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【特集】

多様性に現れる普遍性─文化心理学はどこへ向かうのか

北山 忍
ミシガン大学心理学部 ロバート・ザイアンス冠教授

北山 忍(きたやま しのぶ)

Profile─北山 忍
1979年,京都大学文学部心理学科卒業。1987年,ミシガン大学Ph.D.,オレゴン大学助教授。1993年,京都大学総合人間学部准教授。2003年,ミシガン大学教授,京都大学特任教授。科学的心理学連合(APS)の会長などを歴任,現在は脳・行動科学諸学界連合の会長を務める。単著に『自己と感情』(共立出版),『文化が違えば,心も違う?』(岩波書店)。

文化心理学の30年の歩み

心理学という学問は,人間の「心」に普遍的な法則を見いだそうとする営みとして発展してきた。私自身,この30年あまり,その営みが文化という視点をどのように「忘れ」,そして再び「思い出してきたのか」を,研究者として間近に見てきた。

心の普遍性を追究する─それ自体は,心理学の最も魅力的な知的挑戦である。しかし,その普遍性は,どのような人びとを対象に,どのような社会を前提として語られてきたのだろうか。

他の社会・行動科学と同様,心理学の知見の多くは,欧米の人びとを対象に,欧米の研究者によって生み出されてきた。文化や社会の違いを十分に考慮しないまま「人間一般」を語る─そのような心理学は,実は西洋の文化に根ざした「ローカル・サイエンス」にすぎないのではないか。こうした問題意識のもと,他の文化に新たな洞察を求めて,文化心理学という潮流が1990年代初頭に立ち上がった[1]

幸い,近年ではこの考えも一定の広がりを見せている。例えば,10年ほど前には,現在の心理学は,欧米文化に基づいた「WEIRD(直訳したら,奇妙な)」(Western, Educated, Industrialized, Rich, and Democratic)なものであるという主張が注目を集めた[2]

文化心理学は,人間の心が文化的環境の中でどのように形成され,維持され,変化していくのかを問う。ここでいう文化とは,芸能や思想など,社会のいわゆる「文化的」営みだけではなく,人びとの思考や行動を方向づける価値観,制度,社会的仕組み,そして日常の常識や慣習などのことを指す。この意味での文化は,人の「行動環境」そのものである。この「行動環境」は,さまざまな地域の自然環境・生態条件から派生し,そこに現れる稲作・交易などといった人の営みを介して,宗教・素朴理論・常識・慣習などの複合体として成り立っている[3]

文化心理学は,こうした「行動環境」,すなわち「文化」が心理過程にどのように組み込まれ,それらを形づくるのか,そのメカニズムを明らかにしようとする学際的分野である。

『文化が違えば,心も違う?』が問うもの

私自身,文化心理学誕生の当初からこのテーマを長年追いかけてきた。近著『文化が違えば,心も違う?:文化心理学の冒険』(岩波新書)では,これまでの研究を総括しながら,文化と心の関係を一つの命題にまとめた。それは,「文化と心は,たがいに作り合っている(mutual constitution)」という考え方である。

例えば日本や東アジアでは,他者との調和を保つことが重んじられ,人びとは自分を「関係の中の自己」として理解する傾向がある[4]。このような文化では,感情の表現も他者の気持ちを損なわぬよう慎重に調整される[5]。これに対し,欧米では自己の一貫性や内的感情の誠実な表出が重視される[6]。こうした違いは,単なる行動様式の差ではなく,社会構造や歴史的環境に根ざした心のあり方そのものの差異である。

文化とは,人間が生きる「行動環境」であり,そこでうまく機能するように心が適応してきた結果が文化差として現れる。そして,その心のあり方が文化を再生産し,維持する。この双方向的なプロセスこそが,文化心理学の中心にある発想である(図1)[7]

図1 人の心理と行動環境の相互構成関係を描いた概念図(文献7より)
図1 人の心理と行動環境の相互構成関係を描いた概念図(文献[7]より)
文化的実践が心を形づくり,その心が再び文化を再生産する循環的過程を示している。

「心は文化の中で育まれる」:実証的研究が示すこと

文化心理学の基本命題─心は文化の中で育まれる─は,多くの経験的研究によって裏づけられてきた。例えば,感情表現や感情理解の文脈では,文化が「何に注意を向けるか」を規定することが明らかになっている。欧米の人びとが言語的内容の明確さや自己表現の一貫性を重んじるのに対し,日本人は声の抑揚,沈黙の間,表情の微妙な変化など,関係的な手がかりを通じて感情を読み取る傾向がある(図2)[8]。これに対応して,欧米人は,顔に表れた表情そのものから感情を読み取るが,アジア系の人は,目つきと語調から同様の推論をする傾向が強い[9]。このような差異は,自己表現を通じて個人の内面を示す文化と,相互理解を通じて関係を保つ文化との対照を映し出している[10]

