ哲学は四大文明の一つであるエジプト文明の紀元前3200~6000年まで遡る西洋哲学よりも古い起源をもつと考えられています。

Kambon[2]が両者の違いをまとめています[3]

表1 世界観の比較(文献2より抜粋)
表1 世界観の比較(文献2より抜粋)

Jackson[4]によれば,アフリカ中心主義研究の枠組みには二つの重要な目的があると言います。①共通の祖先的起源を共有しながら世界中に分散しているアフリカ系の人々の歴史(この国際的な集団はアフリカのディアスポラを表す)の再構築と修正,②ヨーロッパの文化的ヘゲモニーと抑圧への抵抗,です。つまり,奴隷制度によって翻弄されたアフリカの人々が,翻弄した側のヨーロッパ人に対して反省を迫る内容になっています。

この主張では,アフリカこそが文明の発祥であり,そこから各地に連れ去られた人々が,思想を通じて一つにまとまることが大事であり,その上で欧州中心主義に対抗する必要があるということが理解できます。

次号では,アフリカ中心心理学における自己について扱う予定です。

文献

  • 1.Grills, C. (2004) African psychology. In R. L. Jones (Ed.), Black psychology (4th ed., pp.171–208). Cobb & Henry Publishers.
  • 2.Kambon, K. K. K. (1996) The Africentric paradigm and African-American psychological liberation. In D. A. ya Azibo (Ed.), African psychology: In historical perspective and related commentary (pp.57–69). Africa World Press.
  • 3.ここで彼がこだわっているのは,アメリカ人というのはおらず,アフリカ由来のアメリカ人,西欧由来のアメリカ人,というカテゴリーをたてて比較しているところです。
  • 4.Jackson, Y. (2006) Encyclopedia of multicultural psychology. SAGE Publications, Inc., https://doi.org/10.4135/9781412952668.n17

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