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チームの心理的安全性の醸成に向けた手法開発

甲谷 勇平(こうたに ゆうへい)
Profile─甲谷 勇平
修士(システムデザイン・マネジメント学)。専門は産業・組織心理学,経営学(組織行動論,組織学習論)。株式会社ZENTech 研究開発部研究責任者,一般社団法人HR Buddy研究所主任研究員を兼任。
今日の組織は,かつてないほどの不確実性と複雑性に直面しており,組織・チームの変化対応や有効性の向上に向けて人々が知識や意見,質問,懸念などをタイムリーかつ率直に提供するよう促す必要性がある。そこで注目されているのが心理的安全性である。心理的安全性とは,チーム風土の一つで「『このチームでは対人関係上のリスクを取っても安全である』という信念を共有していること」と定義されており,心理的安全性があることでチームメンバーはチームの有効性向上に向けて率直な意見や素朴な疑問の共有を恐れることなくできるようになる[1]。近年ではこの心理的安全性が産業・組織心理学や社会心理学,教育心理学といった心理学領域をはじめ,経営学や教育学,医療・福祉といったさまざまな領域で研究がなされている。
心理的安全性との出会い
私はこの心理的安全性の重要性を大学体育会の活動で身をもって経験した。私が主将としてチームをまとめる際,「誰も何も言ってくれない」という課題に直面した。一人ひとり個別に意見を聞けばみんな意見を伝えてくれるのに,それがチーム内に共有されず,リーダー陣ばかりが疲弊していた。そこで私は「いいチーム」とは何か?について向き合った。その答えの一つが心理的安全性だった。チームメンバーは意見を「言わない」のではなく,嘲笑されたり,自身の評価が下がったりすることを恐れて「言えない」のだと気づいた。実際に心理的安全性はすでに多くの先行研究でチームの有効性を高めるための土壌部分として機能することが実証されている。学部を卒業した私は,これを心理的安全性研究が未発達であったスポーツ領域で活用したいと考えた。しかし,どのようにスポーツチームの心理的安全性を醸成すればいいのか,手段を知らなかった。そこで分野横断で心理的安全性の介入研究をレビューし,介入手法の開発に必要な観点を整理した2。そして,整理した観点を反映する介入手法の設計に着手した。
分野横断で心理的安全性の向上に挑む
チームの心理的安全性はチーム風土の一つであり,メンバー個々人の認識が共有されてはじめてチームの心理的安全性となる[3]。つまり,チームの心理的安全性は目に見えない存在であり,直接介入することができない。介入するのはチームメンバーの相互作用や共有メンタルモデルの変容である。そこで私はチームの心理的安全性の介入手法を開発するために,元々はソフトウェア工学で用いられてきた能力成熟度モデルという組織のプロセス改善モデルから着想を得て手法を開発した4。私はこの手法を「心理的安全性能力成熟度モデル(PS-CMM)」と名付けた。PS-CMMはチームの心理的安全性の向上に向けた取り組み実践を単発・散発で終わらせるのではなく,取り組みの成熟度という観点から継続的にチームの心理的安全性の向上に向けたチームメンバー間の相互作用変容に向けた取り組み実践を改善できる手法である。そして現在は,PS-CMMのアップデートに向けて,経営学のチームトレーニング研究や組織学習理論を援用しながら改善を図っている。
おわりに
私が考える「いいチームとは何か」についての明確な定義はまだできていない。ただ,心理的安全性はその一要素となりうる。引き続き心理的安全性の醸成に向けて,分野横断的な視点から「正しさ」と「有用さ」が両立する手法の開発に取り組みたい。そしていつの日か「いいチーム」とは何か,そしてどのように作って行くことができるのかを語ることができる日に向けて研究に励みたい。
文献
- 1.Edmondson, A. (1999) Adm Sci Q, 44(2), 350–383.
- 2.甲谷勇平他 (2025) 産業・組織心理学研究, 38(2), 193–216.
- 3.Edmondson, A. C., & Lei, Z. (2014) Annu Rev Organ Psychol Organ Behav, 1(1), 23–43.
- 4.甲谷勇平他 (2025) 日本創造学会論文誌, 28, 64–82.
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