図2 日米で異なる言語的情報処理(文献8に発表のデータに基づく)
図2 日米で異なる言語的情報処理(文献[8]に発表のデータに基づく)
日本人では語調と意味が不一致な場合に意味判断が遅れる一方,アメリカ人では意味と語調が不一致な場合に語調判断が遅れる。これは,日本語では語調が,英語では意味が優先的に処理されることを示している。

幸福感の研究では,文化によって「幸福」の意味づけが異なることが示されている。欧米では幸福がポジティブ感情や自己達成と結びつくのに対し,日本や東アジアでは「関係の調和」や「他者への感謝」が幸福の中心を占める[4]。幸福を感じる,その経験そのものが,文化的価値観を反映している。

文化は,単に個人の経験を形づくるだけではない。しばしば,気づかれないうちに,大きな社会変動,社会現象の核となることがある。例えば,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの際,国ごとに感染の広がりに大きな違いが見られたが,その理由の一つに「関係流動性(relational mobility)」という文化の一側面がある[11]。関係流動性が高い社会では,比較的自由に新しい関係を築き,古い関係を解消できる。一方それが低い社会では,関係は古くからのネットワークに限られる。関係流動性が高いのは,アメリカ合衆国やラテンアメリカである。一方,日本をはじめとする東アジア諸国は非常に低い。感染症は,人を介して広がるため,関係流動性が高いとは,すなわち,感染率が高いということになる。この点は,関係流動性の指標を用いた国際比較で示されている(図3)[12]

図3 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの際の,関係流動性で異なる世界36か国おける(A)感染者発生から日毎の感染者増加の程度と,(B)死者発生から日毎の死者増加の程度。(文献12より)
図3 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの際の,関係流動性で異なる世界36か国おける(A)感染者発生から日毎の感染者増加の程度と,(B)死者発生から日毎の死者増加の程度。(文献[12]より)
感染者,死者ともに関係流動性の高い国々で増加のスピードが速いことがわかる。社会関係の開放性が感染症拡大の構造的条件となりうることを示している。

これらの研究は,心理過程が個人の内部に閉じた普遍的メカニズムではなく,社会的・文化的文脈の中で動的に働くものであることを示している。文化を理解するとは,「行動環境」の性質を分析することであり,これには,人類学的なエスノグラフィーは欠かせない。しかし,同時に,再現可能な形で明示的な指標を用いて,文化の効果を数値ではっきりと示して初めて万人に説得力を持ちうる。文化心理学の理論は,こうした実証的知見に裏づけられながら,人間の心のあり方をより具体的にとらえようとしている。

文化の論理を読み解く

文化心理学は,当初から単に「違い」を記述するのではなく,むしろそういった記述を越え,各文化を支える「文化的論理(cultural logic)」を明らかにしようとしてきた。文化の背後には,それぞれの社会が長い時間をかけて育んできた人間関係や自己理解の仕組みが存在し[13],それは,社会関係ばかりでなく,思考方式や[14],さらには,脳機能や構造にも反映されている[15]

東アジアには,稲作を基盤とする生態系のもとで形成された「調和による協調」の文化論理がある[16]。共同作業と相互調整が生存の鍵であったため,集団内の良好な人間関係が重要視される(図4)。一方,中東や地中海地域では,交易と名誉の文化に根ざした「自己主張的協調」が見られる[17]。サブサハラ・アフリカでは,個人の成功を通して集団の繁栄を目指す「自己促進的協調」が特徴的であり,南アジアには,議論や主張を通じて関係を維持する「議論的」な形態が指摘されている。これらの知見は,近年のレビューにまとめられている[18]

図4 稲作は,協調性と包括的認知を育む(筆者撮影)
図4 稲作は,協調性と包括的認知を育む(筆者撮影)
写真は,バリ島の棚田「スバック」と,共同管理を前提とした伝統的灌漑システム。こうした生態的条件が,相互依存的な協調と認知様式を長期的に形成してきた。

