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心理学史諸国探訪【第30回】

学校法人立命館・副総長/立命館大学総合心理学部教授 サトウタツヤ
前号で今回は「アフリカ中心心理学における自己について扱う」と予告をしました。予告をしておくと書く時に楽になると思ったからです。ところが立てたテーマが自己という概念で歴史からは少し離れた内容で理解するのが難しく苦しみました。

サトウタツヤ

アフリカ心理学史入門─③

今回は,歴史というより概念の理解ではありますが,古代エジプトの考え方の根本に迫ります。歯が立たなかったのでNa’im Akbar著『Light from Ancient Africa[1]』第2章のSelfに関する章を通してアフリカの自己について紹介していこうと思います。この本は,心理学の起源が古代エジプト(ケメト)にあることを示した上で,心理学をアフリカの伝統に依拠した「再アフリカ化」の目で再構築することを目指したものです。

まず,アフリカの考え方は同一性や統一性を重視します。西洋の科学が差異を強調し,違いから分類体系を作って(新種の発見はこれまでとは違うことの同定に他ならないということは象徴的です)世界のあり方を理解しようとすることとは対照的です。

現代の私たちは,心理学といえば個人の内面やパーソナリティを分析するものと考えがちです。しかし,アフリカ中心心理学が依拠する古代ケメト(エジプト)の人間観を覗いてみると,そこには「自己」を固定的な単一の存在ではなく,重層的でダイナミックな縦と横につながる「プロセス」として捉える壮大な世界観が広がっています。

例えば,私たちの身体を流れる血を指す「カ(Ka)」。これは単なる生理的な液体ではなく,先祖から「貸与」された知恵と経験の記憶です。私たちは,数千年の歴史を背負った「集合的な自己」の一部としてこの世に誕生するのです。一方で,個人の本質である「バ(Ba)」は人間の魂であり,創造主から与えられた普遍的なエネルギーとして定義されます。「バ(Ba)」は死者の魂であり,人間の頭を持った鳥として描かれます。頭はその人のあり方(自己・人格)を象徴し,羽は魂が死後身体を離れること,また,身体に戻って来ることを象徴していると言います。

The symbol BA >> Human entity
The symbol BA >> Human entity
https://www.pyramidsland.com/blog/ancient-egyptian-symbols

このほか,カビット(Khabit),アブ(Ab),セブ(Seb)があり,単純化すればカビットは感情・感覚,アブは倫理的思考の心,セブは生命の生殖に関わる魂だと言えます。

そして,サク(Sakhu)こそがカ,バ,カビット,アブ,セブの統合体で自己の統一単位であるとされます。エジプトにおける賢者たちは,理性と霊性,肉体と精神といった異なる側面が,バラバラに存在するのではなく,一つのオーケストラのように「相乗効果」を発揮して初めて,真の人間(ホモ・サピエンス)になれると考えました。

以上のような視点は,西洋心理学が陥りがちな「差異の強調」や「個人主義的な能力主義」とは異なる視点であり,日本や東洋の考え方に近いように思います(検証は後日)。

なお,サク(Sakhu)は,ギリシャ語「プシュケー(psyche)」の古代エジプト(ケメティック)語源であるとも言われています。

さて,今回参照した本に限らず,アフリカではスカラベという虫が尊敬されていたと教えてくれます。スカラベ? どんな虫? という人が多いと思いますが,フンコロガシ,という俗名を聞いたことは多いはずです(私はファーブル昆虫記で読んだ気がします)。エジプトでは丸い玉を転がす姿から,「太陽をつかさどる神の化身」として崇められているとのことでした。

The Scarab Beetle symbol
The Scarab Beetle symbol
https://www.pyramidsland.com/blog/ancient-egyptian-symbols

文献

  • 1.Na’im Akbar (1994) Light from Ancient Africa. Mind Productions & Associates.

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