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【特集】

関係流動性と心の文化差─社会生態心理学からのアプローチ

結城 雅樹
北海道大学大学院文学研究院・同大学社会科学実験研究センター 教授

結城 雅樹(ゆうき まさき)

Profile─結城 雅樹
1999年,東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会心理学)。2012年より現職。専門は社会心理学・文化心理学。著書に『Culture and Group Processes』(編著,Oxford University Press),『文化行動の社会心理学:文化を生きる人間のこころと行動』(編著,北大路書房),『名誉と暴力:アメリカ南部の文化と心理』(編訳,北大路書房)など。

はじめに

比較文化心理学会(International Association for Cross-Cultural Psychology)が創設された1970年代初頭から現在に至るまでの半世紀あまり,文化心理学/比較文化心理学の研究は,世界のさまざまな地域のあいだで,認知・感情・行動にまたがる幅広い心理現象に体系的な文化差があることを示してきた。では,人の心はなぜこれほど文化によって異なるのだろうか。

実は,この「なぜ」という問いに答えるための視点は一つだけではない。一口に文化差の原因と言っても,価値観や意味世界,社会化と発達の過程,歴史的背景や社会制度,さらには神経機構や遺伝的な違いなど,さまざまな視点から回答することが可能である。

本稿ではまず,「自己中心的に見える社会ほど,人々が人間関係に積極的に関わる」という一見矛盾した文化差のパターンを紹介する。そして,この一見矛盾したパターンを手がかりに,人の心理を「社会環境への適応の道具」と見なす社会生態心理学の視点を紹介する。その中でも特に,私たちのグループが提案してきた,人間関係をどれだけ自由に選び替えられるかを示す社会環境要因「関係流動性」に焦点を当て,この要因が上記のパターンをどこまで統一的に説明できるのかを論じる。そして最後に,動物行動学で提案された「4つのなぜ」という枠組みを手がかりに,社会生態心理学や文化神経科学などの諸領域が,文化心理学という営み全体の中でどのような位置を占めるのかの整理を試みる。

文化×社会性パラドクス

文化心理学でもっとも広く影響を与えてきた,心の文化差を説明する枠組みのひとつに,ヘーゼル・マーカスと北山忍による文化的自己観がある[1]。相互独立的自己観が優勢な北米社会に暮らす人々は,周囲の文脈から自己を切り離し,独自性と優位性を際立たせ,自己利益を優先しやすいのに対して,相互協調的自己観が優勢な東アジア社会の人々は,自らを対人関係や集団に埋め込まれた存在として捉え,自己よりも他者や集団の利益を重視する1。実際,北米人は東アジア人よりも自らを望ましい存在と見なす自尊心や自己高揚傾向が高く,自己主張が強く,成功を自分の能力のおかげだと説明しやすいなど,いわゆる自己奉仕的な傾向が強いことが数多くの研究で報告されてきた。

しかしその一方で,一群の興味深い結果も得られている。それは,北米人は東アジア人よりも,友人や恋人に対する熱い思いや働きかけ,困難な状況にある他者への共感と援助,他者一般に対する信頼感の高さなど,人と人との関係により積極的に関わるということである[2]。「自己中心的に見える文化の人々ほど人間関係に積極的に関わる」という,この一見矛盾した現象は,どのように説明できるのだろうか。

社会生態心理学の考え方

このパラドクスを解決するための出発点は,私たち人間が本質的に社会的な存在だという事実である。人はひとりきりでは生きられないか弱い存在であり,他者と協力し合うための場である集団や社会を作り上げることで,過酷な自然の中を生き延びてきた。しかし,そのことは同時に,人が集団や社会の中で,新たな課題に直面することも意味する。例えば,非協力的な他者への対処や,資源・地位・配偶者をめぐる競争など,それぞれの社会の中には,人が生きていくうえで乗り越えなければならない課題がある。社会生態心理学では,こうした個人の生存と繁栄に関わる課題を「適応課題」と呼び,私たち人間の心はそれらをうまく乗り切るための「道具」として方向づけられていると考える。これは,「独立的」とされる北米人にも例外なく当てはまる。

