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アスリートの心身の可視化と怪我の予測

八斗啓悟
筑波大学人間総合科学学術院心理学学位プログラム博士後期課程/ 日本学術振興会特別研究員DC2

八斗啓悟(はっと けいご)

Profile─八斗啓悟
専門は臨床心理学,スポーツ心理学。筆頭論文に「心理ネットワークアプローチを用いたアスリートに対する個別最適なコンディショニングサポートの可能性」『スポーツ心理学研究』2025, https://doi.org/10.4146/jjspopsy.2025-2503など。

アスリートにとってパフォーマンスの低下は心理的不調につながることも少なくないため,安定したパフォーマンスの発揮が重要になる。そして,安定したパフォーマンス発揮のためには,心身のコンディショニングが必要である。

また,長期的なパフォーマンスの低下にもつながる怪我を防ぐことも重要である。ここでは筆者が行ってきたアスリートへのコンディショニングサポートや怪我の予測に関する研究について紹介したい。

アスリートのコンディショニングの相互作用を捉える

アスリートのコンディショニングでは多くの要因が複雑に関連し合う。筆者は変数の相互作用に着目する心理ネットワークアプローチを用いて個人のコンディショニングのプロセスを表現することを試みた。図1は1人のアスリートが毎日回答していたコンディショニングに関わる変数についての分析例である。

このように,変数同士の相互作用を可視化することで,個別最適なアドバイスが可能になる。例えば,この選手の場合,練習強度が上がると,やる気の向上につながり,その結果,パフォーマンスや睡眠の質が高まるという関係性がある。

また,一方で,痛みが強くなると,不安が高まり,その結果,睡眠の質が低下するという関係性もみられる。以上のことから,この選手の一つの特徴として,不安ややる気といった感情の変化が他の変数の関係を媒介しやすいことがあげられる。

この特徴を踏まえると,不安の対処や,やる気が下がったときの対処を話し合うことが安定したパフォーマンス発揮につながるかもしれない。このように個人のコンディショニングデータを用いて,関連する変数の相互作用を可視化することで個別最適なサポートが提供できると考えられる。

このサポートは,大規模な効果検証は未だ行われていないものの,予備的な効果検証では,不安の減少ややる気の増加といった効果があることが示唆されている。

図1 ネットワーク図の例
図1 ネットワーク図の例(文献[2]より抜粋)
注)実線:正の関連,点線:負の関連。パフォ:パフォーマンス,強度:練習強度,食事:食事の栄養バランスの満足度。

怪我や不調の予兆を捉える早期警戒信号

アスリートにとって怪我は,パフォーマンス低下を招くだけでなく,最悪の場合,競技からの引退にもつながる。そのため,未然に防ぐことが特に重要になる。そこで,筆者は,怪我をしていない状態から怪我をした状態に遷移する前に現れる早期警戒信号をコンディショニングデータから探索した。

特に時間的揺らぎの指標である動的複雑度に着目し検討したところ,コンディショニングデータの動的複雑度は怪我を中程度の予測精度で予測できることが示された。より具体的には,コンディショニングに関する変数の得点が激しく上下した後に怪我が発生しやすいことが示された。[3]

この研究は,怪我の総数が比較的少ないなどの限界はあるものの,特別な機器などがなくても怪我を予測できることを示した。これは,資金力がないチームや中高生の部活動などでも応用できる可能性があり,より多くのアスリートの怪我の発生を防ぐことにもつながるだろう。

以上,アスリートの支援法や研究を紹介したが,以上の研究はアスリートではなくとも,日々熱心に働く人などにとっても応用可能な要素があると考えている。働く人にとってもコンディショニングは大事であるし,怪我はないにしても,健康な状態から不健康な状態への変化を経験する者もいるだろう。

アスリート研究にとどまらず,多くの「頑張る人」への支援につながる研究をできるよう,これからも日々邁進していく所存である。

文献

  • 1.Schiepek, G., & Strunk, G. (2010) Biol Cybern, 102(3), 197–207.
  • 2. 八斗啓悟・清水登大・上田寛・並木伸賢 (2025) スポーツ心理学研究, 52, 77-91.
  • 3.八斗啓悟・清水登大・菅原大地 (2025) 日本スポーツ心理学会第52回大会抄録集, 136–137.

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