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巻頭言

多重知能理論から見たAIの知能

京都大学名誉教授
子安 増生(こやす ますお)

人間がAIとどう付き合うかを検討することが心理学でも重要な研究課題となっている。なお,AIの外部出力ユニットの動きを人間の身体行動に近づけたのが人型ロボットである。

私は,H・ガードナーの多重知能理論を基礎にして認知発達を研究してきたが,その観点からAIの発展について考えてみる。AIの事始めは,1956年にアメリカで開催されたダートマス会議である。H・サイモンらが中心となって,将来はチェスで人間に勝てることを目標に汎用的問題解決プログラムの開発研究をおこなったが,その核になるのは「論理−数学的知能」であった。この目標は,チェス(1997年),将棋(2017年),囲碁(2017年)のそれぞれにおいて世界チャンピオンや名人級のプロがAIに勝てなくなって達成された。

「空間的知能」では画像分析と画像生成の能力が高度化し,「言語的知能」では文章作成,会話,翻訳の能力が向上した。「音楽的知能」では音楽の演奏だけでなく楽曲の生成(作曲)もおこなっている。「身体−運動的知能」は,人型ロボット(フィジカルAI)の開発と商品化だが,現在はアメリカと中国が世界をリードしている。ホンダのASIMO(1986年~2022年)が世界に先行していた時代もあったので,わが国のロボット産業の今後の巻き返しに期待したい。

さて,残るは対人的知能と個人内知能である。「対人的知能」では,AI心理カウンセラーの可能性がある。この古典的な例は,アメリカのJ・ワイゼンバウムが1964年頃から開発したELIZA(イライザ)であり,非指示法で会話をさせるAIプログラムであった。現在では,認知行動療法をモデルにしたWoebotやWysaのようなAIが開発されている。

最後は「個人内知能」としての自己意識の問題である。S・キューブリック監督の1968年の映画『2001年宇宙の旅』では,宇宙船の運航を司るHAL9000というAIがわざと事故を起こして乗組員を死に至らしめ始めたので,船長がHALの基盤を外して停止させようとすると,HALはやめるように「哀願」した。AIが自己意識を持つと人間を超える存在となるというR・カーツワイルのシンギュラリティ説は,SF物語の中に留まっていてほしいが,現在の生成AIは結構「平気でうそをつく」ので,どのように「自己意識」としての行動の美意識を持たせるかが重要な課題である。

今後は,AIを使うだけでなく,AIの「知能」を心理学的に評価する研究が望まれる。

子安 増生

Profile─子安 増生
京都大学名誉教授。博士(教育学)。公認心理師試験研修センター執行理事。日本心理学会名誉会員。1973年,京都大学教育学部卒業。1977年,京都大学大学院教育学研究科博士課程中退後,愛知教育大学助手・助教授,京都大学教育学部助教授,同大学院教育学研究科教授,甲南大学文学部特任教授を歴任。著書(単著)に『生涯発達心理学のすすめ:人生の四季を考える』(有斐閣),『心の理論:心を読む心の科学』(岩波書店),『公認心理師のための基礎心理学』(金芳堂),『基本がわかる 心理学の教科書』(実務教育出版)など。

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