またさらに重要なのは,適応すべき社会のあり方そのものが,地域や集団などにより大きく異なるという点である。人々がどのように共に働き,外部からの脅威に共に対処し,資源や地位を配分しているのかといった社会の仕組みやルールの違いは,そこで「どのように振る舞うことが有利か」という適応課題を変え,その結果として心の差異を生み出していく。このように,社会生態心理学は,社会のあり方の多様性と,それに応じて形づくられる人々の心の多様性との結びつきを明らかにすることに役立つアプローチである[3]。宗教制度や親族構造[4],社会規範の強さ・緩さ[5],食糧生産手段[6]など,注目されている社会環境変数は多様であるが,本稿ではその一例として,私たちのグループが注目してきた関係流動性に焦点を当てる。

関係流動性とは

関係流動性とは,人々が友人・パートナー・所属集団などとの社会関係をどれだけ自発的かつ自由に選び,また選び替えられるかの程度を指す[7, 8]。この水準は,国や地域といった地理的な単位だけでなく,学校や職場といった身近な社会集団の間でもしばしば異なる。

関係流動性が低い社会では,対人関係や所属集団が長期的に固定されやすく,地域・学校・職場などで「決められた他者」と付き合う割合が高くなる。そこでは,不満があっても,別の関係や集団へと移動することは簡単ではない。これに対して関係流動性が高い社会では,対人関係や所属集団の選択と乗り換えが比較的自由であり,新しい他者や集団との出会い,新たな関係づくり,関係間の移動がしやすくなっている。

図1 世界39の国と地域における関係流動性の分布(文献9より)
図1 世界39の国と地域における関係流動性の分布(文献[9]より)

図1は,私たちのグループが2018年に発表した,世界39の国と地域における関係流動性の平均スコアを示したものである。赤色で示された関係流動性の高い国々には,従来個人主義的とされてきた北米,西欧,北欧,オセアニアなどが含まれる。一方,青色で示された関係流動性の低い国々には,日本を含む東アジアと東南アジア,中東・北アフリカ,東欧などが位置づけられる。なお,中南米諸国は,従来は東アジアと同じ集団主義文化と見なされてきたが,関係流動性の水準はおしなべて高いことがわかった[9]

高・低関係流動性下での適応課題と適応心理

関係流動性の違いは,それぞれの社会での適応課題を変え,人々はその違いに応じて異なる心理を身につけていく。

まず,関係流動性が低い社会を考えてみよう。ここでの主要な適応課題は,限られた人間関係の中で,長期的に平穏な生活を送ることである。人間関係の選び替えが難しく,「逃げ場」が少ないため,一度関係が悪化してしまうと,そのダメージは大きくなる。そのため,他者との関係を悪化させないこと,周囲から悪く評価されないことが重要な目標になる。日常生活では,「空気を読む」ことや自己主張を抑えることが適応的になりやすく,周囲から拒まれることを避けようとする拒否回避傾向[10]や,他者からどう見られているかを過度に気にする対人恐怖的な傾向[11]も,こうした環境の中では一定の機能を果たすと考えられる。

これに対して関係流動性が高い社会にも,いくつかの重要な適応課題が生じる。ひとつは,多数の潜在的な関係候補の中から新しい魅力的な他者を積極的に見つけ出すことである。そのためには,見知らぬ他者もひとまず善良で信頼できる存在だと見なす「一般的信頼」が役立つ。一般的信頼が高いほど,初対面の相手にも恐れずに声をかけ,新しい関係を築きやすくなるためである[12]

もうひとつ,意外かもしれないが,高関係流動性社会では「自分が魅力的な他者から関係の相手として選ばれること」も重要な課題になる。対人関係や集団を自由に出入りできるこの社会は,一見すると気楽でストレスの少ない世界のように思えるかもしれない。しかし,関係の選択肢が多いということは,魅力的な相手には常に「ライバル」がいることを意味する。つまり,魅力的な相手と友人や恋人になったり,人気のある集団に加入して所属し続けたりするためには,自分も相手から「この人と関係を続けたい」と選んでもらう必要がある。そうでなければ,別のより魅力的な人に友人や恋人,あるいは集団の中の席を奪われてしまうかもしれない。

