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ニューロモデュレーション─精神疾患治療の先進的アプローチ

光藤 崇子
独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 心理療法士

光藤 崇子(みつどう たかこ)

Profile─光藤 崇子
2005年,九州大学大学院人間環境学府行動システム専攻博士後期課程修了。博士(人間環境学)。2024年より現職。専門は認知心理学,認知神経科学。著書(いずれも分担執筆)に『心理学ビジュアル百科』(旺文社),『よくわかる情動発達』(ミネルヴァ書房),『現代の認知心理学7 認知の個人差』(北大路書房)など。

ニューロモデュレーションとは,神経系に生じた機能異常に対し,脳に電磁気刺激を当てることにより神経活動を変化または調整(モデュレート)し,症状を緩和しようとする技術で,軽度の侵襲性を有するものから非侵襲のものまでさまざまなものがあります。薬物療法で寛解に至らない,あるいは症状が持続する精神疾患や神経疾患を有する患者さんへの新しい治療法として,研究開発が盛んな領域です。なお,外部からの電気刺激を一切行わず,脳の信号を可視化することで患者さん自身がその活動を調整するニューロフィードバックもニューロモデュレーションの一つと考えられます[1]

現在精神科の主な疾患において,精神療法,心理療法[2]などに加え,第一選択となる治療法は薬物療法(特に対象に合わせた抗精神病薬や抗うつ薬)です。たとえば,うつ病にはSSRI / SNRI,統合失調症には定型・非定型抗精神病薬が推奨されています。しかしながら,既存の薬物療法では期待される十分な効果が認められない,あるいは薬剤そのものへの拒否反応や副作用が強い患者さんも数多くいるのが現状です。主な精神疾患の中でも統合失調症やうつ病は,いずれも患者全体の中の約3割が適切な服薬と休養を一定期間続けても効果が表れない「治療抵抗性」を示すことが知られています[3, 4]。このような患者さんには薬物療法のみでは十分な治療の効果が得られません。そこで,当該患者さんに対して,既存の治療法に加えて第二,第三選択の治療法としてニューロモデュレーションによって神経活動の異常を改善し,難治性の精神症状が軽減されるかを検討するアプローチが注目されています。本記事では以下に精神科医療現場で実際に適用されている電気けいれん療法と反復経頭蓋磁気刺激法を紹介します。

図1 ECT治療環境と治療機器(写真提供:肥前精神医療センター)
図1 ECT治療環境と治療機器(写真提供:肥前精神医療センター)
(左)治療室ECTユニット,(中)サイン波治療器,(右)パルス波治療器

電気けいれん療法:ECT

電気けいれん療法(Electroconvulsive Therapy: ECT)は,麻酔をかけて眠った状態で,頭皮上の電極から脳に電気(サイン波やパルス波の電流:図1参照)を流す治療法です。1938年にイタリアで考案され,さまざまな批判を受けながらも,現在では確立された精神科身体治療の一つとなっています。日本でも1940年代から実施されてきました。ECTの作用機序は現在も明らかになってはいませんが,電気刺激前後で脳波の変化が起こり,それが身体および精神症状の改善につながります。

ECTは,精神疾患のさまざまな症状に対して効果を発揮します。治療対象者は,薬物療法が無効であったり,十分な量の薬物療法を行っても改善しない重い症状をもつ方や,自殺企図があり緊急に症状を改善させる必要がある方が対象となります。うつ病,双極性感情障害(躁うつ病)による症状,統合失調症による幻覚・妄想,カタトニア(緊張病)などの状態にある患者さんへの適用が検討されます。的確な判断のもとになされたECTは精神・神経症状の劇的な改善をもたらし,その効果は薬物治療を補完し,ある局面では薬物治療をしのぐほどであるとされます。ちなみに,「けいれん」という名称になっていますが,実際にはけいれんは起きません。静脈麻酔と筋弛緩薬を用いる方法が標準となっており,患者さんが眠っている間に治療は終了します。

反復経頭蓋磁気刺激:rTMS

反復経頭蓋磁気刺激(repetitive Transcranial Magnetic Stimulation: rTMS)は,頭皮付近で磁場の変化を繰り返し発生させ,それによって引き起こされる電流を利用して脳の働きを正常に制御していく治療法です。米国や欧州で治療適応となったのは2008年ですが,日本では2019年6月に治療としての保険適用が認められました。rTMSでは,瞬間的に磁場を変化させることで磁気の力を電気に変え,脳をピンポイントで刺激することができます。これによって動きが鈍っていた脳の一部が活性化されることにより,心身のバランスが回復するとされています。その結果,気分が晴れたり,頭がすっきりしたり,不眠が解消されたり,意欲や興味が自然とでてくるようになるなどの前向きな効果につながります。なお,rTMSの治療対象者は,現在,抗うつ薬による薬物療法において十分な治療効果が認められない中等度以上のうつ病患者(18歳以上)に限られています(双極症は適用外)[5]

rTMS治療の現在と今後の展望

rTMS治療の効果について,その有効性を検討した結果が日本精神神経学会の治療指針に明記されています[5]。それによると,うつ病に対するrTMS治療効果を偽刺激を与えた場合と比較すると標準化平均差(Standardized Mean Differences: SMD)で0.45,単極性うつ病のみに限るとSMDは0.60でした。SMD = 0.5は中等度の効果とされるため,現在のところrTMSそのものの効果は大きくはないと言えます。また,ECTの抗うつ効果には劣ることが示されています[5]

rTMSは,患者さんへの負担も少なく脳の活動状態を正常に導く有効な治療法の一つですが,その効果はまだECTの効果には及ばず,症状を治すための絶対の方法ではありません。ECTよりも侵襲性が少なく,医師以外の医療従事者(作業療法士,看護師,公認心理師)でも研修を受ければ施術が可能となることなどにより,保険適用外の疾患に対しても自由診療の枠でrTMS治療を施し,高額の医療費を請求するクリニックなどが散見されます。治療に際しては,その疾患がrTMS治療の対象となりうるか,安全性は担保されるかなどについて十分な知識を得ることで,適切で効果的な診療に役立つツールとして使用されることが望まれます[6, 7]

文献

  • 1.Hirano, Y., & Tamura, S. (2021) Curr Opin Psychiatry, 34, 245–252.
  • 2.精神科医師が診察の際に行う面接を「精神療法」,心理士が行う面接を「心理療法」として区別される。
  • 3.McIntyre, R. S. et al. (2014) J Affect Disord, 156, 1–7.
  • 4.Siskind, D. et al. (2017) Can J Psychiatry, 62, 772–777.
  • 5.日本精神神経学会精神科医療機器委員会rTMS適正使用指針作成ワーキンググループ (2024) 反復経頭蓋磁気刺激適正使用指針 令和6年4月(改訂)版.
  • 6.宮内哲 (2025) 臨床神経生理学, 53, 228–231.
  • 7.Tsujii, N. et al. (2024) PCN Re, 3(2), e190.

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