このように,「協調」という一つの概念の中にも多様な文化的形態が存在する。文化心理学の使命は,この多様性の背後に潜む共通原理─人間が社会的存在として生きるための心理的メカニズム─を明らかにすることにある。この共通原理,すなわち普遍性は,どこか一つの地域だけ,例えば欧米圏だけ調べてその結果を無理やり一般化したものであってはならない。むしろ,多様性をまずは認めて,そしてその実証的・理論的な分析から醸し出されるものでないといけない。

協調の多様性の理解に向けて

では,このような協調の多様性はどこに起因し,どのように発展してきたのか? 私は,この問いこそが文化心理学の今後10年の大きな課題,アジェンダではないかと思う。人類の歴史は,他集団とのコンフリクト抜きにはあり得なかった[19]。敵対的外集団に対処し,生き残った文化のみが今日残存している。このように考えると,これらの文化は,敵対的外集団に対して最も効率的な対処行動を選択してきた集団であるとしてよい。

まず第1に,外集団による敵対行動があった場合,いかなる集団でも「反撃」するのかもっぱら「防衛」するのかという選択を求められよう。さらに,いずれの選択をするにしても,ではどのように「反撃」なり「防衛」なりをするのかより具体的な方略の選択も求められる。このような「選択」は必ずしも意図的になされる必要はない。むしろ試行錯誤を繰り返し,特定の生態環境でうまく機能する戦略が淘汰され学習されていく。東アジアにおける集団のまとまりを基軸とする協調,あるいは,中東における自己主張による協調といった協調の多様な形態は,このような生態環境に応じた戦略が長い時間の中で慣習化したものではないのか?

さらに,この第2の点が重要なのだが,どのような戦略が現れてくるかによらず,戦略を効果的に遂行し,集団の生存を図るためには,自己利益は差し置いてまずは自集団の他者のために行動するという「協調性」が必要不可欠である。集団全体の協調性が高いと,他集団との争いに生き残る可能性が増し,生き残った集団は必然的に協調的になっていく。

このようにして協調性の形態は生態条件により制約され,同時に協調性の程度は,他集団との競合により淘汰される。こうして多様な協調傾向は,歴史的,進化的に長期間にわたる生態環境と集団間の争いのもとで出現してきたのではないか─そのように考えている。

そしてこのような戦略は,それに対応した心性を要請する。よって,ここには,「文化と心のリアルタイムなフィードバック・ループ」が時間を超えて現出してきているのではないか?

この分析は,今後ますます理論的,実証的に深められていくことであろう。ただ,現在知られている範囲でも,①地球の各地に存在する協調文化は,それぞれの地域の生態環境に対応した心理特性を示し[20],同時に,②協調性の程度は,それぞれの地域が歴史的にどの程度さまざまな脅威に直面してきたかと関連する[21]という証拠に合致している。さらにこの分析を進めることで,近代西洋の独立文化も,実は,この地域の特殊な社会・生態環境に適合した,いくつもある潜在的均衡点の一つであることが示されるのではないだろうか?

文化心理学の未来:多様性に現れる普遍性

従来の心理学は,心とは普遍的なものであると信じるあまり,欧米のデータと理論を過度に一般化してきた。文化心理学が目指すのは,普遍性を多様性に置き換えることではない。むしろ,文化の多様性を通して心の普遍的原理を再構築することである。そのためには,多様な文化を考慮に入れることが不可欠だし,同時に心理学だけでなく,神経科学,遺伝学,歴史学,人工知能研究など,他分野との協働もますます必要になるであろう。文化と心の相互作用をモデル化する試みも進み,「文化と心のリアルタイムなフィードバック・ループ」を可視化する研究も始まってきている。

独立・協調といった自己のモデルの分析に端を発した文化心理学は,いまや「周縁的なサブフィールド」ではなく,心理学の中心に位置づけられるべき領域となった。そして,生態環境,社会組織,脳の可塑性,さらには文化習得の遺伝的基盤など,多層的な文化システムの解明へと拡張してきている。現代の文化心理学は,文化を単なる背景変数としてではなく,心理・制度・生態・生物学的基盤を結びつける媒介システムとしてとらえる。人間はどの社会でも,その生態環境に適応する形で社会制度や関係構造を形成し,その構造を通して心を発達させる。この適応のプロセス自体が普遍的であり,そこにこそ文化心理学が見いだすべき普遍性がある。

心理学が再び「文化」を真剣に考え始めた今,私たちは人間の心を文化的進化的産物として理解する新しいパラダイムの入り口に立っている。文化心理学は,異なる文化を比較することを通じて,人間という存在の柔軟さ,そして多様な生き方の可能性を明らかにしていくことであろう。

文献

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  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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