このような環境のもとでは,自分の望ましい側面を積極的かつ効果的にアピールすることが求められる。具体的には,自尊心や自己高揚傾向の高さに加え,自らの協力性を示す共感性や迅速な援助行動が有効な戦略となる。また,強い愛情や友情を抱き相手を特別扱いしたり,自分の秘密を打ち明けたりするなど,友人や恋人に対する明確なコミットメント表明も重要な役割を果たす。実際,前述の39か国比較研究では,関係流動性の高い社会ほど人々の自尊心が高いことに加え,友人に対する親密性と自己開示,援助行動の傾向も強いことが示された。さらに,多くの二国間比較研究では,参加者それぞれが感じている身の回りの人間関係の流動性が,自己高揚傾向[13]や一般的信頼[14]や情熱的な愛[15]などの文化差を統計的に説明することも示されている。こうした結果は,「自己中心的に見える社会の人々ほど人間関係に積極的に関わる」というパラドクスが,関係流動性の高い社会状況における適応心理という比較的シンプルな論理で理解しうるのだということを示している。

関係流動性理論の意義と今後の問い

関係流動性理論の第一の強みは,「社会的動物」という人間の本性に根ざした説明枠組みである点にある。高度な社会依存性という人間の普遍的な特徴を前提に,人々の心の文化差を,性質の異なる社会環境への適応として位置づける。こうした発想は,行動生態学や文化進化研究といった,人間を含む社会的生物の社会行動や文化構築を適応性の観点から分析する文理横断的な諸領域とも接続しうるものである。

第二の強みは,実証的な説明力である。関係流動性の代表的な測定法として,人々に,自分の身の回りでの人間関係の選びやすさを評価してもらう関係流動性尺度がある[14]。これを用いることで,個々人を取り巻くローカルな環境の性質や国や地域といったより大きなレベルでの関係流動性を推定でき,そのスコアが自尊心や一般的信頼,自己開示や援助行動など,さまざまな心理指標とどのように関連しているかを実証的に検討することができる。

今後の重要な問いのひとつは,現在進行形のさまざまな社会的変化が,関係流動性と人々の心にどのように影響するのかである。例えば,大都市への人口集中,SNSやマッチングアプリといったより広範な他者との接点を生み出す技術の普及,また少子高齢化や人口減少といった社会構造の変化は,人間関係の安定性と選択の自由度を大きく変えるだろうか。さらには,そうした変化が,拒否回避や対人不安,自尊心や一般的信頼といったこれまで文化差が見られていたさまざまな心理を揺り動かすことになるのだろうか。関係流動性理論は,こうした未解決の問題に取り組むための有力な足場を提供することが期待される。

文化心理学の4つの「なぜ」

最後に,社会生態心理学が,人の心の多様性を探る文化心理学の中でどのような位置を占めているのかについて考える。かつては,それぞれの社会で歴史的に伝承されてきた価値観や意味世界を説明原理とする文化意味論アプローチと,社会環境への適応に焦点を当てる社会生態心理学アプローチとの間で,激しい論争が展開されたこともあった。しかし私は,これらのアプローチは,文化差の原因をどの時間スケールや観点から捉えるかが異なるだけであり,本質的に対立するものではないと考える。

ここで参考になるのが,動物行動学者ティンバーゲンが提唱した「4つのなぜ」(four questions)の枠組みである[16]。彼は,動物の行動の原因を探る際には,至近要因(どのような内的過程・メカニズムが働いているか),発達要因(個体の発達過程でどのように形成されるか),機能要因(その行動がどのような適応上の役割を果たしているか),系統要因(進化の歴史の中でどのように生じてきたか)という,少なくとも4つの異なる視点から答えることができると論じた。そしてこの4つの視点は,互いに排他的な説明ではなく,むしろ補い合う関係にある。

私は,この枠組みが,現在急速に発展している文化心理学の下位領域にもそのまま当てはめられると考える(表1)。まず,心の文化差の神経・生理・遺伝メカニズムを扱う文化神経科学は,至近要因に対応する[17]。人々が文化の中でどのように文化特有の心理的特性を身につけていくのかという過程を扱う文化発達科学は,発達要因に対応する[18]。人々が暮らす社会環境の中で,文化特有の心理傾向がどのような機能的役割を果たしているのかを問う社会生態心理学は,機能要因を扱う領域である。そして,意味体系や社会構造,制度や規範といった文化そのものがどのように生まれ,伝承され,変化してきたのかを探る文化進化学や歴史心理学は,系統要因に対応する[4]

表1 文化心理学の4つの問い:ティンバーゲンの枠組みによる下位領域の整理
表1 文化心理学の4つの問い:ティンバーゲンの枠組みによる下位領域の整理

重要なのは,これらの下位領域が互いに対立するのではなく,互いの理論や知見を取り込み合いながら,多層的な説明を組み立てていくことである。例えば,従来関係流動性の低かった日本社会で,人々の適応を助けてきた「出る杭は打たれる」といった競争回避的なことわざが,人材市場や恋愛市場の流動性が高まった後にも文化的意味システムの一部として残り続けるのか,それとも次第に姿を消していくのか。そのどちらの道筋をたどるのかを決める要因や,大きな転換点がいつ訪れるのかといった問いにも,「文化心理学の4つのなぜ」を総動員して取り組むことができるだろう。このように,本稿で重点的に扱ってきた社会生態心理学と関係流動性理論は,主流の文化心理学と対立する「異端」ではなく,4つの「なぜ」のうち特に「機能」の問いという重要な一角を担うものである。文化意味論からの研究や,発達・進化に関する研究と結びつけることで,人間の心の多様性の「何が」「なぜ」「どのように」生まれてくるのかを,より立体的に理解できるようになることが期待される。

文献

  • 1.Markus, H. R., & Kitayama, S. (1991) Psychol Rev, 98(2), 224–253.
  • 2.Kito, M., Yuki, M., & Thomson, R. (2017) Pers Relatsh, 24(1), 114–130.
  • 3.Oishi, S., & Graham, J. (2010) Perspect Psychol Sci, 5(4), 356–377.
  • 4.Henrich, J. (2020) The WEIRDest people in the world. Farrar, Straus and Giroux.
  • 5.Gelfand, M. (2018) Rule makers, rule breakers. Scribner.
  • 6.Talhelm, T. et al. (2014) Science, 344, 603–608.
  • 7.Yuki, M., & Schug, J. (2012) Relational mobility. In O. Gillath et al. (Eds.), Relationship science (pp.137–151). American Psychological Association.
  • 8.Yuki, M., & Schug, J. (2020) Curr Opin Psychol, 32, 129–132.
  • 9.Thomson, R. et al. (2018) Proc Natl Acad Sci, 115, 7521–7526.
  • 10.日下部春野・前田友吾・結城雅樹 (2024) 社会心理学研究, 40, 1–10.
  • 11.Sato, K., Yuki, M., & Norasakkunkit, V. (2014) J Cross-Cult Psychol, 45, 1549–1560.
  • 12.山岸俊男 (1998) 信頼の構造. 東京大学出版会
  • 13.Falk, C. F., Heine, S. J., Yuki, M., & Takemura, K. (2009) Eur J Pers, 23, 183–203.
  • 14.Yuki, M. et al. (2007) Development of a scale to measure perceptions of relational mobility in society. CERSS Working Paper, 75.
  • 15.Yamada, J., Kito, M., & Yuki, M. (2017) Evol Psychol, 15, 1474704917746056.
  • 16.Tinbergen, N. (1963) Z für Tierpsychol, 20(4), 410–433.
  • 17.石井敬子 (2025) 文化神経科学. 勁草書房
  • 18.Keller, H. (2007) Cultures of infancy. Psychology Press.
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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